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まだ夜時間までは時間があるが、どうしたものかと思いつつ個室の方へ向かうと
直永(ん?波風くん?何してるんだろ?)
個室棟の辺りをうろうろする波風くんの姿があった。
直永「波風くん?何してるの?」
波風「ひっ!!!な、直永くん……!!」
直永「いやそんなに驚かなくても…」
波風「す、すみません…」
声をかけただけですごく驚かれた。やっぱり波風くんから嫌われているのだろうか。
直永「どうしたの?こんなところうろうろして」
それでも会話を続けようと試みる。
波風「え、えっと…あ、あの…」
直永「ああ、無理して言わなくてもいいよ。…じゃあ、俺個室戻るわ。またあし―――」
波風「あ、あの!ぼ、僕、笠先輩のところに、い、行こうか、迷ってて…!」
これ以上彼と会話を続けるのは無理そうだと、会話を切り上げようとしたが、波風くんから返答を得ることができた。そして、それは俺にとって意外なものであった。
直永「笠先輩のところ…?」
波風「は、はい。」
意外だ。そう思った理由は、笠先輩と波風くんの2人が、それほど仲がいいというイメージが持てなかったからだ。2人で一緒にいるところもほとんど見たことがない。
波風「へ、変だって思いましたよね…。ぼ、僕と笠先輩、そ、そんなに仲いいわけでもないし…」
図星。
波風「で、でもあの、あ…あ…、」
直永「あ?」
波風「……憧れなんです。笠先輩」
波風「ぼ、僕、こんな性格なので、な、なかなか人と打ち解けられなくて…、あ、あの、皆さんのことがき、嫌いだからとかじゃなくて…。
で、でも、そんな僕に、笠先輩は、よ、ようこそ文芸サークルに、って、か、歓迎してくれて…。ぼ、僕が一人でいるときも、な、なにかと声かけてくれて…。ぶ、部長だからそうしてるだけなのかもしれないんですけど、ぼ、僕にはそれが、嬉しくて…」
直永「波風くん…」
波風「か、笠先輩って、ちょっとチャラいですし、て、適当なところがありますけど、み、皆先輩に着いていってますよね…。ぼ、僕も、そんな人になりたいんです。せ、先輩みたいな、人望のある、み、皆に慕われる人に…。ぼ、僕みたいな根暗な人間が、な、何を言ってるんだって話ですけどね…。
す、すみません!こ、こんな僕の面白くもない話を聞いてもらってしまって…!」
直永「いや、波風くんがこんなに自分の思ってること話してくれたの初めてだったから、なんか嬉しかったよ」
波風「…ええ?」
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