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Freundschaft auf die offne Stirn,




5月半ばの水曜日、午後12時30分。
世間一般の学生達は校内で唯一の長い休みに思う存分はねを伸ばす時間…つまるところ、お昼休みだ。


さて。突然だが俺は今、そんなひと時の中で窮地にたたされていた。


「食わせろ」
「駄目!」
「…食わせ、」
「駄目って言ったら駄目だってば!」
「………」
「………」

昼休みになって早10分。何故か俺は屋上でシズちゃんと押し問答をしていた。


…困った。凄く困った。

誰かに助けを求めるにもここは屋上で立ち入り禁止な場所だから人なんか居やしない。しかも何時も一緒に居る新羅は休み、ドタチンは委員会で仕事。
さらには今シズちゃんとフェンスに挟まれてる状態で。…あれ、これ逃げられないよね俺!どう考えても!

この状況をどうすれば打破出来るのかなんて何時もの俺ならたやすい事、なのに。こんな時に限って頭が正常に機能しない。


(ああ、いくら考えてもこの混乱した頭じゃ解決出来るわけ無い!)


……こんな事なら、シズちゃんを驚かす為に弁当を作ろう!、なんて変な気を起こさなければ良かった。
そうすれば俺が料理に失敗する事も、置いてきたはずの弁当が鞄に入ってた事も、ましてやそれがシズちゃんに見付かってしまう事も無かったんだ…!

ふと、脳裏にまだ小さい2人の妹が浮かんだ。…こんな事するのはあいつ等しかいない。


(ああくそ、これも全部九瑠璃と舞流のせいだ…!)


思わず手に持っていた弁当をぎゅっと握り締めた。何だって俺がこんな目に会わなきゃいけないのさ…!


「…なあ、そんなに俺に食わすのか嫌なのか?」
「……え?」
「やっぱ、別に食わしたい奴が居るって事、なのか?」


そんな言葉を投げかけられたと同時に左側からミシリ、と何だか嫌な音がした。
もしや、と音がした方へ顔を向けると、……あー、フェンスさんご愁傷様。短い付き合いだったけど俺を支えてくれてありがとう…。


(……って現実逃避してる場合じゃないよ!やっべえこれ超キレてるじゃん!)


恐る恐る下から伺うようにシズちゃんを見ると……あ、これ今度は俺がご愁傷様だね確実に!


「なあ、臨也くんよぉ。この弁当は一体誰にやるつもりだったのかなぁ?」
「…やだなーシズちゃん。俺が誰かの為に弁当作る訳無いじゃんか。そんな奴じゃないって知ってるでしょ?」
「嘘付け。今まで買い弁だった手前が行き成り手を傷だらけにして弁当持ってきたんだ。何かあるに決まってんだろ。……なあ、誰だよ、」

俺じゃないなら、一体、誰にやるつもりだったんだよ。


……なんてポツリと小声で呟いて俯くシズちゃんを見て、…正直戸惑った。
だって、だってさ?何でたかが俺の弁当ぐらいでそんな必死になるのか、全く分からなかった。しかも失敗作だし。…唐揚げ焦げてるし。


(……でも、…うん。仕方ないから、本当の事言ってあげようかな)


本当は、自らの失態を自分で暴露するなんて嫌だな、なんて思ったりはしたけれど。…変な誤解されるの嫌だし、……シズちゃんを悲しくさせるだなんて、以っての外だ。
だって、もともと俺はシズちゃんに喜んでほしくて、笑ってほしくて、作ろうと思ったんだから。


「…あのさ、シズちゃん」
「……んだよ」
「コレ。…ちゃんとシズちゃんの為に作ったやつだから。…まあ、失敗作だけど」
「………は?」
「俺的にはそんなのシズちゃんに見せたくも食べさせたくもなかったから、後で捨てようと思って家に置いてきたんだ。時間無かったし」
「……」
「なのにさ、その弁当がいつの間にか鞄の中に入ってて……ああくそこれ絶対九瑠璃と舞流の仕業だよ……もうやだあの2人…」


…なんか、説明すればするほど悲しくなってきた。…あいつ等ってほんと、ろくな事しないよね…はは…。


「…あー…。それ、マジか?」
「……こんな恥ずかしい嘘を俺がつくとでも?自分で言うのもなんだけどあのプライドの高い折原臨也くんが自ら己の失態を暴露してるんだよ?レアだよ?」
「自分で言うな自分で。……そっか、俺に、か」
「繰り返すなよ恥ずかしい」
「…悪ぃ。つい、嬉しくて」
「…弁当作った事が?」
「ん。それもだけどよ、…さっき時間が無くて後で捨てる、とか言ってたろ?…それって弁当作るのギリギリまで頑張ってくれたって事だよな?」
「…っ?!ちょ、な、何言ってるのさそんな、」
「しかも手が怪我だらけだしよ…それが俺の為だって聞いたら、なんかこう…嬉しくて堪らなくなって、さ」
「な、わっ」
「…さんきゅ」


そう言ってふわり、と効果音が付きそうな程優しく抱きしめられた。あの、シズちゃんにだ。
あまりの出来事に口をパクパクさせる事しか出来ない俺を尻目に、シズちゃんは俺の手から弁当を奪って………あ!


「ちょ、俺食べて良いとは言ってないってば…!!」
「遅ぇ、もう空けた。へー…相変わらず器用だな。どこら辺が失敗してんだかわかんねえわ。…お、タコさんウインナー発見」
「わあああシズちゃんの馬鹿あああ器用なのは君だよ君!!何で人を抱きしめたまま空けてるのさ!俺何も見えないし!」
「うるせえ、……ん?これ何だ?」
「え、何、どれ、」


振り返れない俺の目の前にずいっと現れた、シズちゃんの指に捕まった黒い塊…あー…。


「……えっと…」
「どうした、何か悪いもんなのか?」
「いやそんなの入れる訳ないでしょ。……それ、唐揚げ」
「ああ。これ唐揚げか。黒くて分かんなかった」
「ごめんね真っ黒で…!火加減間違えたんだよ!ほら、早く捨てて!」
「しねえよそんな勿体無え。食えるだろうが」
「……は?食う、って…」


何言ってるの、と言おうとした俺の目の前で、(元)唐揚げを口に放り込んで、……え?


(……食、べた?)


そう気付いた頃には、すでにシズちゃんはそれを飲み込んだ後だった。


「…ちょっとシズちゃん、何で食べたの?俺捨ててって言ったよね?」
「うん、美味い」
「……は?」
「だから、美味い」
「……本気で言ってる?だって黒焦げだよ黒焦げ。美味しいわけないじゃん」
「うっせーな、俺は美味いと思ったんだよ」
「………ば、ばか…」
「知ってる」


シズちゃんの言葉に何かが溢れそうになって、思わずぎゅっと抱き付いてしまった。そんな俺をシズちゃんはやんわりと抱きしめてくれて。


(…あ、やばい)


好きすぎて、どうにかなってしまいそうだ。


「……シズちゃん、ちょっとしゃがんで」
「は?何で、」
「いいから、ほら」


俺の意図が分からないながらも渋々としゃがんでくれたシズちゃん。…うん、丁度良い高さかな。


「…シズちゃん」
「何だ、」
「…ありがとう」


そう言っておれはシズちゃんの額に軽くキスを落した。
そっと離れてシズちゃんを見ると、真っ赤になって固まってた。
それが面白くてつい笑ったら、睨まれちゃった。…今やられたって怖くないもんね!


ああもう、大好きだよシズちゃん!




――額の上ならば 友情のキス




「それにしても九瑠璃と舞流は一回懲らしめてやらないとね。全くあいつ等ときたら…!」
「…確かそいつらって臨也の妹だっけか?」
「そうだよ!不服にもね!」
「…そうか。あー、じゃあ今度そいつらに何かお礼しねーとなぁ…」
「はあ?何でさ、する必要なんか、」
「だって、そいつ等のお陰でお前の弁当食えたんだぞ?ならする必要あるだろ」
「!!…ば、ばかじゃないのシズちゃん…」
「知ってる」
「………」


***


「…ねえ、門田。あれで付き合ってないとか有り得なくない?」
「本当にな。あれで片思い同士とか…ありゃどう見ても付き合ってるよな…っておい、新羅。何でお前ここに居るんだよ。休みじゃなかったのか?」
「え?ああ、やだなーそんなの嘘に決まってるじゃないか!ははははは!」
「(……コイツもあんま敵に回したくないタイプだよな…)」




fin



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「来神の静臨でお弁当ネタ」でした。
オチの糖度…あまり高くなくてすみません…^^;<でも描いてて楽しかったです!

リク有難う御座いました!



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