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Chemistry【3】


※臨也視点
※静→(←)臨+幽






ピンポーン


何処にでもあるチャイム音が、扉の向こうで響いた。


どうしよう。本当に来ちゃったよああやばい俺シズちゃんに殺されるんじゃないのなんであんな事言っちゃったんだろうてか何してんだろ俺…。

そんな事を待ってる間ぐるぐると考えてしまう。もうやだ逃げたい。
昨日の自分をぶん殴りたいと心底思った。



「こんにちは」



その声にはっとした。どうやら考えこみ過ぎて扉が開けられた事にに気づかなかったみたい。不覚!

声のする方を見たら、そこにはシズちゃんの弟の幽君が居た。そっか、今日は日曜だもんね。なんか少しほっとした。



「こんにちは。幽君久しぶり」
「お久しぶりです、臨也さん。兄が中で待ってますので、どうぞ」
「うん、有難う。お邪魔しまーす」



幽君に促されるがままに中へと入った。思ったより広い部屋だった。
…そういや俺、シズちゃん家に入るのは初めてだ。



「………よう」
「あ、シズちゃんやっほー。ちゃんと昼飯作ってくれた?」
「黙れクソ虫お前に食わす飯なんかねーよ」
「うわひっどー」
「それじゃ兄さん、俺部屋に戻るね」
「ああ、助かった幽」



中に入ってすぐの部屋…つまりはリビングの事ね?そこにシズちゃんが居た。しかもキッチンに。わーエプロン微妙。

正直殴られるかなーとか思ってたのに特に何も無くて拍子抜けした。
なんだかこの間からシズちゃんデレ率高いような…なんて考えててふと気付く。


今、幽君部屋に戻るって、言った…?となるとリビングはシズちゃんと俺の2人だけになるって事?
え、ちょ、それは駄目!何かよく分かんないけど駄目な気がする!主に俺が!
ど、どうしよ……あ、そうか!



「幽君も一緒にどう?勉強」
「……え?」
「おい。クソ虫、」
「別に良いじゃん、教えるの俺なんだから俺の好きなようにしたって。それに今更1人増えたって別に苦じゃないし」
「…良いんですか?」
「うん。幽君が良ければだけど。解らないとこあれば教えてあげられる自信あるし」



そう言ってにっこりと笑ってみれば、じゃあ、宜しくお願いしますなんて言葉が返ってきた。よし、これで俺の身の安全は多少保障された訳だ。……なんだかシズちゃんから不機嫌オーラを感じるが無視しとこう。




***




何だかんだでシズちゃんが用意していたを昼飯を食べて、それから3人で勉強を始めた訳だけど。…あ、結構美味しかったよ?明太子スパゲティ。



けどこれは無いでしょう。



「…シズちゃん、昨日の夜自力で勉強したり、復習したりとかは?」
「……してねえ」
「だろうねぇ…。教えたのほとんど覚えて無いみたいだし」
「………」
「とりあえず、もう1回しよう。で、夜はそれ復習してね?」
「………おう」



溜息つきたくなった。コイツ本当にやる気あるんだろうか?……なんだか教える気が失せてきた。シズちゃんの馬鹿。



「すみません、ちょっと良いですか?」
「ん、なーに?……あーこれはね、H2oは1×2+16=18な訳だから…」



それに引き換え幽君のこの頭の良さ!正直シズちゃんより出来てる。…なんか本当に兄弟なのか疑いたくなるよね。


しかも俺に気を使ってか、高校で習う化学を教えて下さい、なんて…。良いコだなあ。なんだか家のと違い過ぎて癒される。良いなーシズちゃん、俺もこんな弟欲しいなあくれないかな。ああでもブラコンだから無理か。



そんな事を考えながらの勉強会。思ってたよりほのぼのして楽しかった。




***




「あ、もうこんな時間かー」



シズちゃんが俺らの為に飲み物取りに行ってくれた時。
ふと壁にかかっている時計を見ると、長い針が6時を示していた。随分長い間勉強してたんだなー。俺超偉い。



…そーいや今日の当番俺じゃん。ヤバイ忘れてた…。そろそろ帰って準備しないと妹たちに何されるか分かったもんじゃない。



「6時だし、そろそろお暇するね」
「あ、もし良かったら夕食も一緒にどうですか?」
「や、今日俺が夕飯作らなきゃいけないから帰らなきゃいけないんだ。ありがとね」
「そうですか…。今日は有難う御座いました」
「ううん、俺も結構楽しかったし」



なんて幽君と和やかに話してたら、シズちゃんが戻ってきた。あーシズちゃんにも言わなきゃなあ。めんどい。



「シズちゃん。俺そろそろ帰るー」
「あ?早くねえか?」
「俺、今日当番なの。ご飯作らなきゃなの。おわかり?」
「……そのムカつく言い方やめろ」



わざとだし。
うーん、何時もはこんな事したらすぐ切れるのに。やっぱデレ率高いって本当どうしたのシズちゃん風邪?



「…おい、臨也」
「ん?なあに?」
「明日、何か用事とかあるか」
「?特に何も無いけど…何で?」
「……明日も来いよ」
「………へ?シズちゃん何言って、」
「つべこべ言わず明日も家に来い!いいか!絶対来いよ!」
「う、うん」



言うだけ言うとシズちゃんはそのまま2階に上って誰の部屋に入ってった。多分あれが自室なんだろう。
…てか、え、何事?急に叫ばれて思わず頷いちゃったけど。何か凄い横暴に思うの俺だけか?



「……変なシズちゃん…。あ、やっばもう10分経ってる!帰るね!」
「あ、はい。玄関まで見送らせて下さい」
「うん、ありがとっ」



うん、良く出来たコだな本当。兄とは大違いだね!あっちすぐ切れるし!と心の中でシズちゃんを貶しながら玄関を出る。



「ここまでで良いよ、お見送り有難う!じゃあ幽君ばいばいっ」
「…臨也さん、ちょっと待って下さい」
「ん、なーに?」



何故か分からないが呼び止められたから、駆け出そうとした足を止めて振り向いてみた。俺何か忘れたっけ?何も持ってきてないけど。



「…さっきの兄の事なんですけど」
「あー…俺特に気にしてないよ?だから大丈夫、」
「いえ、そうではなくて」
「うん?」



どうしたんだろう。幽君がはっきり言わないなんて珍しい…。あ、相手の言葉をぶった切る所シズちゃんと一緒じゃん。幽君こんな所似ちゃったのか…可愛そうに。

俺がまた下らないことを考えてる内に、決心が付いたらしい彼に声をかけられた。



「はいはい、で、どうしたの?」
「…兄貴、俺も一緒に勉強するって決まった時、不機嫌だったじゃないですか」
「あー…そうだね。でもそれが如何したの?」
「…あれ、俺に2人でいる筈の予定を邪魔されたから、不機嫌になったんです」
「……え?何言って、」
「だからさっきの兄の言葉なんですけど、…臨也さんと2人きりになりたかったからあんな事言ったんだと思います」
「…………は?」



邪魔されて不機嫌?2人きり?シズちゃんが?そんな馬鹿な。


あまりの言葉に唖然としている俺を見て、気付いてないようでしたから言わなければと思ったので、なんて言ってきた。いや何その心遣い良く分かんないよ。…俺今、どんな顔してるんだろ。自分じゃ良く分かんないや。



「それじゃ、夜遅いですから気を付けて下さい」
「……ぁ、うん」



俺が奇跡的に返事を返すと、パタンと扉を閉められた。


放心しつつも俺はそこから数歩ほど進み、塀の向こうに隠れた瞬間、足から力が抜けた。




もう何なの意味分かんないし、平和島兄弟謎過ぎる。

きっとあれだ、弟の前だと喧嘩出来ないからなんだ。だから2人きりになりたいんだ。
俺、人愛してるけどシズちゃんは怪物で玩具だから違うし。シズちゃんも俺の事好きじゃないだろうし。むしろ喧嘩友達…否違うライバル?犬猿?とりあえず何時も衝突してるし。だからまあ何だ。彼の言ってる事の真実はこんな所だろう。
今回は偶々休戦中なだけだ。そう、偶々。こんな事で玩具が消えるのが癪だから手助けしてるだけで。





うん、だからさ。





"嬉しい"とか、有り得なくない?





(ほんとは動揺してる自分が1番有り得ない!)





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