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Chemistry【+α】


※静雄視点
※静×臨




「あー、どうすっかな…」


昼休み。
学校を抜け出してきた俺はその足で近くの薬局まで出向き、目当ての商品が並べられた棚の前でしゃがみ込んでから丁度5分。…ひたすら悩んでいた。


あ?何でそんな所で悩んでいるかって?………あいつ、何時見ても荒れてんだよ。唇が。
別に血が出るとかそこまでじゃねえが………こう、何て言うかだな………見てて痛いんだよ俺が。つーかキスする時気になって仕方がねえ。
この間あいつからしてくれた時も気になったしな。……まあ気にしてられたのも最初だけだったが。

あー。つまり、だな……勉強でも世話になった感謝も込めて、あいつに買ってやろうかと思って。……"リップクリーム"を。

だから今こうやって見てるんだがな。……リップクリームってのはこんなに種類があるもんなのか…?ざっと見た感じ20種類は確実にあるだろこれ。
大体なんでスティックタイプってやつ以外にも色んな形があるんだよ…。チューブっぽいやつならまだ何とか分かるが、ケース入りのとかどう見ても塗り難そうだろ。
…女って大変なんだな。思わずそんな事をしみじみと思ってしまった。


(……あ、やべ。さっさと決めねーと遅刻する)


ふと店内の時計を見たら次の授業開始まで後30分をきっていた。帰る時間も考えるとそろそろヤバイ。
あーどれにすっかなぁ…、なんて悩みながら俺は商品を順番に眺めていく。


「…ん?」


端から端まで見ていた俺の目は、ある商品を見つけて止まった。
棚の端の方に置かれたその商品を手にとってしげしげと眺めてみる。


(……へえ。イチゴの香りがすんのか、これ。こうゆうの良いかもしんねーな…)

「…よし、これにすっか」


決まれば後は早い。そのままレジに直行してさっさと清算した。
有難う御座いましたー、という店員の声を聞き流しながら店を出る時、俺はふと思った。


(……これ渡した時どんな顔すっかな、あいつ)



***



ガラリ、と戸を開けて中に入る。思ったよりも早く着いたな…。
そう思いながらあいつの席に視線を向ける。


(……居ねえ)


あ?何でだ?と思った俺は教室をぐるりと見渡した。すると、不機嫌な顔をした臨也が居た。……何故か俺の席に。


「……いや、何で俺の席に座ってんだよ」
「……あ、シズちゃんお帰りー。何処行ってたの?」
「…ちっと必要な物があってな。外に出てた」
「……ふーん?…ねえシズちゃん」
「あ?なんだ?」
「屋上行こう」
「…は?何でだよ。これから授業始まんだぞ?」
「相変わらずシズちゃんって真面目だよねー見た目に似合わず…。良いからほら、行くよ」
「…一言余計だぞ、手前」

というか俺の言葉はスルーかよ…まあ多分聞こえてねーだけだろうがな、なんて考えながら臨也に引っ張られて廊下を出たところで、予鈴のチャイムが響いた。


(…こりゃサボリ決定だな)



***



「で、結局何処行ってた訳?」
「だから外に…」
「それはもう聞いた。で、何してた?」
「物買いに行ってたって言ってるだろーが」


…屋上に着いて早々何故か俺は臨也に問いただされている。ちなみに本鈴は大分前に鳴ったから…、確実に2、3分は経ってるんじゃないか?


「だったら買ってきたの見せてって言ってるじゃん…!簡単な事でしょ?」
「あー……」
「ほらやっぱ無理なんじゃん…!っま、まさかシズちゃん俺に言えないような所に…!?酷い!最低!浮気者!」
「何だよその言えないような所って!よく見ろ学生服着てるだろうが!大体俺は手前しか興味ねえし起たねーって知ってんだろ!!浮気出来る筈無…ムガッ」
「うわわちょっとそんなでかい声で言わないでよ!恥ずかしい!」
「…ブハッ!行き成り人の口手で塞ぐなよ!…つーかなら言わせるような事言うな!」
「…だって気になるんだから仕方無いでしょ。大体元はといえば、一言も言わないで行ったシズちゃんが悪いんだから!」


そう言うと臨也は俺をじっと見つめてくる。…それは俺も悪いと思ってる。見事に忘れてた。


「………」
「……」
「…………」
「………おい」
「……………」
「だああ分かった分かった俺が悪かった!…ほらこれだよ」
「……何これ?」
「リップクリーム。それぐらい分かれ」
「いや袋に入ってんだから分かる訳ないし。無茶言うな。…何でリップ?シズちゃんが使うの?」
「違えよ!…手前のだ」
「へ?俺?何で?」
「手前の唇が何時見ても荒れてんのが気になってたんだ。それに勉強の礼に何かやりたかったんだよ。……本当は今度渡そうと思ってたんだが…まあ早い方が良いのかもな。やる」
「いや、やるって言われても…大体俺そんな酷くないし」
「俺が勝手に心配してるだけだ。ほら、試しにつけてみろよ」
「……う、うん」


戸惑いながらも受け取る気になったんだろう。袋を開けて中身を取り出した。
すると臨也のピタリと動きが止まった。…どうした?


「……これ、女用じゃない?や、どう見ても女用だよね?しかも何イチゴの香りって」
「似合うから良いんじゃね?」
「いやそれ全然嬉しくないんだけど…」
「あーもーうるせえな…。ちょっと貸せ」
「え、ちょっ…!」


制止の声を無視して臨也の手に収まっているリップクリームを手にとって箱から中身を取り出し、蓋を外してから臨也の唇に押し当てる。とりあえず逃げようとする頭は片手で固定した。何か言ってるが無視だ無視。
…チューブ型なんだから押せば出るだろう、と思って真ん中を出過ぎないように軽く押してみると少しずつ出たからそのまま唇を撫でるように塗る。


「…まあ、こんなもんか」
「シ、シズちゃん酷い!無理矢理塗るとか、……やばいこれほんとにイチゴ臭いこんなの毎日してるの女の子って…わー有り得ない」
「臭いとか言うな。臭いって。文句言うなら荒れた唇如何にかしてからにしろ。…すげえなこっちにまで匂いしてくるわ」
「……せめてもっとマシなの買ってくれたら良かったのに…」
「うるせえ。大体これ結構高かったんだぞ」
「まあ見た目から察するにそうなんだろうけどね。うん。分かるけどさ…」


そういって何故か黙る臨也。…それぐらいで不貞腐れるなよ。

しかし…こう、艶々と光る唇も考え物かもしれねえ。ただでさえ赤かった唇がさらに赤いし。
しかも今不貞腐れてるせいで唇を突き出してるから、余計に…ああもう。キスしたくなるじゃねえか!

なんて馬鹿な事を考えてたら声を掛けられた。おっと危ねえ。


「……ねえシズちゃん。俺ある事に気付いたんだけど…」
「ん?何にだ?」
「…男が相手に服あげるのってさ、相手の服を脱がしたいって意味が含まれてるじゃん?」
「ああ、確かに言うよな」
「だよね。…ってことはつまり、シズちゃんが俺にリップをくれたのは、俺とキスしたいって意味が含まれてる…って事になるよね?」
「…どんな考え方だよそれ」
「あれ?違うの?」
「そんなつもりは無い。…と言いてえが、悪い。今丁度思ってた」
「わー凄いハッキリ言うねー。歯に衣を着せぬってこういう事かな」
「あ?何だそれ」
「うんシズちゃんは知らなくて良いよ。…んーじゃあさ、シズちゃん」


何だ、と返事を返そうとした俺の顔にずいっと顔を近づけてきた。…おい、何のつもりだ。


「キスしよっか」
「…手前、もうちょっと危機感持て。襲うぞ」
「大丈夫ー。俺が本気で嫌がったら何もしないって分かってるし」
「……ったく」


困った奴を好きになったもんだ、なんて思いながら、俺は目の前にある赤い唇に口付けた。

ああくそ、甘ったるい。



(甘い果実に胸焼けしそうだ)









「…ああ、そういやお前なんで俺の席になんか座ってたんだ?」
「…………べ、別に何でもないよ。森羅と喋ってたから全然寂しくなんかなかったし!」
(何これかわいい)


fin


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7話の数日後設定。臨也大分吹っ切れた!ところでツンデレがやっぱりよく分かりません…。


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