魔女ヒーロー | ナノ



敵情視察


その日の放課後。ざわざわと騒がしい声が、1−Aの教室前に響いていた。

「ふぉぉ……何事だぁ!?」

お茶子ちゃんがドアの前で立ち止まり、前方を仰視する。そこには、たくさんの生徒達がドアや窓から教室内を覗く姿が。
おそらく、敵情視察だ。興味深げにA組内を覗いている彼らを見て、物好きだな、なんて考える。

「出れねーじゃん! 何しにきたんだよ!」

「敵情視察だろザコ」

峰田くんの言葉をぶったぎり、勝己くんはドアに向かった。峰田くんが悔しそうに出久くんを見ている。
ごめんなさいね。あれが彼の通常運転なんだ。
ああ、幼馴染みながらに頭がいたい……。
私はこめかみを押さえた。

「敵の襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭(たたかい)の前に見ときてぇんだろ」

勝己くんはギロリと群がる生徒達を睨んだ。

「意味ねェからどけモブ共」

「知らない人の事とりあえずモブっていうのやめなよ!!」

飯田くんが指摘を入れるが、勝己くんは気にした様子もない。どころか、やはり通常運転でモブと吐き捨てた生徒たちのことを見下している。
と、ふと、人だかりからとある男子生徒が前に出て来た。その姿を見た私は、思わず「あ」、と声を漏らす。

「心操くん……」

「や、神道さん。久しぶり。どんなもんかと見に来たが、ずいぶん偉そうだなぁ、君のクラス……ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?」

「あぁ!?」

「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ……。普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったって奴けっこういるんだ。知ってた?」

髪の毛を逆立てている男子生徒、こと心操人使は、勝己くんの睨みも気にせず淡々と話す。

「体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然り……」

その言葉に、「ヒーロー科を落とされる」という可能性があることを理解するA組の生徒達。
その様子を見て少し笑った心操くんは、言葉をつづけた。

「敵情視察? 少なくとも普通科(おれ)は、調子のってっと足元ゴッソリすくっちゃうぞっつー宣戦布告しにきたつもり」

まさかの宣告だ。これは驚くのも無理はない。
室内が驚きの渦に飲まれていると、続いて、大きな声が廊下から響いた。

「隣のB組のモンだけどよぅ!! 敵と戦ったっつぅから話聞こうと思ってたんだがよぅ! エラく調子づいちゃってんなオイ!!! 本番で恥ずかしいことになっぞ!!」

「……」

無言の皆。そして勝己くんに集まる視線。
しかし勝己くんはそれらをまったく気にせず、人込みをかきわけて帰ろうと足を動かした。

「待てコラどうしてくれんだ! おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねえか!!」

切島くんの言葉に、勝己くんは告げる。

「関係ねえよ……上にあがりゃ、関係ねえ」

行くぞ、と促され、私も慌てて教室の外へ。じっ、とこちらを見てくる心操くんに一礼してから、「待ってよ、勝己くん!」と早足の彼の隣に無事並ぶ。

「もー……よかったの? あんなこと言って……」

「あ? 良いもなにもホントのこと言っただけだろーが。それよかお前、あの隈男と知り合いか?」

「え? ああ、心操くんのこと? 入試の時にいろいろあって知り合ったけど、それがなにか?」

「……別に」 

どこかぶっきらぼうな勝己くんに、内心首をかしげる。しかし勝己くんがそれ以上口を開くことはなく、結局その態度の意味を聞けることはなかった……。

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