「…えーと。これは、どういう状況っすか?」
 

バイトから帰ってきたばかりで、現状が全く掴めていないセトは、目をぱちくりさせながら問う。すると、カノがニコッと良い笑顔で口を開いた。


「実は……(省略)…ってなわけ。」

「狽「やいやいや!それじゃ、わかんねえっすよ。何っすか、省略って!」

「いやー。この説明さっきもしたし…読者さんもいい加減、うざったいと思ってるだろうから。優しさ?」

「カノ、おまっ!世界観壊すようなこと言うな!」


ボコッとカノの頭を勢いよく殴るキド。そして、その痛さにうずくまるカノ。この二人は、相変わらずである。
そんな光景を苦笑しながら見つめていたモモは、カノの代わりに今までのことを丁寧に説明してあげた。



「うーん。もしかして、話せないんすかね?」


現状を理解したセトは、未だに自分に抱きついて離れない少女を見つめながら言った。
自分と同じか、そのくらいの年齢だとは思われるが…セトの身長は高いせいだろうか。彼女が酷く小さく見える。

少女は、ピクッと震えるとゆっくり顔を上げた。そして、肯定するように頭を縦に振る。
それを見たモモは、ほっと胸をなで下ろす。話せないという事実がわかっただけでも大きな進歩だった。


「それなら、何か書ける物を…。」

「………(ふるふる)」

「?文字も書けないのか。なら、手話とかは、」

「………(ふるふる)」

「…君、それで今までどうやって生きてきたの?」


カノの言葉に少女は、どう説明すれば良いのだろうか、と頭を悩ませた。確かに話すことも書くことも出来ないで生きていくのは難しい。
それに、せっかくセトに出会えても、彼に伝わらなくては意味がないのだ。どうしたら、自分をわかってもらえるのだろうか。


必死で考えていると、キドが口を開いた。


「セトの能力を使うしかないんじゃないか?」

「えっ!」

「「あー。」」


(幸助の、能力…?)


何の話か読めない少女は、不思議そうに彼らを見つめる。
キドの言葉にモモとカノは、名案だ!という顔をしたが、セトだけは動揺しつつ首を横に振った。


「嫌っすよ!俺が能力使うの嫌いだって知ってるっすよね?!」

「仕方ないだろ。このままじゃ、拉致があかないからな。名前と何故泣いているのか、だけでも良いんだ。…頼む。」

「……はあ。わかったっす。」


キドに説得させられたセトは、溜息をつくと諦めたように頷く。そして、先ほどから不思議そうに此方を見つめてくる少女と目を合わせた。


「ごめんね。ちょっと、盗ませてもらうっすよ。」

「……?」


申し訳なさそうにセトは、少女の肩を両手で掴む。そして、能力を使った。


(っ!?赤い、目…?)


突然、セトの目の色が変わったことに驚く少女。自分の知らないセトがいるのだ。動揺した少女は、後ずさろうとする。しかし、セトに肩を押さえられているせいで動けなかった。

暫くの間、二人は目を合わせていた。キド達もその様子を黙って見つめている。
すると、終わったのだろうか。いつもの目の色をしたセトが、信じられない!と言うような顔で口を開いた。



「……え。君は、あのときの子犬、っすか?」

「っ!……(コクッ)」



セトのその言葉に、少女は初めて笑顔を見せた。



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