魔女ヒーロー | ナノ



侵入者




──なぜこうなった。

お昼の時間。相変わらず賑わっている大食堂で昼食をとる私。そんな私の目の前には、轟くんの姿があった。注文した蕎麦をズズズッ、と食べる彼は、一向に箸を進めぬ私に「食わねえのか?」と声をかける。

「ああ、いや、うん……食べます……」

言ってようやく、私は目の前のハンバーグ定食に手をつけた。

事はつい先刻のことである。今日こそは出久くんとお昼を共にしようと意気込んでいた私は、勝己くんに話しかけられるよりも先に出久くんへ近づこうとしていた。そんな私に、轟くんからの「神道」という声が降りかかる。

「え? なにかな、轟くん?」

「昼。よかったら一緒に食わねえか?」

「へ? うん、いいけど……え?」

予想だにしない声かけに思わず素で頷いてしまった私は、それを否定に変える間もなく「行くぞ」と告げた轟くんと食堂へ。こうして昼食を共にしているわけである。

(猫の件が気になってるのかな……したら別に昼食誘わなくてもよくないか……?)

悶々と考えながら、定食についているスープを飲む。ほんのりとしたあたたかさに、心が落ち着いていく気がした。

──ウウー!!!!

と、謎の警報音が食堂全体に響いた。次いで、機械的な音声のアナウンスが流れはじめる。

《セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ批難してください》

セキュリティ3が突破。侵入者だ。
近くの窓から外を見れば、報道陣が押し寄せている様子が確認できた。轟くんもそれに気づいたのだろう。「マスコミか」と箸を置く。

「みたいだね。どうしよっか」

「危害がないなら動かなくてもいいんじゃねえか?」

「だよね」

私たちは食事を再開することに。食堂の出入口が大変になっていることなど気にすることもなく、各々箸を進めていく。

「でも、変だよね」

「なにがだ?」

「だって雄英のセキュリティだよ。それがマスコミごときに突破されるなんてあり得ない。誰かが手引きしたとしか思えないよ」

「……言われれば、そうだな」

そんな会話をしていると、人混みの頭上をものすごい勢いで通過する人影が見えた。
その人影は、非常口のライトの上に、まるで非常口のマークのようなポーズで止まる。よく見ると、その人影というのは飯田くんだった。

飯田くんはすう、と息を吸い込むと声を張り上げて叫んだ。

「大丈ー夫!! ただのマスコミです! なにもパニックになることはありません。大丈ー夫!!」

飯田くんの声に、彼に気づいた人が次々と動きを止める。

「ここは雄英!! 最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」

その後の事態の沈静化は驚くほど早かった。正しい情報さえあれば落ち着くのもあっという間のことで、すっかりいつも通りの雰囲気に戻った食堂にさすが雄英と内心呟く。遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえるので、侵入してきたらしいマスコミは、速やかに警察に引き渡されたのだろう。

「……終わったね」

「……ああ」

特に何事もなかったように賑わい出す生徒たちを苦笑混じりに眺め、再び視線を外へ。遠くに見える門が半壊されているのを確認し、目を細める。

脅威が迫っている。
もうすぐそこまで……。


◇◇◇◇◇


「──ホラ、委員長。始めて」

「でっでは、他の委員決めを執り行って参ります……けど、その前に……いいですか!」

お昼の一件が落ち着いて、他の委員決めに取りかかろうという時。出久くんは緊張した面持ちながら、しっかりとした意思を瞳にたたえて口を開いた。

「委員長は、やっぱり飯田くんが良いと……思います! あんな風にかっこよく人をまとめられるんだ。僕は……飯田くんがやるのが正しいと思うよ」

「あ! 良いんじゃね!! 飯田、食堂で超活躍してたし!! 緑谷でも別に良いけどさ!」

出久くんの言葉に飯田くんの活躍を目にした面々から賛成の声があがる。
私も声には出さないものの、うんうん、と頷いた。

「非常口の標識みてえになってたよな」

「何でも良いから早く進めろ……時間がもったいない」

「ヒッ!!」

「……委員長の指名ならば仕方あるまい!!」

「任せたぜ、非常口!!」

「非常口飯田!! しっかりやれよー!!」

こうして委員長、副委員長が決まり、学校生活も本格的にスタートした。

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