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Chemistry【?side】


兄さんと臨也さんは、似てないようで似ている。

素直になれないところや、変なとこで不器用なところ。
…特に似てるのが、自分の気持ちを隠せてるって本気で思っているところ。



▼ kasuka side.



以前俺は、学校の帰りに偶然2人が一緒に下校してるところに遭遇した事がある。
その時に『ああ、2人は付き合ってるんだ』なんて本気で思った。


だって、普通友達同士はあんな雰囲気にならないと思う。どう見てもあれはピンクだった。


けどその後、家に着いてから兄さんに聞いてみると、顔を赤らめながらも否定されてしまった。

兄さんは嘘が吐けない人だ。だからきっとそれは本当なんだろう。
けど、臨也さんの事が好きなのも本当なんだと思う。…好きじゃない、と否定しなかったから。


正直、兄さんが臨也さんの事を好きだって知ったときは驚いた。

力が強い事と沸点が低い事以外は大人しくて穏やかな人だ。そんな兄が喧嘩相手である彼を好きになるのは考えたことが無かった。
けれど、納得は出来た。彼は切れた兄を前にして、逃げるどころか近寄ってきたらしいから。
…きっとそんな事が出来るのは後にも先にも彼だけなのだろう。

だから、俺はそんな兄さんを応援する事にした。
男同士というのは特に気にならなかった。兄さんが幸せならそれが一番なのだから。



***



そんなある日、兄さんにとって転機が訪れた。

兄さんに勉強を教える為に、臨也さんが家に来たのだ。

俺が居たら邪魔だろう、と考えた俺は臨也さんを家に迎え入れた後さっさと部屋に戻ろうとした。
けれど、必死に俺をその場に留めようとする臨也さんを見てつい、その場に残ってしまった。
…そのせいか、兄さんは一気に不機嫌になってしまった。

(…ごめん兄さん。けど、流石に行き成り2人きりにするのも酷だと思うんだ)

そう思いつつも少し罪悪感のあった俺は、帰り際にそれとなく兄さんの気持ちを伝えてみた。
上手く伝わってると良いんだけど。



次の日、兄さんの部屋に行くと既に臨也さんが居た。

何だかまたあの雰囲気になりそうな2人を見た俺は、邪魔しないよう外出する事に決めた。
早速兄さんにその旨を伝えて了承を得る。部屋を出る時に、兄さんに聞こえないように小声で臨也さんにエールを送ってみた。…兄さん、俺に気付かれてないと思ってるみたいだから一応。



***



外に出たは良いが特に行きたい所も無かった俺は、とりあえず図書館で本を読んで時間を潰していた。読書は嫌いじゃなかったから。
…そんな俺に声をかけてくる人が居た。


「…君、もしかして幽君か?」
「……あ、こんにちは門田さん」
「ああ、俺の事は名前で良いよ。それにそんなに畏まらなくて良い」


ちっと年上なだけだしな、なんて言って彼―門田京平さん―は笑った。

…京平さんは、兄さんの友人の中では珍しいぐらい、とても良い人だ。現に今、わざわざ交遊が殆ど無い俺に声をかけてるのだから。
きっと色んな人から慕われる人柄なんだろう。


「…で、幽君は…1人で勉強かい?」
「いえ、暫く時間潰しをしようかと」
「…時間潰し?」
「……今、家に兄さんと臨也さんが居るんです」


そう答えると納得したのか、そうか、なんて声が聞こえた。


「…本当に勉強の面倒見てるんだな、臨也の奴」
「…ご存知なんですか?」
「まあ、一応。新羅がわざわざ電話で連絡してきてな」
「…お疲れ様です」


きっと大変だったのだろう。そう思って労りの言葉をかけたら苦笑いを返された。


「はは、有難う。…静雄よりも俺達の事分かってそうだな、幽君は」
「そんな事は無いです。…それに、こちらこそお礼を言いたいくらいです」
「?…何でだ?」


不思議そうに尋ねてくる京平さんに、俺はこう答えた。


「兄さんの友人になってくれたから、です」


兄は、友と呼べる人が少なかった。否、新羅さんを除けば全く居なかった。
俺はそんな兄が心配で仕方なかった。このままでは何時か、兄が独りぼっちになってしまうような、そんな気がしていたから。
…そんな兄が、高校に入学して。友達が出来て。喧嘩友達が出来て。…好きな人が出来て。
高校に入っただけで、こんなにも兄も周りも変わった。俺はそれが嬉しかった。
だから、俺はお礼が言いたい。"有難う"と。


そんな思いで答えた俺を京平さんは暫くじっと見た後、何を思ったのか俺の頭に片手を乗せてぐしゃぐしゃに掻き回し始めた。


「……え、…ちょ」
「ほんっとーに良い奴だな幽君は。こんな弟を持てた静雄は幸せ者だな」
「そ、んな事は、」
「でもちょっと訂正な。…"なってくれた"じゃなくて"なりたくてなった"、だ」
「…え?」
「…あー悪い、言葉が悪かったな今のは。俺国語そんな得意じゃなくてなぁ。…あー、つまりな?俺自ら静雄と友人になりたくなった。で、友人になった。…これは全部、俺の意思で決めた事だ。だから礼を言われるような事は一切して無い」
「…で、も」
「それに幽君は大事な事を忘れてる」
「…大事な事?」


それは一体何ですか。そう問おうとした俺の言葉を遮るように京平さんは答えた。


「静雄には君が居る」
「…は?」
「幽君って言う大事な弟であり、友人であり、理解者である君がいる。…俺はな、血の繋がりってのは人の絆よりも強いと思ってるんだ」
「血の、繋がり…?」
「そう。…残念な事に絆ってのは些細な事で壊れたりするもんもある。…けどな?血の繋がりは、一生もんなんだ」


そう言われてハッとした。驚きのあまり何も言えない俺を余所に、京平さんは話を続ける。


「大体あの静雄の事だ。何があったって幽君が居る限り何度だって立ち上がるだろ。…ブラコンだしな」
「…ブラコン、ですか」
「ああ。幽君も、な」


そう言って京平さんは笑った。
思わず釣られて俺も笑ってしまった。


…やっぱりこの人は良い人で、凄く優しい。
俺が悩んでいた事をあっさりと見抜かれて、解決してくれた。


「有り難うございます、京平さん」
「……ああ」


お礼の言葉を口にしたらまた、ぐしゃり、と頭を撫でられた。…照れ隠しだろうか?



…その後、京平さんと別れた俺は事前に連絡していた母さんと合流して家に帰った。

帰るとやはりと言うか、兄さんが泊まるよう話を持ち掛けていたので、俺らも後押しした。まあ、母さんの場合はせっかくの友達なのだから、という意味でだが。

すると流石に諦めたのか、臨也さんは大人しく食事を進めてした。
少し罪悪感はあったが、今回はあえてそれは無視した。…すみません臨也さん。

…後は兄さんの頑張り次第で決まるだろう。



***



後日兄さんに聞いた所、なんだかんだで付き合う事になったらしい。俺が知っていた事に驚いていたが、照れ臭そうに答えてくれた。
…まあ、今だから言うけど…、どう見ても臨也さんも兄さんの事好きだったみたいだし、そんな気はしてた。

…でも兄さんが幸せそうなら、良かった。
俺は心から、そう思った。



(でも兄さん。聞いた限りだと告白しただけで『付き合って』なんて一言も伝えてないよね?)



余談だけど、テストはギリギリ平均超えたらしい。…臨也さんは怒ってたけど。

そうそう。この間偶然にもまた下校中の2人に遭遇したけど、手を繋いで歩いてたよ。仲良いみたいで安心した。


fin


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ここまでの観覧、有難う御座いました!次のページはこっそりと後書きです^^


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