突然の電話
チラホラと雪が降る。そんな季節。
あの日から特に代わり映えしない日々に退屈だなぁ、と思いながら部屋の窓から外を見ていた私は、ふと振動した携帯に手をやった。番号を確認すれば、非通知。誰だろう、と思いながら電話に出る。
「もしも──」
『よう。カリンチャン。久しぶりだな』
聞こえた声に、息を止めた。目を見開き携帯を握れば、通話相手は『なあ、会って話をしないか?』と声を発する。
「話……って、なにを……いや、そもそもなんで番号知って……」
『そういうのに詳しいのが仲間になったからな。まあそこはいいんだよ。俺さ、今スッキリしてるんだよな。いろいろ忘れてたこと思い出してさ。超スッキリしてる。体は痛いけど……』
「なに言って……」
『話をしようぜ。とっておきの話を……。今から言うところまで来てくれ。寿司用意して待ってるからさ』
なんで寿司?、と思ったが、『逆らったり誰かにこのことを話したりしたら、お友だちを一人ずつ殺すからな』と言われ従わざるを得なくなる。私は彼の居場所を聞き、通話を切った。そして、個性でカメラを操作し、寮内の全員を眠らせ、飛ぶ。
とん、と降り立ったのは、なにかの施設のような場所だった。そろりと建物に近づけば、扉が開かれ、「お待ちしておりました」と迎えられる。
「死柄木弔がお待ちです。さあ、中へ」
私は招く男に従い、中へと踏み込んだ。
建物の中は、とても静かだった。長い通路を進み、明るい部屋へと踏み込めば、「ああ! カリンちゃんだぁ!」と弾む声。目を向ければ、眼帯を着けたトガヒミコの姿がある。
「かあいいねぇ、かあいいねぇ! 弔くんに呼ばれて来たの?」
「まあ……」
寄ってくるトガから離れ、私をここに呼んだ張本人を探す。が、いない。なんでいないんだ、と不満を抱いていれば、「こちらへ」と男の人から誘導される。それに従い、私は男の人の後を追った。
「──よう、カリンチャン。早いご到着だな」
まるでステージのような壇上に、彼はいた。目の前に大勢の人を集まらせた彼は、壇上に置かれたソファーに腰掛け、じっと前を向いている。
「……話はなに? 先生たちにバレる前に帰りたいんだけど」
「まあそう急かすなって。ほら、座れよ。寿司もあるぜ」
差し出される寿司に片手をつき出すことで断りを入れ、私は運ばれてきた椅子に腰かけた。それを見届け、死柄木は口を開く。
「単刀直入に言う。敵連合は解体した」
「え……」
「そして、新たに異能解放軍を加え、生まれ変わった。その名も“超常解放戦線”」
いい名前だろ?、と問われ、つい口ごもった。そんな私に、「まあ名前なんてただの飾りなんだけどな」と彼は続ける。
「俺さ、ずっと考えてたんだ。カリンチャンがどうやったら俺たちの元に来るか。もっと、もっと力をつければ、恐怖に屈してついて来てくれるのかなとか、いろいろ考えた。けど、答えは一向に出てこないんだよな」
見ろよ、カリンチャン。
死柄木は目の前の人々を指差した。
「あいつらはもう俺の配下だ。ギガントマキアとかいう怪物も俺に従った。力は既に揃った。あと二つ、ドクターの言う力と、カリンチャン。お前だけを残して」
「……」
「カリンチャン。見てわかるだろ? 既に俺たちはお前たちの手の届かない場所まで上ったんだ。お前たちヒーローは俺たちに殺られる未来しかない。これ以上そちら側にいることは無意味なんだよ」
俺と共に行こう。
死柄木は言う。言って、片手を差し出す彼に、私はゆるりと首を振った。もちろん、横に。死柄木はわからないと言いたげに首をかしげる。
「そちら側にいれば傷つくだけだ。そんなこともわからないような頭してないだろ、カリンチャンは……」
「……私は敵には成り下がらない。死柄木には着いていかない」
「どうして?」
「……私には私の、守るべきものがある」
死柄木は首を掻いた。そして、「まあ概ね予想はしてた」と手を離す。
「カリンチャンは後悔するまでそちら側に居続けるんだろうな。可哀想に。利用されるだけされて自由を奪われるだけだろうに……」
「……」
「チャンスは今しかないぜ、カリンチャン」
死柄木の言葉に、私は黙ってうつ向いた。
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