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石野田先輩とお酒談義を交わしてから部屋を出た。3つめの扉を開けてみると、外の建物に続く連絡通路になっているようで、俺たちはわくわくしながらその建物へ足を運んだ。
その建物も、先の洋館と同じく雰囲気のある建物、という感じだが、こちらは幾分か新しさを感じさせる。早速玄関を開けると、正面に大きな扉があった。そこを開けてみると、
直永「た、体育館!?」
扉の先には、学校の大きさの半分ほどの、まさしく体育館があった。ご丁寧に壇上のステージまである。
直永「なんかもう、ここまでくると洋館ってレベルじゃないなー!」
最上「……倉庫にボールとかもある……」
直永「すげーな、これなら息抜きに体動かすこともできるな!響とか喜びそー!」
最上「……俺はやらないけど」
直永「相変わらず辛辣だね!!」
体育館には誰もいなかったので、俺たちはそのまま体育館を後にした。と、そこで、玄関の右側に赤と青の扉があることに気づく。俺たちは青の扉を開けた。中はどうやら更衣室のようになっている。ということは、と更衣室の奥にある扉を開けてみた。その先にあったのは、予想通り、一面の水色が映える室内プールだった。水は張られていないが、メンバー全員が楽しむことのできる程の規模はあるように見える。
直永「本当、なんでもあるんだなー、ここ」
???「或。……最上くんも」
???「……。」
直永「おお!理久弥!それに井能くん!!」
俺に話しかけてきたのは、一年生で、幼なじみの一人、柿涅理久弥(カキネ リクヤ)と、同じく一年生の井能木ノ葉(イノウ コノハ)くんだ。
柿涅は基本的に頭がよくて冷静だ。……ムカつくが顔も整っていて、はっきり言ってモテる。だが怒らせると怖い。そして俺は怒った時の柿涅に口で勝てない。必ず言い負かされるのだ。……絶対怒らせたくない。そして、その柿涅がある日突然連れてきたのが井能くんだ。彼は柿涅以外とはほとんど会話をすることはない。完全に心を閉ざしてしまっているようだ。井能くんについて何度か柿涅に尋ねたこともあるが、上手くはぐらかされてしまい、結局分からずじまいだ。この合宿で仲良くなりたい人物の一人だ。
直永「しっかし凄いよなーこの洋館!体育館にプールまであるとは思わなかったよ!」
柿涅「そうだよね。先輩から聞いたんだけど、こっちの建物は別館で、数年前に新しく建てたらしいよ。この合宿のために」
直永「はー、金持ちはスケールが違うなー」
最上「…………2人がプールにいるなんて、なんか意外」
柿涅「…………ああ、俺たちも2人と同じ。木ノ葉と色々見て回ってるんだよ」
井能「…………。」
柿涅「ここ、水を張れば普通に使えるね。誰か……、笠先輩か門音先輩あたりが、遊びたいとか言い出しそう」
直永「分かるー!そしたら念願の水着回だな!うっひょー!!」
最上「…………。」
柿涅「…………。」
井能「…………。」
直永「ねぇだれか、せめて反応しよ!?俺は悲しいよ!!!」
柿涅「……じゃ、僕らは別の場所に行くよ。二人とも、また後で」
直永「……おーう」
そう言って二人はプールから出ていく。正直、井能くんといる時の柿涅はいつもより近寄りがたい雰囲気だ。本人がそれに気づいているかどうかは分からないが。
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