魔女ヒーロー | ナノ



止めてくれる人

それからの職場体験日和は災難だった。なにを思ってか、人前でスキンシップを取り出すホークスさんを何度鉄拳で沈めたかわからない。仕事は真面目にするのに隙あらば迫ってくる彼に、私はほとほと困り果てた。相棒たちや常闇くんは助けるどころか完全に見守る体制になっており、なんだかそれも悲しいものだ。やっぱおじさま召喚するべきなのかな……。めちゃくちゃ悩んだ。

そんなこんなで職場体験最終日。

「ホークス。あの体育祭、ホークスはなぜ俺を指名した? 聞くところによると、指名に参加したのは今回がはじめて。神道を好いていることは見ればわかる。それ故に指名をしたことも一目瞭然。だが、わかるのはそれだけ。俺が指名された理由がわからない」

釈然としない顔でホークスさんに問いかけた常闇くんを、私はホークスさんに捕獲されながらも振り返る。迫る顔を両手で押し返す状態で停止した私を好機と言いたげに抱き込んだホークスさんは、そのまま己の翼から赤い羽根を一枚抜くと、軽く掲げる。

「鳥仲間」

「おふざけで?」

「いーや、二割本音。半分は一年A組の人から話を聞きたくて。君らを襲った敵連合とかいうチンピラのね。んで、どうせなら俺に着いてこれそうな優秀な人ってことで、上位から良さげな鳥人を……」

「……」

常闇くんは黙った。そして、不満げな顔でホークスさんを見つめる。
そりゃそうだ。実力でスカウトされたのではなく情報欲しさと見た目だけで選ばれたのなら誰だって不満を抱くだろう。私はホークスさんの腕の中、「常闇くんは伝書鳩じゃないですよ」と声を発す。

「うん。そやね。まあ結果的には伝書鳩みたいな役割させちゃったし、そこはごめんね。でもお陰でいい情報が仕入れられた。君には感謝しとるよ、常闇くん」

「……」

常闇くんは踵を返し、出ていった。その姿を見つめ、停止した私は、「ホークスさん言い方……」と鼻歌混じりに髪の毛を弄ってくる彼を見やる。

「あの子は大丈夫やろ。そんな弱い子やないし」

「いやでも誰だってあんなこと言われたら不満に……」

「不満に思って立ち止まるならそこまでよ。それよかカリンちゃん。俺はカリンちゃんのが心配やけど……」

「へ? 私?」

顔をあげれば、ホークスさんは「うん」と頷いた。

「敵から声かけられた言いよったやろ? んで、それに対してカリンちゃんは悩んどった。力を制限されとる事実が、苦しくてたまらんのやないん?」

「それは……」

「オールマイトさんとも一悶着あったみたいやし、帰ってから仲良くできるんか、とかが心配」

「……私が敵になることが不安なだけなのでは?」

「まさか! 例えカリンちゃんが敵になろうとも、俺はカリンちゃんのこと愛しとるけん問題なかよ。まあでも、万が一そうなった場合はカリンちゃんのこと捕まえて一生俺の傍に居させるようにするけど……」

「こわっ」

「冗談」

いや今の全く冗談に聞こえなかった……。
そっと身を引こうとする私を再度腕の中に閉じ込めながら、ホークスさんは「本音を言うとね」と私の頭に顎を乗せた。

「カリンちゃんにはヒーローになんてなってほしくないんよ。ヒーローってほら、楽しいことばっかやないし、怪我することも多いし危険な職業やから……」

「別に私はヒーローになりたいと思ってませんけど……」

「でも周りの勝手で、カリンちゃんはヒーローにさせられそうになっとる。自分の意思とは関係なく、無理矢理……」

「……」

なにを思って、彼は言葉を紡いでいるのだろう……。

昔読んだ彼の過去を思い返しながら、その肩口に頬を寄せる。「大丈夫ですよ」。小さく紡げば、そっと頭を撫でられた。

「ただ、私がもし、道を間違えた時は……ホークスさんが、私を止めてくださいね」

「大丈夫。そうなる前に止めるけん。伊達に『速すぎる男』って呼ばれとるわけやないよ、俺」

「そうですか。それは良かった」

言って、そっと目を閉じ、身を任せる。
心は落ち着いているというのに、耳にはあの忌々しい声が、招くように響いていた。



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