未来人、人生最悪の一夜


…面倒な事になった。

人通りのない路地を小走りで移動し始めれば、しばらくして感じる違和感。
自分以外にもう一つ、足音がする。
あきらかに後をつけられている。
そろそろ走るのも疲れてきた。
止まるべきではないけどきつい。
足を止めて後ろを見れば、そこには手拭いみたいな布で顔を目元まで隠しているガタイのいい男。
腰には刀が二本。
浪士だろうか。
まさか、これが噂の辻斬りというものか?
京の治安が悪いの忘れてた、どうしよう。

『…なんなんですか、貴方は。』

そういえばこの男、質屋にいた気がする。

「お前、先ほど質屋で随分と良い物を持っていたではないか。あれで全部ではなかろう。あの水晶と金をあるだけ全部俺によこせ。」

カツアゲかよ。
…辻斬りなら気づく前にバッサリやられてるか。
辻斬りじゃなかったけどこれはこれで厄介だ。
面倒事は避けたいというのに。
ここは穏便に済ませたい。

『あの、…ちょっと話し合いま、』

「早くよこせ。痛い目を見るぞ?」

『…。』

コイツ、人が下手に出たのを偉そうに…。
人の話は無視か。

『い、…石と何かを交換するとか…。』

「いいからよこせと言っているのがわからぬのか、お前は!」

いらつきだした男が私の胸ぐらをつかみ、男の片方の手は腰のポーチに伸ばされる。
こうなったら離せよこせの取っ組み合いである。
…穏便のおの字もない。
もう必死だ。
ポーチを取られたら生活が出来なくなってしまうのだ、それだけは避けたい。
男の体を蹴り飛ばして距離を取る。
その勢いでふらついた私はとっさに何かを掴みながら尻餅をついた。
みしり、と嫌な音が聞こえて手元を見れば折れた木の板。
取っ組み合いをしている場所は漬物屋か何かの裏らしい。
古くなった大きい樽を外に出してあったらしく、それを掴んで板を外側にひん曲げた様だった。
板が外側に突き出している。
蹴り飛ばした男が気づけばすぐそばに迫っており、腰の刀に手を伸ばそうとしている。
カツアゲでは済まない。
怪我というより命が危ない。
逃げるにも距離が近すぎる。
男の腕を掴み刀を抜かせないようにと再び始まる取っ組み合い。
もうとりあえず逃げたい。
その一心で男の両腕を掴み、

『いい加減にしろって!!』

突き飛ばした。

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