誤想する者、される者


『なんで私がこんな目かに遭うかな…!?』

原田が色々と勘違いしている一方、美涼は死にたくないがために死ぬ気で走っていた。
よりにもよって追いかけてきた新選組隊士は背が高く、その分歩幅も広いし手には槍。
少しでも気を緩めたらその長モノで今度は自分が背中に穴を空ける事になるだろう。
もう下手をしたら足がもつれる速度で走っているおかげで、段々と隊士と距離が開いてきた気はする。
年がら年中ビーチサンダルで生活してた女をなめんなよ。
…自慢できる事ではない。
とりあえず、あの隊士にはさっさと諦めて貰いたい。
適当に路地を曲がる瞬間に見える男の顔は、なんというか、殺気立ってる。
すごく怖い顔をしている。
身体的にも精神的にも色々と死にそう。
そして、

「平助!その男捕まえてくれ!!」

曲がろうと思っていた通りの角から、新たな浅葱色の集団。
槍を持った男の声に集団の先頭にいる若い男は状況を把握したのか、

「おう、任せろ左之さん!!」

と反応して後ろの隊士達に指示を出し、道を塞ぐように列をなしてこちらに走ってくる。
周りを見ても、体を滑り込ませる事ができる様な所もない。
完全に挟み撃ちにされた。
困った。
体力も限界である。
どうするんだこの状況。
前方の集団が目の前に迫り、

『…ふッ!?』

いよいよ足がもつれて膝が折れる。
待て、このスピードで地面にキスするとか顔面すり減るどころじゃない。
痛みを想像して体を仰け反らせる。
顔じゃなくても痛いのは嫌だけどね!
目をつぶって衝撃に備えた。
ズザーッと地面が擦れる音が響く。
…体が痛くない。
転がったり倒れたりもしてない。
目を開けば、目の前にいたはずの隊士達がいない。
片方だけ足を伸ばしてしゃがんでいる体勢から体を起こし、服に付いた埃を払いながら後ろを振り向けば、口が開いたままの隊士達。
転ばずにまさかのスライディングをしたらしい。
地面の砂の跡からして、先頭にいた若い男の股下をすり抜けた様だった。
…どうしたらそんな状態になる?
ビビりすぎて目をつぶってたからわかんないや。
隊士達の視線が痛い。
どんな間抜けな姿で滑ったんだ。
そろそろその顔で私を見るのはやめて下さい恥ずかしい。
足の間をすり抜けるなんて、私より背が低いのに先頭にいた隊士さん足長いなモデルか。
…もし転んでたら、その隊士もまきこんでたな。
被害者が二人になるところだった。
大事故を神回避したのと最悪の事態を想像して背筋がヒヤッとしたおかげで汗も息切れも動悸も何もかも吹っ飛んだ。
気が抜けたし疲れたしで、もう走れる気力はない。
体力も限界。
相手も逃がしてくれそうにないときた。
…こうなると、諦めてお縄を頂戴されてしまうしか選択肢はなさそうだった。
もうどうにでもなれ。

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