魔女ヒーロー | ナノ



対決




レクリエーションタイムは体力回復に時間を費やした。出来るだけ目立たない場所で皆の姿を応援する私は、静かに己の掌を見つめる。
目指すは三位。それ以上はいらない。
そう思っていた気持ちは、勝己くんとの会話で変わりつつあった。それが良いことなのか、悪いことなのか。今の私にはまだわからない……。

全てのレクリエーションが終わり、ついにその時はやってくる。予選を勝ち抜いた18名による、本戦トーナメント。1対1のガチバトルが。

「誰と当たるかは運次第! さぁいくわよ!」

周囲の盛り上がりに気をよくしたのか、ミッドナイト先生が笑いながらくじの箱を取り出した。だがそこに、棄権を申し出る者が一人。尾白くんだ。

騎馬戦の記憶がほぼなく、自分が何をしたかもわからないままトーナメントに出場するのは、力を出し切ってきた皆に失礼なんだと、彼は語る。

「気にしすぎだよ! 本戦でちゃんと成果を出せばいいんだよ!」

「そんなん言ったら私だって全然だよ!?」

透ちゃん、三奈ちゃんが尾白くんを囲んで言うが、尾白くんは否定するように首を振る。

「違うんだ……! 俺のプライドの話さ……俺が嫌なんだ」

決意は固いようだ。
すると、B組の生徒も手をあげ自分も辞退すると申し出る。

「僕も記憶がなく……棄権したい! 実力如何以前に……何もしてない者が上がるのは、この体育祭の趣旨と相反するのではないだろうか!」

「……」

やっぱそうなるよな、なんて思いながらミッドナイト先生を見つめた。少し考えた先生は、手に持った鞭を振り上げ、口を開く。

「そういう青臭い話はさァ……好み!!!!」

パァンッと鞭が叩きつけられる。どうやらミッドナイト先生は二人の棄権を承認したようだ。

「二人分の空席はどうなるんですか?」

「6位だったB組の拳藤チームの中の2人が繰り上がることになるわね」

「それなら……ほぼ動けてなかった私らより、最後まで頑張って上位キープしてた鉄哲チームじゃね?」

「「!!」」

「慣れ合いとかじゃなくてさ、フツーに」

ポニーテールを揺らして微笑んだ拳藤さんに、鉄哲くんは「おめェらァ!!!」と感動の声をあげている。そんな彼らを尻目、私は尾白くんの傍へ。そっと声をかける。

「尾白くん……えっと……」

「神道さん。さっきも言ったけどこれは俺個人のプライドが許さなかっただけだから……君は頑張って」

「……うん」

そう言われるも、正直心境は複雑だ。
「応援してるよ」と握りこぶしを見せる彼に曖昧に笑い、「ありがとう」を口にする。とりあえず、彼に恥じない戦いを見せよう。私は心の中で決意した。


◇◇◇◇◇


『さあさあやって来たぜ女子対決! 溶かす芦戸三奈対こっちはまだ未知数! 神道カリン!』

第一、第二試合と続く中、ついにやって来た一回戦。目の前で腕を回す三奈ちゃんが、「負けないよ、カリン!」と元気よく声を張り上げている。それに応えるように微笑めば、同じくして試合開始の合図が響いた。駆け出した彼女を前、私は片手をあげ、指先を軽くはじく。

「んぎゃっ!?」

奇妙な声をあげ、三奈ちゃんの体が後方へ引かれた。かと思えば、彼女はあっという間に場外へ。戦う間もなく試合は終わる。

『うおおおお! 魅せた神道! 華麗なる“重力操作”! 芦戸なす術なく場外だーーーー!!!』

「ええええ!!? うそぉおおおお!!?」

へなりと座り込んだ三奈ちゃんに「ごめんね」と謝罪。すぐに「全然許す!」と微笑まれ、私は彼女のおおらかさに感謝する。懐大きいってすごい。

「やっぱカリン強いわ! この調子で次もがんばってね!」

「うん。ありがとう、三奈ちゃん」

立った彼女と握手を交わし、ステージを後にする。去り行く背中には、大きな歓声が降りかかっていた。


◇◇◇◇◇


『二回戦第三試合! 常闇対神道!! START!!!』

「行け、黒影(ダークシャドウ)
……!」

「アイヨ!」

続けて二回戦。相手は常闇くん。個性は黒影(ダークシャドウ)。近接戦闘ではないタイプの相手だ。まあ、私には関係ないのだが……。

向かってくる黒影に、一回戦同様指先を動かす。そうして重力で相手を場外に引っ張れば、呆気なく勝敗は決した。ひざしさんが『神道WIIIIIIIIIIN!!!』と大きな声で勝者宣言をしてくれる。これで三位は確定だ。ホッと安堵の息を吐いてステージを降りる。さて、これからどうしようか……。己の掌を見つめ、息を吐く。

原作通りに進むなら、私は来る三回戦に勝己くんと当たる。そこで彼に敗北しないといけないわけなのだが……。

思考しながら、ギュッと手のひらを握りしめた。本気を出さなければ相手に失礼なこの試合、さてどう切り抜けるべきか。
そこまで考えたところで、前方に見知った姿が現れた。どこか緊張した面持ちでステージへと向かうその人物は、幼馴染みの緑谷出久だ。彼は私の姿に気がつくと、「あ、カリンちゃん……」と私の名を口にした。

「や、出久くん。これから? 頑張ってね」

「あ、うん。ありがとう! カリンちゃんこそお疲れ様!」

労りの言葉をかけてくれる出久くんにありがとうを返し、私はそそくさとその場を去る。そうして、訪れたのはスタジアムの外だった。人気の少ないそこは、非常に静かで心地の良い場所だ。
遠くから聞こえる破壊音と、それとは別の楽しげな声を耳に、スタジアムの壁に背を預ける。そうして息を吐き出せば、緊張がゆるんでいくような、そんな気がした。

「……勝己くん、力抜いたら怒るだろうな」

だからと言って本気をだせば、私の勝利は目に見えている。それほど自身の個性は強いのだ。侮ってはいけない。
はぁ、と一つ息を吐き出し、スタジアムの方に目を向ける。未だ鳴る轟音に、僅かに瞳を細めて見せた。

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