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Chemistry【6】


※静雄視点(独白)
※静×臨






目の前でぼろぼろと涙を流す臨也に俺は何も言わず、ついばむようなキスを顔中に降らせる。
そうすると、何も言わずにぎゅっと抱きついてきて。


ああ、愛しいな。

コイツを好きだって気付けて、良かった。


そう思って、ぎゅっと目の前の身体を抱きしめ返した。決して壊さないように。




***



気付いたのは偶然だった。


俺が便所に行く、と言って立ち上がったら臨也も着いて来て。
その時の俺はうぜえ、と言いながらも胸の奥が温かくなったのを感じていた。理由は分からなかったが。

それから俺は最初の目的通り用を足してから、流しで手を洗っていた。
その時ふと、ただ着いて来ただけの臨也が気になって顔を上げた。そして見てしまった。鏡に写る、アイツの眼。




―愛に飢えた獣ののような、眼を。




―――ぞくり、とした。




シズちゃん?と声をかけられてハッとした。
慌てて、何でもねえよ、と答えてさっさと便所から出た。慌てすぎて置いてきてしまったが、それどころじゃなかった。


今のは、何だ。何でアイツがあんな眼をする?それを見て俺は何を思った?



―――愛してやりたい



そんな、馬鹿な。あの折原臨也だぞ?野郎なんてもっての他――


そこではたと気付いた。……嫌では無い事に。
野郎なんかクソだ。論外だ。虫唾が走る気色悪ぃ!
…なのに。その筈なのに如何してか臨也だけは……平気だった。


如何して、平気なのか。あんな事を思ったのか。…胸が温かくなったのか。


考えたら、簡単に答えは出た。


―――俺は折原臨也が好きなんだと。




それからの俺は、悩んだ。今まで喧嘩していた相手にそんな事が言える訳が無い。増してや男同士だ。…俺が良くても、アイツが嫌がるだろう。
悩んで悩んで結局出た答えは"このままの関係"。……一緒に居られるなら、それでも良かった。

ただ、1つだけ変化した事がある。…前よりも臨也の事を見るようになった事だ。

それで幾つか分かった事がある。


興奮すると唇を舐める事。
寂しがり屋な事。
身体があまり丈夫じゃない事。
気を許した相手には案外世話焼きな事。
想定外の事が起きると混乱する事。
……"あの眼"で見るのは俺だけ、という事。


分かった時は目を疑った。見間違いなんじゃないかと。…だがその眼をするのは決まって俺と臨也、2人しか居ない時だけだった。



…つまり臨也は、俺のことが…好き、なのか?



まさか、とは思ったが何故かそうとしか思えなくなった。…その事実が何よりもの証拠な気がしたんだ。
あんな、愛してくれと叫ぶかのような眼を、何も思ってない奴に見せる筈が無い。だってあの臨也がだぞ?

だがアイツは、好きという気持ちを認めたくないのか、気付いてないだけなのか。そういう素振りを全く見せない。…まあ、きっとアイツの事だ。何か思う事でもあったんだろ。

……しかし如何したもんか。そう悩んでる俺に転機が訪れた。



臨也が、俺の家に来る。



***



そこからはもう、無理だった。というか、今まで我慢出来てたのが奇跡だった。


あの後散々泣いた臨也は、泣き疲れのかそのまま眠ってしまった。

俺の腕の中にすっぽりと収まり、安心しきった顔で眠る姿を見て、愛しさが込み上げてきた。

少し、抱きしめる力を強くする。

ぅ…ん、と声がしたが特に抵抗は無く。むしろ、もっと、というかのように擦り寄ってくる臨也。


…ああ、夢じゃないんだな、なんてしみじみ思った。


手触りの良い臨也の髪を撫で付けながら、頭に軽くキスを落とす。


…さて、そろそろ勉強しねーと。


そう思って立ち上がろうとした俺は、くんっと何かに引っ張られて阻まれる。

視線を落とすと、そこには。


「…マジかよ」


服の裾摘むとか…狙ってんのか、コイツ?
チラリと伺ってみるが、起きてる様子は無い、……無意識かよ。

はあ、と思わず溜息を付いて脱力してしまった。……無意識でとか、先が思いやられる…。


仕方なくもう一度臨也を抱え直して、寝る事にした。


……先に惚れた方が負けって、こういう事か…。
ま、仕方ない。手前にだったら、振り回されてやるよ。


そんな気持ちを込めて、軽いキスを1つ。



「…お休み、臨也」



起きた時に逃げ出そうとしても、…逃がさねえからな?



(手前なんかを愛せるのは、俺だけだ)





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