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鈴羅木「まあ、誰が誰に対しどう思うかなんて勝手だ。俺はあんたの意見を否定しないさ。…肯定もしないがね。
だが、どうして俺の生き方に不快感を示す?あんたと俺は今までほとんどろくに会話したこともない。疑問こそあれど、そうハッキリ不快感を示されるのは、俺もそこまで寛大じゃないものでね、いい気分はしないさ。
…そこで俺は、今の最上くん、あんたの意図にひとつ仮説を立てた。あんた、今の自分と今の俺を重ねてるんじゃないか?
つまり、あんたの方こそ、そこの彼、……直永くんに、甘えてるんじゃないか、ってこと」
直永「え???」
門音「ちょ……雪人くん!!」
最上「……っ!?」
鈴羅木「俺からしてみたら、最上くん、あんたの方こそ多少好き勝手やっても自分の元から離れていかない直永くんに依存しているように見えるけどねぇ?
そこに、自分と重ねられる人間が出てきちゃあ、間接的に自分の姿を見るってことにもなる。あんたは俺を通して、自分自身にイラついているんじゃあないのかい?」
最上「…俺、が、直永に依存、してる……?」
鈴羅木先輩からの反論に、最上はたじろぐ。表情を見るに、予想外の反論だったのだろう。
鈴羅木「別に、後輩をいじめるつもりはなかったんだけどねぇ…」
溜め息をつき、鈴羅木先輩は席を立ち、そのまま食堂を出ていってしまった。
門音「あ、あのね!」
暫く重い沈黙に支配されていた食堂だったが、その沈黙を門音先輩が破った。
門音「雪人くん、今はあんな感じで誰に対しても冷たいけど、前までは、そうじゃなかったんだ。雪人くん、私たちの一つ上の先輩たちと仲が良くてね、いつもサークルで笑ってたんだ。
それから、私たちの2つ下だから…、舞彩ちゃんたちと同い年の後輩に七瀬(ナナセ)くんって子がいて、雪人くんその子と特に仲が良かったなぁ。
…でも、当然先輩たちは卒業するし、七瀬くんも、4月からサークルどころか学校も辞めちゃったみたいで…。そこから、雪人くんほとんどサークルに行かなくなっちゃったんだ。」
静かな食堂に、門音先輩の声だけが響く。
門音「雪人くんはね、きっと、人と触れあうのが怖くなっちゃってるだけなんだ。仲良くなっても別れが来る、それぐらいなら、初めから仲良くしなければって思っちゃってるんだ。それは仕方のないことだと思うよ。
でも、だから、私は雪人くんの傍にいる。私は雪人くんの前からいなくならないよ、って。なーんかうざがられてるっぽいけど、また雪人くんが一人になるよりましだよ。」
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