魔女ヒーロー | ナノ



戦闘服




「おい、カリン。飯行くぞ」

翌日、昼時。いきなりのように勝己くんに誘われた私は、まず始めに「え?」を口にした。というのも、昼は出久くんと食べようと思っていたからだ。中学の時もそうだったので、まさか勝己くんに誘われるなんて思ってもみなかった結果、困惑が口からこぼれ出たわけである。
で、あるのだが、それを許さないとでも言うように勝己くんは私の腕を掴み、そのままズルズルと食堂まで引きずっていく。背後で「カリンちゃん!?」と驚く出久くんの声が聞こえたのは、きっと気のせいではないだろう。

「か、勝己くん! ストップストップ!」

「あ? ンだよ、文句あんのか?」

「い、いや、ない……けど……とりあえず離してほしいな。でないと歩きにくいしなによりこのままだと囚われの宇宙人みたいで私が嫌だ」

早口に、捲し立てるように言えば、勝己くんは大人しく腕を解放してくれた。なので改めてというように彼の隣に並び、食堂までの道を二人で歩く。

雄英の食堂では、クックヒーロー、ランチラッシュの料理が安価で食べられる仕様になっていた。勝己くんは激辛の担々麺を。私はオムライスを注文し、人気の少ない角の席にて、向かい合うように腰を落ち着けその場に座る。

「ねえ、勝己くん」

「あ?」

「なんで私を誘ったの? 勝己くんなら絶対他の人と行くと思ってたから、少し意外で……あ、もしかして友達できてないとか?」

「あ゛!? 舐めんな! いるわそんなもん!」

「あ、いるんだ」

素直に感心する私に、勝己くんはイライラした様子で「ンなに不満だったらどっか行け!!!」と怒鳴り散らす。が、私はめげない。めげずに「え、やだよ」と一言返した。

「ああ゛!?」

「だって折角勝己くんが誘ってくれたんだもん。またいつ一緒に食べれるかわかんないし、この機会を逃す手はないよね」

「ざけんな! いつでも食べれるわボケ!!」

「お、また一緒してくれるの? ありがとう、勝己くん」

勝己くんは優しいなぁ、なんて言いながらオムライスにスプーンを突っ込む。ふわとろの卵に絡み合うケチャップライスが、非常に良い味を出していた。


◇◇◇◇◇


「──わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!」

予想以上に普通の授業を受けた日の午後。ヒーロー基礎学の担当であるおじさまがやってくると、教室がほんの少しばかりざわめいた。中にはおじさまの濃さに鳥肌をたてている者もいる始末。
うん。わかる。あの濃さ鳥肌たつよね。わかる。
私は心の中で同意を示した。

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為様々な訓練を行う課目だ!! 単位数も最も多いぞ! 早速だが今日はコレ!! 戦闘訓練!!!」

そう言い突き出されたおじさまの手には『BATTLE』のカードが持たれていた。そしてそれに伴って用意されたのが、入学前に送った個性届と要望に沿ってあつらえた戦闘服。
教室の壁一面に並べられた戦闘服は、それぞれ出席番号が記されているようだった。

戦闘服を手に教室を出て、更衣室へと向かう。そこで自身の衣装を確認する私に、「ちょっといいかしら」と声がかかった。慌てて振り向けば、笑顔を浮かべた蛙吹さんがいる。

「は、はい。えと、なんでしょう……」

「私は蛙吹梅雨。梅雨ちゃんと呼んで。私、あなたとお友達になりたくて声をかけたの」

まあ、なんと、なんと嬉しいお声がけか……!
感動して震える私に、「カリンちゃん?」と蛙吹さ──梅雨ちゃん。慌てて「あ、うん! 友達! いいね! なるなる!」と謎の台詞を並べ立てれば、「嬉しいわ」と梅雨ちゃんは微笑んだ。

「あ! いいね! それ私も仲間にいれて!」

「へ?」

「私芦戸三奈! よろしく!」

「あ、じゃあ私も! 葉隠透だよ!」

わいわいきゃっきゃっと沸き立つ更衣室内。慌てて自身も名乗れば、「カリンね! 覚えた!」と芦戸さんから親指をたてられる。

おお、フレンドリー。

彼女たちのコミュ力に感動した。

「カリンは特別推薦枠なんだよね? 雄英から打診されるってことは相当すごい個性ってこと!?」

「え、やー、普通だよ?」

「えー、ほんとにー?」

「ほ、ほんとほんと。ほら、それより早く着替えよう? オールマイト先生待たせちゃうし……」

言って戦闘服を取り出した私は、変なところがないか入念にチェックしながらそれに腕を通した。

私の戦闘服は魔女っ子を模した戦闘服だった。紫と黒を基調に構成されたそれは、まあまあ良い感じのデザインになっている。

トップはゴスロリをもうちょい大人しく、かわいくしたデザインのワンピースに膝上まで広がるマント。ワンピースの下には黒い短パンを履いており、誤っても事故が起きないように調節している。
頭には漆黒の魔女帽子に、腰元には小道具を入れるためのポーチが提げられていた。ブーツは膝丈の長さだ。

うん。かわいい。
もうとっくにそんな年ではないのだが、でもそのかわいいデザインに嬉々としながら魔女帽子を頭に被る(ズレないように個性で固定した)。

「わあ! カリンちゃん、似合ってる! 魔女さんだ!」

寄ってきたお茶子ちゃんに「ありがとう」を告げ、微笑んだ。

「お茶子ちゃんも似合ってるよ、その戦闘服」

「えへへ……私は要望ちゃんと書いてないからパツパツになってしもうた……恥ずかしい……」

照れたように頭をかくお茶子ちゃんだが、そのすぐ近くには露出の高い衣装に身を包んだ八百万さんがいる。まさに発育の暴力な彼女をお茶子ちゃんと並んで見た私は、そっとお茶子ちゃんの肩を叩く。

「お茶子ちゃん。上には上がいるよ……」

「そやね……私、ちょっと恥ずかしさ吹き飛んだ……」

それは良いことだ。
グッと拳を握ったお茶子ちゃんと二人、更衣室を後にした。


◇◇◇◇◇


「いいじゃないか皆。カッコイイぜ!!」

戦闘服を身に纏い、すっかり見た目はヒーローらしくなった私たちを見て、おじさまは一層声を大きくして誉めてくれた。

「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

ガション、とまるで細身のロボットのようなコスチュームの飯田くんが訊ねる。
おじさまは、飯田くんの質問を否定した。

「いいや! もう二歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!! 敵退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内の方が凶悪敵出現率は高いんだ。監禁、軟禁、裏商売……。このヒーロー飽和社会……真に賢しい敵は屋内にひそむ!!」

──真に賢しい敵は屋内にひそむ

おじさまの言葉で思い出したのは、あの事件の日のこと。あまり思い出したくない記憶のため、私はすぐさま頭を振る。いけない。集中しないと……。

「君らにはこれから『敵組』と『ヒーロー組』に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!!」

「!!?」

「基礎訓練もなしに?」

「その基礎を知るための実践さ! ……ただし、今度はブッ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」

習うより慣れろ、ということだろう。
そこで、はい、と百ちゃんが手を挙げた。

「勝敗のシステムはどうなります?」

「ブッ飛ばしてもいいんスか」

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」

「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか?」

「このマントヤバくない?」

「んんん〜〜〜聖徳太子ィィ!!!」

次々と間髪入れずに飛んで来る質問に、おじさまは困り果てたように頭を抱えた。

「いいかい!? 状況設定は『敵』がアジトに『核兵器』を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている! 『ヒーロー』は制限時間内に『敵』を捕まえるか『核兵器』を回収する事。『敵』は制限時間まで『核兵器』を守るか『ヒーロー』を捕まえる事」

おじさまは取り出した小さな紙を読み上げた。どうやら紙の正体はカンペのようで、新米さんだなぁ、とつい和んでしまう。いかんいかん。だから集中しろってば。

「コンビ及び対戦相手はくじだ!」

これまたどこから取り出したのか、おじさまの手には真ん中に穴の空いた箱が収まっている。

「適当なのですか!?」

「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップする事が多いし、そういう事じゃないかな……」

「そうか……! 先を見据えた計らい……失礼致しました!」

「いいよ!! 早くやろ!!」

各々が順番にくじを引いていく。私は一番最初に手に触れたくじを引き、中身を確認する。そこにはアルファベットのIが記されていた。Iって確か……、と考える私の傍ら、出久くんが「Aか……」と呟いている。

「続いて最初の対戦相手はこいつらだ!! Aコンビが『ヒーロー』! Dコンビが『敵』だ!!」

Aコンビは出久くんとお茶子ちゃん。Dコンビは勝己くんと飯田くんだ。

「敵チームは先に入ってセッティングを! 5分後にヒーローチームが潜入でスタートする。他の皆はモニターで観察するぞ! 飯田少年、爆豪少年は敵の思考をよく学ぶように! これはほぼ実戦! ケガを恐れず思いっきりな! 度が過ぎたら中断するけど……」

固まった出久くんにどう声をかけるか悩んだ末、小さくその肩を叩いて私は地下のモニタリングルームに向けて歩きだした。

[ 18/245 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -