一人
あっという間に一週間が過ぎ、期末試験が始まった。
数日に及ぶ座学の試験は、手応えがあるので恐らく赤点はないだろう。問題はここからだ。
戦闘服に身をつつんだ私たちは集合場所に指定されたバスターミナルに集まった。そこには既に教師陣がずらりと並んで待機している。その数の多さに目を見開くクラスメイトたちは、消太さんの説明に耳を傾ける。
「それじゃあ、演習試験を開始していく。この試験でももちろん赤点はある。林間合宿行きたけりゃみっともねぇヘマはするなよ。……諸君なら事前に情報仕入れて何するか薄々わかってるとは思うが……」
「入試みてぇなロボ無双だろ!」
「花火! カレー! 肝試ー!!」
「残念!! 諸事情があって今回から内容を変更しちゃうのさ!」
「校長先生!」
三奈ちゃんと上鳴くんが声をあげると、消太さんの首に巻かれている布がもぞもぞと動きだし、ひょこ、とねずみともモルモットとも表現しがたい動物──もとい、根津さんが姿を現した。
根津さんからさらりと軽い調子で飛び出した『内容変更』という言葉に、上鳴くんと三奈ちゃんの動きがぴたりと止まる。
二人だけじゃない。他の生徒たちにも少なからず動揺が走り、皆一様に驚きや不安といった表情を浮かべた。
「変更って……」
不安そうな顔の百ちゃんが代表して根津さんに訊ねる。
根津さんは「それはね……」と、消太さんの肩から降りながらかいつまんだ説明を始めた。
先生方は敵活性化を懸念していた。会議を開き話し合った結果、これからの社会、対敵戦闘が激化すると仮定した場合、従来のロボとの戦闘訓練は実戦的ではないという結論に落ち着いたらしい。
「これからは対人戦闘・活動を見据えたより実戦に近い教えを重視するのさ! というわけで諸君らにはこれから二人一組チームアップでここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」
教師との戦闘訓練。わかってはいたが緊張する。
「尚、ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度……諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表していくぞ」
消太さんからペアの組と先生が発表されていく。次々とクラスメイトの名が呼ばれていく中、私の名前は最後まで発表されることがなかった。
二人一組チームアップ。
この一言を聞いた瞬間、いや、ここに入学した時から覚悟はしていた。21人いる奇数のこのクラスではどうしても一人余りが出る。そして、私は『特別推薦枠』。一般入試や推薦入試を経て入学した他の皆とは違う立場で入学した人間だ。
「……最後に、神道。お前は一人でブラドキングを相手にしてもらう」
教師陣の中から、筋肉質で、下顎から突き出た牙と、左頬に十字傷があるのが特徴の男性が歩み出る。隣のヒーロー科B組の担任も勤めているブラド先生だ。
「一人!?」
消太さんの言葉を聞いて、クラスの皆の視線が一斉に私に向けられる。
「……はい。わかりました」
「そんな、一人って……!」
「神道の負担半端ないじゃん!」
「もちろん、本来二人一組の試験を一人で行う以上、採点基準は考慮してある」
消太さんはそう言って、各自バスに乗り準備されたステージへ移動するよう指示した。試験の概要は到着し次第、各々の対戦相手から説明されるらしい。
「一人……」
私は己の掌を見つめる。耳元であの声が、「自由になろう」。そう言った気がした。
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