イメチェン?
「……あの、カリン──」
「行ってきます」
顔を伏せて家を出る、久しぶりの登校日。背後から聞こえる悲しげな「行ってらっしゃい」に顔をあげることなく、私は轟くんとの待ち合わせ場所へと急いだ。
職場体験終了後。ホークスさんが言った通り、私はおじさまとまともに言葉を交わせないでいる。自分の中に蔓延る蟠りが、なかなかに解れないのだ。だから、まともに顔も合わせられていない。実に微妙な関係が、昨日から続いていた。どうにかしなければいけないと思いつつ、どうすることもできない。私はまだまだ子供だ。自分自身に気落ちする。
「……おはよう、轟くん」
「はよ。……なんかあったか?」
待ち合わせ場所にて轟くんと合流すれば、轟くんは私の顔を見て不思議そうに首をかしげた。そんな彼に「なにもないよ」と笑みを浮かべれば、若干不服そうにしながらも、彼はうなずいて歩き出す。
──やっぱ顔に出てるのか……。
私は自身の顔に触れながら、ひそりとため息を吐き出した。
◇◇◇◇◇
「おはよ……ぶっ!」
「お」
特に何事もなく登校し、教室に入った瞬間。私はたまらず吹き出した。後ろにいた轟くんがちょっと驚いたような声をあげている。
「か、勝己く、なにその髪型っ……ふふっ!」
「笑ってんじゃねーぞクソ女!!!」
ぐるんと振り向いた勝己くんが怒鳴り声をあげる。しかし面白すぎてそれどころではない。
勝己くんは今現在、いつものツンツンとした髪型ではなくピッチリと固められた七三分けになっていた。私と同じく笑いを堪えている切島くん達が言うには、ベストジーニストのところでお世話になった際にこの髪型にされ、クセづいたせいでいつもの髪型に戻らず今日を迎えてしまったらしい。
「や、やばい、最高っ。写真撮っていい? 記念に一枚……」
「ぶっ殺すぞクソ女!!!」
「ぶはっ! 戻ったっ!」
怒りが頂点に達したようだ。固まっていたはずの髪がボン、と音を立てて元に戻る。だめだ。腹筋が死ぬ。ひいひい言っていれば、轟くんから「大丈夫か?」と背を擦られた。優しい……。
「あ、ありがと、轟く……ふっ、でもだめ! 思い出したら笑う!」
「テメェそろそろ覚悟はできてんだろーなオイ」
「あいたたた! 勝己くん痛い痛い!」
グイグイと頭を押され、痛みを訴える私。それに満足したのかどうかはわからないが、勝己くんは「チッ!」と舌を打ち鳴らすとズカズカと自分の席へ歩んでいく。
「大丈夫か、神道」
「う、うん。大丈夫。治まった」
笑いすぎて滲んだ涙をそっと拭い、乱れた髪を手櫛でとかす。そうして席へと赴けば、「カリンー」と三奈ちゃんから呼ばれるのだった。
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