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大学に入学して初めての夏休み。
今日から俺、直永或(ナオエ アル)が所属する「文芸サークル」の一週間の合宿だ。
市内の駅からバスに乗ること一時間。人気のない森のなかにある洋館。毎年この洋館で合宿を行うらしい。
バスが停留所に停まる。ここで降りたのは我々サークルのメンバーだけのようだ。
???「よっしゃ、全員いる?一旦点呼とるぞー!」
部長で3年生の笠先輩の掛け声で、一度部員が一同に介す。その数20人。下手したら一クラス分の人数だ。
笠「……19、20。よし、全員いるな。んじゃあ、こっからもうちょっと歩くから、はぐれないように」
部長が先導し、それに続々と先輩達も続く。
直永「更に歩くのか……」
ふあぁ、と、一つ欠伸をしながら、自分もその列に続く。
30分ほど森の中を歩いただろうか、それは突然現れた。
「おお……」「すげぇ……!」「思ったよりガチだ……!」
感嘆の声を上げているのは一年生たちだ。話でしか聞いていなかったその洋館は、ミステリーで出てきてもおかしくない、重々しさと不気味さを醸し出していた。
???「うんうん、いいリアクションだねぇ」
???「懐かし〜、私達も一年の頃、こんなだったね〜」
俺たちの様子を見て、先輩たちはニコニコ笑う。そりゃあ、私立の小さい大学の、たかが1サークルが、毎年こんな立派な洋館を貸し切りで使えると知ったら、こんなリアクションにもなると思う。
笠「それじゃあ、石野田先輩、鍵開けて貰っていいっすか」
???「はーい」
笠先輩に促されて4年の石野田先輩が扉の前に立つ。
少しして、ガチャリと大きく音が鳴る。
石野田「よし、開いたよー!それじゃあ皆さん、お入りくださいませー」
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