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カラオケ大会に期待を込めながら、次の場所へ。次は先程の左側の扉だ。
直永、最上「「お、おおおおお……!」」
直永、最上「「書庫だーーーー!!!!」」
自分は勿論、いつもやる気のなさそうな最上までもこのテンションの上がりよう。この部屋は書庫のようで、個人の所有するものとしてはなかなかの規模だ。そして、入部の動機がやや不純であっても、やっぱり俺は物語や文が好きなんだ、と改めて思った。
最上「あれ……、鈴羅木先輩……」
鈴羅木「…………」
書庫の一角、和服で本を読んでいるのは、4年生の鈴羅木雪人(スズラギ ユキト)先輩だ。集中しているのか、俺たちには気づいていないようだ。先刻あんなに声をあげたというのに、恐れ入る。
正直、鈴羅木先輩は今年度に入ってからほとんど活動に参加しておらず、あまり交流をしたことがない。かなり頭の切れる人、という印象ぐらいしかない。それから、何故かいつも和服である、ということぐらいか。
鈴羅木「……ああ、君らは……えーと……」
俺たちに気づいたのか、鈴羅木先輩は本を置いてこちらに問いかける。
直永「直永っす」
最上「……最上です」
鈴羅木「悪いね。一年生の顔と名前、全然分からないもんで」
直永「いえ、気にせんでください」
最上「正直、先輩が合宿に参加するとは、思ってませんでした」
直永「(えっこの子なんで急に先輩に噛みついてんの!?)」
鈴羅木「……俺が参加しちゃ、悪いかい?」
最上「いえ……、ただ、今までほとんど活動に参加してなかったのに、逆に気まずいんじゃないのかなって」
鈴羅木「まあ……ね。俺も、別に今年は参加しなくてもいいかなーって思ってたんだけど、あいつが、参加しろってうるさくてねー。」
最上「あいつ……?」
鈴羅木「ま、一人いるんだわ、執拗に俺に絡んでくる変わり者が」
最上「それって―――」
直永「先輩!!読書の邪魔をしてすみません!我々はこの辺で失礼しますね!あとはどうぞごゆっくり!!」
最上「おい……直永……」
そのまま、最上を引きずって書庫を出る。なんだかよく分からんが、異様にピリピリしたあの場の空気に耐えられなかった。
鈴羅木「……やれやれ」
直永「もがみんどうしたのさ!?突然鈴羅木先輩に突っかかって……!」
最上「……俺、あの先輩苦手かもしれない」
直永「いやそんなの見てりゃ分かるよ!?」
最上「なんか、全部諦めたふりして、でもまだ縋ってる、結局手を伸ばすことを止めてない……のが、なんか……」
直永「…………ごめん、もがみんが何言ってるか、よく分かんない」
最上「…………。いや、いいよ。これで2階は全部みたいだ。下に降りてみよう」
先に階段を下りる最上に、俺は何て声をかけたらいいか、分からなかった。ただ、さっきの最上は、辛く、苦しそうだった。だからこそ、余計に何も言えなかった。
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