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職場体験3日目。
特に何事もなく時間は進んでいた。パトロールを行うも敵は姿を見せない。まあそりゃそうだよな。と思う反面、ちょっと刺激がないことにつまらなさを感じる。平和が一番だというのに、私やっぱりヒーロー向いてないんじゃ……。
「……神道、どうかしたか?」
ふと隣を歩く轟くんに問いかけられ、慌てて「な、なんでもないよ!」と両手を振る。轟くんは不思議そうにしながらもそれ以上追及することはなく、私はその事実にホッと安堵し肩を撫で下ろした。
「きゃー! 敵が!!」
ふと、悲鳴が聞こえ、そちらを向いた瞬間に背後で爆発音が鳴る。何事かとそちらを見れば、前を行くエンデヴァーさんがニヤリと笑みを浮かべた。まるで、この時を待っていたかのように。
「焦凍ォ! 神道! ついてこい! ヒーローというものを見せてやる!!」
言って、黒煙のあがるほうに向かって走り出したエンデヴァーさん。それに続こうと足を踏み出そうとした直後、轟くんが立ち止まった。見れば彼は携帯を見ているようで、ハッとして私もポーチから携帯を取り出す。
「──出久くん……」
携帯には案の定、地図の位置情報だけが届いていた。クラス全員に一括送信されたそれを見て、いよいよかと腹を括る。
「……轟くん」
「ああ。行くぞ」
「うん」
「どこへ行くんだお前ら!!」
駆け出す私たちに、エンデヴァーさんの怒鳴り声が響く。
「江向通り、4-2-10の細道。そっちが済むか、手の空いたプロがいたら応援頼む。そっちの事件は任せた。お前ならすぐ解決出来んだろ!」
「……っ」
「──友達が、ピンチかもしれねぇ」
振り返らずまっすぐ走り去る轟くんの姿に、エンデヴァーさんは目を見開いていた。
「エンデヴァーさん、すみません! 私も大切な幼なじみのSOSを黙って見過ごすことはできないんです! ごめんなさい!」
エンデヴァーさんは私達を追って来なかった。きっと轟くんの言った通り、事件を解決して駆けつけてくれることだろう。
「嫌な予感がするね」
「ああ、急ぐぞ」
轟くんの言葉に頷き、走るスピードを早める。ああ、上手くやれるかな。自信のなさに、押し潰されそうだった。
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