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Ya ne mogu zhit bez tebia!


※本文の一部を抜粋



 俺は、イラついていた。
 今までに無く、イラついていた。周りでビクビク怯えてるクラスメイト等が視界に入って、それすらにもイラついた。つーかいっそ切れそうだ。
 だが流石に今の俺でもこのまま無闇に暴れたらやべぇっつー事は分かるから、席に座って机に突っ伏すようにしてひたすら耐えている。


(……クソッ、これも全部ノミ蟲のせいだ…)


 …そう。不本意ながらにも俺が今、ここまで苛立っているのは、ノミ蟲―折原臨也―が原因だった。

 毎日のように俺を散々からかっておちょくり、仕舞いには俺がブチ切れるまでイラつかせては逃亡する、あのノミ蟲が、だ。――現れないのだ。3日も。
 何時もなら遠くに居ても分かるあの匂いもしねえし、姿も全く見えやしない。


(……あの野郎、一体何処に…、)


 と、そこまで考えてハッとする。…何で俺はアイツの事を気にしてるんだ?
普通ならアイツに接触せずに済んだ、とここは喜ぶところだ。…決して、ヤツの姿が見えねえってだけの理由で気にかけてやるような、そんな間柄じゃあ、無い。


(………無いっつーのに)


 ……何でたかが3日見かけなかっただけで、こんな気になんだよ。………意味分かんねぇ。
 俺はそんなムシャクシャした気持ちを晴らすように、自分の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。


「…くそっ………調子狂う」
「何が?」
「!?」


 思わず、といった感じで俺はボソリとそう呟く。すると、何時の間に近づかれたのだろう。突然近くで聞こえたその声に驚いた俺は、腕に顔を埋めるようにして机に突っ伏した体制から、反射的に顔を上げた。すると目の前に立ってたのは――


「…新羅か」
「あはは、誰だと思った?その様子だと臨也が気になって仕方ないみたいだねっていたたた!痛い!痛いよ静雄君!無言で俺の腕を握り締めるの止めて!折れる!折れるっアアアごめんなさいすみませんでしたぁぁ!だからお願い捻らないで!雑巾絞りとか懐かしいけどやめて!千切れちゃう!…あっでも愛及屋烏(※1)って言うし、どうせならセルティとお揃いって事で首の方が嬉しいかも、」
「うるせぇ黙れ変態が」
「理不尽すぎるよ静雄君!けれど僕は挫けないよ!何故なら僕はセルティの為ならどんな汚名だろうと喜んで被るからね…!」
「………あー、分かった。分かったから、落ち着け」
「僕は何時でも落ち着いてるよ!って、あれ?静雄君も妙に落ち着いてるけど、さっきまでイラついてたよね?」
「んなのお前のせいでどっかいった」
「あ、そう?なら良かった」
「………サンキュ」


 そう言うと、えー何が?と言ってへらりと笑う新羅。
 ……多分だが、こいつなりに俺を落ち着かせようとしたんだろうな、コレ。ただ、なんつーか……落ち着かせるっつーよりも毒気抜かれたっつーか呆れたっつーか…あー…あれだ、脱力したってのが一番近いかもしんねぇ。
…まあともかく、方法はどうであれ大分気分はマシになった、気がする。


(…そういやコイツ、気になる事言ってたな)


「…なあ、新羅」
「ん?何だい静雄君」
「…お前さっき、俺があのノミ蟲の事が気になって仕方ない、みたいな事言ってたよな。…何でそう思った?」
「ああ、それは静雄君が臨也の席をやたら気にしてたからだよ」
「…………は?」
「…あれ?もしかして自覚無かった?一昨日はそうでもなかったけど、昨日あたりからやたら後ろの席気にしてたじゃないか」
「………………マジ…か…?」
「うんマジマジ。てっきり自覚有りかと思ったんだけど…そっかー、無かったのか」

 失敗したなー、なんてよく分からない事を新羅は呟いていたが、それを気にする程の余裕が今の俺には無かった。つーかそれどころじゃねえ。


(……アイツの席を、見てた…?そんな記憶ねえよ…)


 しかも新羅が言うには昨日から、だ。……駄目だ、それこそ全く覚えてねえ…。
 唖然とする俺を余所に、新羅は話を続ける。


「まあ、その内自覚するだろうけど…本当君たちは2人して鈍いよねぇ」
「……」
「それに臨也も臨也だ。どうせ来てるなら俺に聞かずに自分の目で見ればいいのに…」
「……おい、ちょっと待て」
「ん?」
「アイツ学校に来てやがるのか…!?」
「来てるには来てるよ。教室には顔出してないみたいだけどけどね」
「あ?じゃあ何でお前知ってんだよ」
「だって僕、数学の振り分け授業が奇数だから臨也と一緒だもの。静雄君と京平君は偶数だから会えなくても仕方ないよ」


 ね?とまるで我侭な子供に言い聞かすかのように話す新羅に若干の苛立ちを覚えながらも、俺はさっきの言葉について考える。


 …要するにだ。あいつはこの教室には来てないが、移動教室の授業のみは受けてるって、事か?
 だが、確か俺にもアイツと同じ移動授業がいくつかあったはずだ。だとすると1度くらいは俺と遭遇してもおかしくねえ。…なのに、今だ遭遇どころか、影も形も見えやしないかった。


「…新羅、ちょっと聞きてぇ事がある」
「何々、改まってどうしたの?」
「……アイツ、俺の事を避けてるのか…?」
「うん」
「…即答かよ」
「え、だって本当の事だし」
「…何だって突然避けられなきゃいけないんだよ」
「うーん、残念だけどその理由は俺からは答えられないんだよね…」
「……あ?」
「わー!待って待って切れないで!当たり障り無い程度で説明するけど、今回のは臨也のすっごいデリケートな部分が関わってるから僕から口出せる事じゃないの!」


 …どうやら無意識の内に睨みつけてたみたいで、流石にもう懲りたのだろう、かなり慌てた様子でそう訴えてきた。おかげで新羅の発言にかなりイラっとしてた様子の俺はこれまた無意識に、今度はヤツの望みどおり首を掴もうと腕を持ち上げかけて、…ピタリと止まった。


(…でり、けーと?)


「…………あの、ノミ蟲がか?」
「………うん、静雄君の言いたい事は分かるよ。人を好きだ愛してる、なんて気持悪い事を言ってるかと思えば、その愛し方がどれもこれも異常だし、人が嫌がる事を平気でするし、回りを容赦なく巻き込んで自分だけは逃げたりするし神経図太いし、正直人間ってカテゴライズには入れたくないような奴だもんね、臨也って。…静雄君がそう言う気持ちはよく分かるよ」
「おい誰もそこまで言ってねえよ。軽く愚痴入ってんじゃねーか」
「…けど、やっぱりあんなのでも一応人の子なんだよね。…弱いときは、とことん弱いよ。本人は必死にそれを隠してるみたいだけど」
「………」
「ちなみに僕が何でそんな事知ってるかって言うと、ホラ。臨也と僕って中学からの友人だから一緒に居る時期が長いし、一応これでも僕は医者の端くれだからね。自然と分かっちゃったって言うか。……まあ、臨也の場合ちょっと特殊なんだけどね」

 だから余計なお世話かもしれないけど、ついつい心配しちゃうんだよねぇ、なんて言って苦笑いする、目の前のコイツ。
それを見て俺は、これはきっとこいつの本心からの言葉なんだろうな、なんて事を漠然と思った。


(…それだけ仲良いんだな、こいつら)


 そう思いながらぼんやりしていると、突然。…胸の奥がチクリと痛むような刺激が、走った。


「…あ?」
「ん?どうかしたのかい?」
「あ、いや……何でもねえ」


 思わず、といった感じで口から出てしまった言葉を、聞き取ってしまった新羅に誤魔化すようにする一方俺は、……内心、かなり動揺していた。



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※オフ本へ続く。

※1 愛及屋烏(あいきゅうおくう)・・・愛憎の情はその人だけでなく、その人に関係するものにまで及ぶこと。




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