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飼育員とぼく。【1】


―とあるところに、1人の男がおりました。
彼は、人では有り得ない力を生まれた時から持っていました。
その為に、たくさんの人々から恐れられ避けられるようになりました。
根の優しい彼は、そんな人々の反応に心を痛めるようになりました。

そんな彼は何時の間にか、自分とは違う人々が愛せなくなっていました。


―とあるところに、1匹の動物がおりました。
彼は、動物では有り得ない現象を起こす体質を持っていました。
その為に、たくさんの生き物から忌み嫌われていました。
頭の賢い彼は、自分自身を守る為にそんな生き物を観察するようになりました。

そんな彼は何時の間にか、自分とは違う生き物を愛するようになりました。


似ているようで全く似ていない、1人と1匹。
けれども似通っている点が、1つだけありました。


  "したい"  "されたい"


それぞれが、そう思っていたのです。


――これは、そんな1人と1匹の""の物語。




飼育員ぼく


*side S


「ったく…誰だよ、こんなとこにゴミ投げ入れた野郎は…」


そんな事を呟きながらも、俺は何時ものようにそれを回収する。…これも立派な仕事の内の1つだからな。
そう納得着けてから1人黙々と作業を続けていると、後ろからポン、と肩を叩かれた。…誰だ?

「よっ。相変わらず真面目にやってんなぁ」
「あ…、どもっす」

後ろを振り向くと、そこに立っていたのはトムさんだった。


トムさんは大学で知り合った先輩だ。
周りから避けられている俺を見ても、特に気にせずに話しかけてくれたのがトムさんだった。
それ以降トムさんは俺の事をよく気にかけてくれて、卒業した後も変わらず連絡を寄越しては俺の就職先を気にしてくれた。……職場からしてるって聞いたときは逆に心配しちまったけど。

で、何処で聞いたか未だに分からないが、俺がどの就職先も見事に落ちてるのを知ったトムさんは自らが働いている職場を勧めてくれた。…俺が動物園で働きたいのを知っていたから。

正直、嬉しかった。今までこんなに俺に気をかけてくれる人は家族以外いなかったから。
それに態々自分が働いている職場を紹介してくれた事が、信頼されてる証のような気がした。

俺はそんなトムさんの気持ちに応えたくて、その動物園に就職した。

最初はやはりと言うか大変だった。基本雑用ばっかだったからな。
けど、働きたいと思っていた職場で働ける事だけで嬉しかった俺にとって、それだけでも十分だった。力仕事が多いから意外と怪力も使えたしな。

まだ働いて3ヶ月だが、ここに就職して良かったと本気で思ってる。給料が安いのはまあ…仕方ないよな。民間だし。


「…ぃ、おーい静雄、聞いてるか?」


その声にハッとした。…いけね、違う事考えてた。


「…すんません、ちょっとボーっとしてました」
「だろうなあ。…じゃあさっき俺が言ったのも聞こえてなかったのか?」
「あー…、はい。すんません…」
「おいおいそんな謝るなよ。俺、特に気にしてねえし」


だから気にすんなよ、と笑顔で言われた。
トムさん…笑顔が眩しいっす。


「…有難うございます。…で、一体何言ったんすか?」
「お、そうだったそうだった。…喜べ静雄、お前の担当先決まったぞー!」
「…………え、マジっすか?」
「マジのマジだ。良かったなーやっと決まって!」


そう言って背中をバシバシと叩かれた。…正直、地味に痛い。
だが、それ以上に嬉しさが上回っていた俺はそれどころではなかった。

(そうか…決まったのか)

ガキの頃から憧れていたこの職業。この仕事に就けたらどれだけ嬉しい事かと思っていた、あの頃。
今その夢が、着実に、確実に叶えられようとしているのだ。嬉しくない筈が無い。

(俺もついに担当……)


「…あ、トムさん。俺何処の担当になったんすか?」
「ん?ああ、えーっとな…『ふれあい広場』だった筈だ」


手に持ったままのアルミ缶がゴキャリ、と鈍い音をたてるのが分かった。


「……え、『ふれあい広場』って、小動物ばっかのとこっすよね…?」
「そうそう、ウサギとかヒヨコとかだな。ヤギとかヒツジとかもいるけど。…まあ、困った時は言えよ?少しくらいなら助けてやるから」


……トムさん。早速で悪いんですけど俺…無理かもしれないです。


(だって俺、怪力じゃないっすか……)


next..

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民間(私立)は私立動物園、個人または家族が経営している為、収入の違いがあるそうです。
ちなみに公立だと公務員扱いだそうです。……何この豆知識のような語り方^p^


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