「…はい?」
「いや、今朝急に飛び出してったきりでな。まぁ帰ってくるまではどうもできないんだよなー」
 開いた口が塞がらないとは、まさにこの事だろう。ボクはただ唖然とするしかなかった。…というか、急に出て行く所長さんもだけど、動じない二人も二人だよなーと、すこし感心すらしてしまうのだけれど。

「…そういや雨貴君、ここを受けるってことは持ってるんでしょ、特別なチカラってのを?」
「あ、はい。一応、ですが…」
「お、そうかそうか…で、どう言ったチカラか、聞いてもいいかな?」
 轍さんが妙に食いついた。まぁ、事実だから別にかまわないのだけれど…ボクは出そうな溜息を緊張と一緒に飲み込んで、話を始めた。
 ボクの特別なチカラ、それは人を色で見分けられることだ。色は個人個人で若干違う。例えば、大人しい人は静かな青、活動的な人は赤、という風に。小さい頃に両親に打ち明けてからは、その能力を周囲に知られないようにしていたのだけれど。
「なるほどな。…まさに今使えるような都合いい能力だな」
「そうですね…ボクもびっくりしてます」
 なんて絶妙なタイミング。ボクも轍さんも苦笑いをこぼすしかなかった。苦笑顔で組んでいた足を組みかえた彼女は、じゃあこうするか、と呟いた。
「君には今から所長達を探してもらう。それが入社試験の代わりだ。…そんなもんでいいか?」
「あ、はい。ボクは大丈夫ですけど…」
 ボクが行ってもわからないんじゃ、というより先に彼女は心配するな、昴をつけてやるから、と笑った。
「…で、これが例の所長達なんだけど。」
 そういって彼女は一枚の写真をボクの前に出した。黒い短髪の男の人と、目を疑うような真っ白な長髪の…男の人が写っていた。一瞬女性かと思うぐらい綺麗で、戸惑ってしまったけど。気持ちを落ち着かせて、ボクは目を閉じる。一呼吸おいてから再び目を開けると、写真に薄く色が乗っていた…これがボクの能力だ。どうやら所長と言われている黒髪の人が紫で、白髪の男の人は綺麗な緑だった。…結構はっきり色が着いているから、追いかけるのは楽かもしれない。
「大丈夫です、色が分かりました。」
「お、写真からでも全然大丈夫らしいな。・・・あ、そうだ、これを渡しとこうか」
 そう言って立ち上がって近くの棚から何か取り出すと、それをこっちに投げ渡した。手に吸い付くように飛んできたそれは、鋭く光る小さな短剣のようなものだった。
「…万が一だけど、商売上何か危ないモノに出あうかも知れない。」
 そう言い聞かせる彼女は、さっきとは表情が一変していた。そして驚いて落としそうになったボクに短剣をしっかり握らせると、突き刺さるほど真剣な眼差しで続けた。
「もし、そんなのに会ったら、真っ先に自分の身を守るんだ。いいな?」
 あまりの真剣さに気圧されたボクは頷くしかなかった。すると、轍さんは苦笑してま、大丈夫だろうけどな、とボクの髪をくしゃくしゃにしながら言った。
「じゃ、そゆことで昴、彼のヘルプを頼むよ」
「わ、分かりました…姉上。じゃ、じゃあ行きましょうか…」
 若干の不安を抱いたボクは、昴くんに言われるまま探偵社ビルを飛び出した。


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