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Aufs geschlosne Aug' die Sehnsucht,




「……はあ…」

会社の奥の一角に、まるで人目から隠すかのように設置された喫煙室。つまるところ、穴場だ。
そこで俺は、誰も居ないそこで煙草をふかしながら溜息をついていた。

(……くそ、会いてえ)

そんな事を、思いながら。


***


それは本当に偶然だった。

その日は残業のせいで終電はとっくに終わってたが、最近残業続きでいい加減家に帰りたい、と思った俺は我慢出来ずに徒歩でたらたらと家に向かって歩いていた。
その途中視界の端に何かが入りり、何だ?と思って見てみると、…路地裏で誰かが絡まれていた。
……そういやここ、治安悪いんだっけか。


「……はあ」


助けてもどうせ怖がられて逃げるだけだ。
その事は良く分かっていた。…けれど、どうしても見捨てる事が出来ずに、結局俺は何時もの様に路地裏へと歩みを進めた。

近付くにつれ、徐々にハッキリと見えてくる人陰。…やはりと言うか、カツアゲだった。…おいおい3対1かよ。

ギャハハ、と嫌な笑い声が路地裏に響く。耳障りで仕方がねえ。
ちなみに壁に追いやられている男は、俯いていて顔が良く分からなかった。…まあ仕方ないよな、こんな状況じゃ。
そう思って俺は声をかけた。


「…おい、お前らいい加減にしろよ」
「あ?何だよおっさん。俺達になんか用?」
「あーもしかしてー、人助けしようと思ってますぅ?正義の味方参上!みたいなぁ?」
「ギャハハハ!!それどこの勘違い野郎だよ!マジ受けるんですけど〜」


……駄目だ、思ってた以上の雑音だ。聞くに堪えねえ。……イライラする。


「…さっさとどっか行け。今なら何も、」
「何、マジで正義の味方ごっこなわけ?うぜえな」
「ねーねーこのおっさんもぉ…やっちゃう?」
「いいんじゃね!?こいつ何話しても喋らないし詰まんねーんだよな〜」
「………」


ブチッ


「…さっさと、消えろっつってんだろぉぉがぁぁあぁあああ!!!」

丁度目の前に立っていた男に向かって腕を振り上げて、降ろす。それに気が付いた男はとっさに避けようとするが…おせえ。そのまま頭部を殴打する。続いて左に立っていた男にそのまま回し蹴りを食らわす。
ドサリ、と崩れ落ちる音が2つ、路地裏に響いた。…やべ、ついキレちまった。これどうすっかな……放置で良いか。


「…え、ちょ、マジかよ」
「………おい」
「ひっ」
「もっかい言っとくぞ。…消えろ」
「……は、はひいいいいい」


あー、やりすぎたか…?なんて情けなく逃げる男の姿を眺めていると、カツアゲされていた男から声を掛けられてその存在を思い出す。…きっとコイツも逃げるんだろう。そう思うと気が重かった。


「あー…大丈夫か?大丈夫なら俺はもう行く…、」
「…君、名前は?」
「……は?」
「……名前、教えてくれない?」

予想外の言葉に驚いていると、応えない俺に焦れたのか同じ事を言って男が顔を上げる。そして見えた、そいつの顔。
……随分とまた、美形だな、こりゃ。


「ねえってば」
「…ん?あー…悪い、……平和島静雄だ」
「…へいわじま、しずお」


まるで言葉を確認するかのように喋る男の声に、むず痒くなった。…こいつ、無駄に良い声してるから余計に……痒い。


「しずお、しずお…シズ、…シズちゃん」
「あ?」
「うん、シズちゃん。これが良い」
「…何言ってんだお前?何だシズちゃんって」
「勿論、君の事に決まってるでしょ。…ね、シズちゃん。覚えておいて。俺達もう1度会えると思うから」
「……はあ?」
「だから、今日の事は絶対に忘れないで?約束ね」

何言ってんだこいつ、と思った。
けどそれ以上に……驚いた。…こいつ、逃げない。今までの奴らは皆逃げ出したのに…それどころか、変なあだ名まで。……そんな事言われたのは、初めてだ。
…何なんだ、こいつは?

「あ、やばいそろそろ帰らなきゃ。…またね、シズちゃん」

そう言って男は路地裏を去ろうとする。…ちょっと待て。俺の名前を聞いといて手前の名前は名乗らねえのかよ?
そう思うと無性に知りたくなった。…俺の事を怖がらない、男の名前が。


「……待て!…手前の名前は?」


叫んで呼び止めると驚いたのか、少し目を見開きながら立ち止まった。
…少し間があってから男は答えた。


「…臨也。……助けてくれてありがとね」


そう言って男は、笑った。


――ドクン


「………は、」
「次会う時、楽しみにしてる」

そういい残して男…臨也は去っていった。


――ドクン、ドクン


胸が、苦しい。顔が、熱い。
…ちょっと待て。これって…あれじゃねえか?


「…参った。………マジかよ…」


…俺はどうやら、臨也の笑顔で落ちたようだ。


***


あれから早2ヶ月。未だに臨也に会っていない。
…まあ、あの後すぐに企画の仕事が入ってついさっき終わったから…仕方が無いのかもしれないが。……けどなあ。

(何時になったら、会えるんだろうな)


「……はあ…、」
「何溜息ついてるの?」
「あー…ちょっとな……ん?」
「何、俺に言えない様な事な訳?…シズちゃん?」
「…は?臨也…!?っあっづぅ!」
「わっ熱そー…大丈夫?」


大丈夫な訳ねえだろ!…と叫びたかったがそれどころじゃない。…くそ、驚きすぎて思わず灰を手の上に落しちまった。
……いや、それよりもだな。


「…何で、ここに居んだよ」
「何でって…もう1度会えるって言ったじゃん。忘れた?」
「忘れてねえよ。…ここの関係者だったのか…」
「んーまあそうだね。重役みたいなもんだし」
「…そう、か」


成る程、だから分かったのか…。あん時俺、会員証首にかけたままだったからな…。


「…まあ、前からシズちゃんの事は知ってたんだけどね」
「は?何でだよ」
「君ってほら、社内では有名だから。キレてコピー機ぶん投げたとか、色々?」
「あー…そうか」
「…それに俺自身、シズちゃんに興味あったからラッキーだったって言うか、海老…じゃないか。ねずみでライオン捕獲出来た感じ?」


その言葉に思わず固まってしまった。…は?興味?
そんな俺を他所に臨也は話を続ける。


「あの時程自分を褒めたいと思った事は無いよ。無視してて良かった、」
「待て。今、興味っつったか?」
「うん。ずっと気になってたんだよね。そんな力が出るなんてどんな奴なんだろう!…てね」
「………」
「で、ね。……最初は本当に興味だけだったんだけど……いざ会ってみるとやたらと格好いい登場した挙句格好いい事してくれちゃう奴でさ、…お陰で俺、シズちゃんの事好きになっちゃったんだけど……如何してくれるの?」
「……………は?」
「…悪いけど二度も言わないから。ああくそ、本当有り得ない……やっぱ言わなきゃ良かった…」

そう言ってきゅっと俺のシャツを握り締めてくる、臨也は、耳が真っ赤だった。
……何だ、これ。夢か?

思わずその腕を取って抱きしめる。…悲鳴が聞こえたが気にしない。それどころじゃねえし。


「…今言ったの、本当か?」
「ああもう聞かないで…!こんな嘘ついても仕方ないでしょ俺にはなんの得にならないよ!シズちゃんのばか!あほ!」
「おい臨也、」
「つーか何で抱きしめてるの?何なの?死ぬの?意味わかんないし!」
「……落ち着け!つーか俺の話聞け!」
「…ッ!……な、に」


どうやら正気に戻ったようで、チラリと俺に視線を向けてきた。…くそ、可愛すぎねえかこいつ。何で涙目なんだよ…。


「……さっき、如何してくれるっつったよな?…責任、取ってやるよ」
「………は?何、言って、」
「好きだ」
「っ!…え、」
「だから臨也、…俺と付き合え」


そう言って、唇に触れる程度のキスをする。ビクリ、と臨也の体が動いたが特に抵抗は無かった。
ゆっくりと顔を離してじっと見つめると、小さな声で「…うん」と言うのが聞こえた。

俺は、壊さないように優しく抱きしめた。


***

「で、手は大丈夫だった?」
「んー、軽い火傷だな」
「軽くても火傷は火傷。…ほら、社長室行くよ」
「は?何で今この流れで社長室なんだよ。社長関係ないだろ」
「…もしかして気付いてないの?嘘まじで?俺ヒント出したのに」
「………何だよ、ヒントって」
「んーそうだな、…この会社の社長の名前は知ってるよね?名前言える?」
「当たり前だろ…。あー、確か……"折原臨也"だろ………あ?臨也?」


…口に出してから気付いた。そうだ。臨也だ。社長も目の前のこいつも、臨也なんだ。

(ってー事は……まさか)

そんな俺に気付いたのか、目の前の臨也はにっこりと笑った。


「そ。俺がここの社長の"折原臨也"。…宜しくね?」
「………まじかよ…」
「マジマジ。超マジだから。…何、もしかして社長は嫌だった…?」
「…ちげえ、驚いただけだ。むしろ…」


話しながら俺は、目の前にあった細い身体を抱き締めながら、瞼に優しくキスを落とす。
それからゆっくりと、続きの言葉を紡いだ。


「…惚れ直しただけだ」


それを聞いた腕の中の愛しい存在は、嬉しそうに顔を綻ばせた。…初めて会ったあの日の様に。




――瞼の上ならば 憧憬のキス




fin



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「就活疲れを吹っ飛ばす元気な静臨会社パロ(喫煙室・コピー機・企画書・社長室のどれか)でエロはちゅーくらいまで」でした。
元気…何処行った元気は…。すみません素敵な内容なのに活かせず…無念^^;

リク有難う御座いました!



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