公園にて
やってきたのは家から近い所にある小さな公園。そこに備え付けられたベンチに二人で腰かければ、轟くんは「なあ」と話を切り出した。
「え?」
「……神道、あの時言ってたよな。“その個性は、両親の力じゃなく、君の力だと思う”って。“なにを抱えてるかなんて聞くつもりはないけど、自分の力を人の力だとか、そうやって置き換えるのはやめた方がいいと思う”って」
本当にその通りだと、今になってわかったんだ。
そう、彼は言葉を紡いだ。
「……俺の親父はエンデヴァー。万年No.2のヒーローだ。知ってるだろ?」
「う、うん」
「親父は個性婚という手を使い、俺を産み出した。最高傑作の俺を、オールマイトをも越す作品として育て上げるために。俺はついこの間まで、親父が憎くてたまらなかった。けど、緑谷にいろいろぶっ壊されて、なにが正しいのか。それがいろいろわかんなくなった。自分が本当に正しいのか。親父を憎み続けることが正しいのか。わかんなくなった」
下を向き、己の掌を見つめる轟くんの顔は、ちょっとだけ柔らかいものになっていた。その顔から本当にわだかまりが取れたんだな、ということを察しつつ、私は彼の紡ごうとする言葉をひたすら聞き続ける。
「……この間、お母さんに会いに病院に行った。そこでお母さんと話して、俺は俺のやるべきことにやっとたどり着けた気がした。スタートラインに、ようやく立てた気がした。これも緑谷と神道のお陰だ。ありがとな。今日はそれ言いたくて、時間とってもらったんだ」
顔をあげた轟くんに、重いなぁ、なんて思いながら、「私はなにもしてないと思うけど……」と苦笑する。そんな私に、轟くんはゆるく首を横に振ると、そっと笑った。
「神道の言葉、確かに響いてた。切っ掛けは緑谷だったけど、神道も俺を変えてくれた一人だ」
「んー、轟くんがそう言うならそうなんだろうと思っておくよ」
にへら、と笑いそう告げれば、轟くんはこくりと頷いてくれた。その動作になんとなく安心を覚えつつ、「じゃあ職場体験はエンデヴァーさんのところなんだろうな」なんて確信をついてみる。
「……どうしてそう思うんだ?」
「なんとなく。今の轟くんなら、エンデヴァーさんを選びそうだなと思っただけ。父親であるエンデヴァーさんが轟くんを指名しないわけないしね」
「……そうか」
ふっと笑んだ轟くんは、そこで「神道はどこに行くんだ?」と話題を変えた。私はそれに、一拍の間をあけ「君と同じところ」と返しておく。
「同じところ? 親父から指名来てたのか?」
「うん。多分、個性に目をつけられただけだと思うけど……ナンバーツーだしこの間助けてくれたし、ってのもあって学校側もエンデヴァーさんのとこ選んだんじゃないかなぁ」
「……その、良いのか? 自分で言うのもなんだが、親父は……」
「うん。大丈夫大丈夫」
こくりと頷き、にこりと笑う。
「これはあくまで職場体験なんだから、そんなに心配しないでも大丈夫だよ」
「……そう、だな」
歯切れの悪い返事だが、納得はしてくれたらしい。口を閉ざした轟くんに内心ホッとしつつ、「そろそろ帰ろっか」と立ち上がる。それに頷いた轟くんも立ち上がれば、私たちはどちらからともなく足を動かし、静かな公園を後にした。
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