恋と呼ぶには/相澤(if物語)
「好きです、消太さん」
春先の季節。たまたま出会したヒーローを前、私は眉尻を下げ、困ったように呟いた。とても小さなその呟きは、どうやら相手に届いていたようだ。彼はこちらを振り返り、驚いたように目を見開いている。
敵の私。ヒーローの彼。
決して相容れぬ関係の両者、恋をするなど以ての外だ。けれど、幼い頃より良くしてくれた彼に、恋情を抱くのは仕方の無いことと言えよう。
「神道、お前……」
困惑する彼に、私は笑う。
「言いたかっただけです。忘れてください」
そう言えば、彼は視線を逸らした後、私の方へ。真っ直ぐにこちらを見つめ、口を開く。
「俺は教師だ」
「はい」
「んでもって、ヒーローでもある」
「はい」
「悪いが、まだ子供のお前の気持ちに、答えてやることはできない」
こくりと頷く。微かな笑みを携えて。
消太さんはそんな私の頭に手を置くと、軽く背を丸め、眉尻を下げた。
「すまんな」
「いいんです」
元々は叶わぬ恋だ。いっそ壊してくれた方が有り難いことといえよう。
俯く私に、消太さんは無言に。少しして、「そういえば」と彼は新たな言葉を連ねだす。
「俺は子供のお前の気持ちに答えることはできない。だが、まあなんだ。子供でないお前の気持ちになら、答えてやることもできるだろう」
「消太さん……」
「……神道。将来、お前の気が変わらないようであれば、俺はいつでも……」
言いかけた消太さんの口が閉ざされる。片手でそれを抑え、「今のは忘れろ」という彼に、私は泣きそうな顔で首を振った。
「私の気が変わることはありません。これは絶対的なものです。でも、消太さん。あなたの気持ちは変わるかもしれない。私はこの想いを、今、伝えられただけで満足です。ありがとうございます」
「神道……」
「……また、会いましょう」
踵を返し、彼に背を向け遠ざかる。
消太さんはそんな私を、追ってくるということはなかった。
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