あれから数ヶ月。幸助は、私に毎日ミルクを買ってきてくれた。
私は、幸助があまりお金を持っていないことを知っている。だから、尚更その大事なお金を私のために使ってくれることが嬉しかった。


「美味しい?」

「わんっ!」

「あはは。はなこは、僕の言葉がわかるのかな?」


幸助は、嬉しそうに微笑む。

『はなこ』とは、幸助がつけてくれた名前だ。名前をつけてくれるのは嬉しいけれど、その名前は…ちょっとね。
しかし、私が何を言っても人間の彼には伝わらないのだから不便である。


お皿にいれられたミルクをペロペロ舐めていると、幸助は目を細めながらぽつり、と言った。


「僕ね、今日も虐められたんだぁ。」

「……。」

「どうして、友達になれないんだろう。…僕が臆病で泣き虫だからかな?」

「くうん…。」

「はなこ…励ましてくれてるの?」


私が幸助の頬を舐めると、彼は「ありがとう。」と薄笑いを浮かべた。
こんな優しい少年がどうして虐められてしまうんだろうか。

幸助には、家族も友達もいないらしい。
それは、私と同じだった。だから尚更、私は彼の助けになりたいと思ったのだ。

私は、幸助の服の裾を口にくわえ、ぐいっと引っ張った。


「うわっ!え、何?お散歩?」

「わんわんっ!」

「……よし、行こうか!」


幸助はすっと立ち上がって、太陽みたいに微笑んだ。

…やっぱり幸助は、笑顔が一番似合うよ。
そう伝わったら良いのになぁ。

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