魔女ヒーロー | ナノ



合宿


今日はいよいよ待ち望んだ、林間合宿出発の日である。
ショッピングモールでの一件から敵の動きを警戒して一時は合宿自体が中止の運びになることも懸念されたが、行き先を当日まで生徒たち自身にも明かさないことでそれに対応することになった雄英高。同じヒーロー科であるB組も合同ということで集合場所ではその姿に新鮮さも感じつつ、それぞれバスに乗り込んで出発した。

「林間合宿、どんなんだろうねぇ」

「知るか。どーでもいいわンなこと」

隣に座る勝己くんはケッと吐き捨てた。その姿に素直じゃないなぁ、なんて思っていれば、ざわざわと車内が騒がしくなり始める。

「ポッキーちょうだい!」

「音楽かけようぜ!」

「しりとりしようよ!」

「ポッキーちょうだいよ!」

誰かがものすごくポッキーを欲しがっているのを耳に、目を閉じた。


◇◇◇◇◇


「おい、ついたぞ間抜け面」

「んえ?」

ゆらゆらと揺り起こされ、沈んでいた意識を浮上させる。起こしてくれた勝己くんに「ありがとう」を返しながら欠伸をこぼせば、「ねみぃんか」と問いかけられた。それに「ちょっと昨日夜遅くまで起きてて……」と素直に返せば、「そーかよ」と吐き捨てられる。興味がないわけではないがそれを表に出さないようにしているのだろう。やはり素直じゃない勝己くんに小さく笑い、バスを降りる。

降車した先は、パーキングではなかった。どこかの広場らしく、崖のふちに建てられた柵の向こうを見れば、連なる山々が広がっている。

「ねぇB組は?」

「お……おしっこ……」

ここで止まったのはA組のバスだけ。B組の姿はどこにもない。峰田くんがそろそろ限界そうだが、トイレすらどこにも見当たらなかった。

「何の目的もなく、では意味がないからな」

「よーーーう! イレイザー!!」

響く声。消太さんが軽く頭を下げる姿を横目に振り返れば、そこには三人の人影が。

「ご無沙汰してます」

「煌めく眼でロックオン!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!」」

バーン!と勢いよく現れたのは可愛らしい服に身を包んだ女性二人と、小さな男の子が一人。プロヒーロー”プッシーキャッツ”の皆さんだ。

「わあ、ワイプシ! 私好きなんだー!」

感動に目を煌めかせれば、「あら、じゃあ後でサインあげないと」とマンダレイ。そのファンサにありがとうございます!、と心の中で叫べば、出久くんがいつものやつを披露する。

「連名事務所を構える4名1チームのヒーロー集団! 山岳救助等を得意とするベテランチームだよ! キャリアは今年でもう12年にもなる……ヘブ!!!」

出久くんの解説が、「心は18!」と途中で土を操るピクシーボブに止められてしまった。その様子に苦笑しながら、テレパスを使うマンダレイが山の奥のほうを静かに指さす。

「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね。あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」

「遠っ!!」と声があがった。その声の通りマンダレイの指差す方向を見れば、はるか遠くに見える山が一つ……。

「え……? じゃあなんでこんなハンパなところに……」

「いやいや……」

「バス……戻ろうか……な? 早く……」

嫌な予感。皆もそれを感じ取ったのか、じりじりと後退していく。

「今はAM9:30……早ければぁ……12時前後かしらん」

「! ダメだ……おい……」

「早くバスに戻ろう!」

「早く!」

しかし無情にも、バスは誰も乗せることなく発車した。生徒たちが絶望に顔を青ざめさせる中、マンダレイが「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」と楽しそうに笑う。
ピクシーボブもにやりと笑って、個性である“土流”を発動させた。
ピクシーボブの個性により、生徒全員が盛り上がる土に流され柵の下へと運ばれる。

「悪いな。……合宿はもう、始まっている」

だよね。知ってた。
私はとほほ、と空を見上げた。

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