魔女ヒーロー | ナノ



お断り




「はぁあああ!!? ナンバーツーヒーローと付き合ってるぅうううう!!!?」

身を乗り出すように叫んだ恋心くんが、次の瞬間には頭を押さえて空を仰いだ。ガシガシと髪を掻きむしり「だから僕の個性も効かないというのか!!!」と一言。いやでもでも、と彼は私に迫り来る。

「こんな年の離れた男より年の近い僕の方が絶対いいに決まってる!!! カリンちゃん! 考え直すんだ! 僕なら金も人望もたんまりある! 君は僕と付き合えばなに不自由ない暮らしを満喫できるんだよ!!?」

「ごめんなさい。私、あなたのこと好きになれない」

「がびーん」

恋心くんは地に伏せた。えぐえぐと涙を流す彼にきもいな、と思っていれば、彼のご両親らしき方々が「まあ、お付き合いしてるなら仕方ないわよねぇ」と口を開いた。

「ホークスさんは人望も実績もあるお方だし、うちの子じゃあ敵わないわ。それにお金も、ナンバーツーならたくさん持ってるでしょうし……」

「はは、まあ、人よりは貰ってますね……」

「でしょう? じゃあ尚更うちの息子じゃ敵わないわ」

諦めましょう。
しれっと告げた母親に、ホークスさんすげぇ、と思わず思う。ほんとにこの人が恋人役で良かったと安心していれば、「でもママ!」と恋心くん。鼻水をたらしながら「カリンちゃんが狙われた時、助けられる可能性が高いのは僕だよ!」と訴える彼に、父親が「お前じゃむりだよ。ヒーローでもないから」と告げた。恋心くんはショックを受けて固まっている。

「ごめんなさいね、神道さん。うちの息子から個性までかけられたそうで……でも、恋っていいわねぇ。息子の個性を打ち消す程、相手の事を思ってる神道さん、とても素敵よ」

「あ、ありがとうございます……」

「これから辛いことたくさんあると思うが、どうか頑張ってくれ。奇跡の子は折れてはいけない。君は我々の希望なのだから……」

勝手に希望認定されても困るな、なんて思いながら小さく頷く。そのまま恋心家の方々をお見送りすれば、遠くからこちらを見守っていた皆がやって来た。彼らは「ホークスやべえ」と告げると、口々に言葉を紡ぎ出す。

「要人だからてっきり言葉通じないと思ってたけど案外通じたね」

「ホークスの存在感よ」

「相澤先生の采配に狂いはなかった」

「ナンバーツーってすごいんだね。改めて実感したよ」

わいわいと騒ぐ皆に、「おいお前ら」と消太さん。パンパン、と手を鳴らす彼に、皆の視線が一気に消太さんへと向けられる。

「あんま囲ってやるな。ホークスは忙しい身なんだ。解放してやれ」

「えー、でも折角ナンバーツーと話せるのにー!」

「いいから。ホークス、うちの生徒を守ってくれて感謝する。……神道、ホークスを見送ってやれ」

「はい。行きましょう、ホークスさん」

ホークスさんの手を取り、皆から離れる。そうして彼の隣に立てば、「見送りなんかいらんよ」とホークスさんは告げた。

「そんなことよか、好きな人と一緒におればいい。俺はちゃちゃっと帰るし、見送る必要なんかないんよ」

「まあそう言わず……ホークスさんの存在に助けられたので、これくらいのお礼はさせてください。それとも私に見送られるのは嫌ですか?」

「……カリンちゃん俺の気持ち知っとってそげなこと言う……」

むいっと唇を突き出したホークスさんに、私は笑って繋いだ手を離した。

「でもほんと、ありがとうございました。ホークスさんのお陰で、なんかいろいろ、助かりました」

「ん。いーよ。カリンちゃんが幸せなら俺はそれでいいけん……」

「……お礼と言ってはなんですが、これ、貰ってくれませんか?」

言って、差し出したのはブレスレット。シルバーのそれは昨夜、一から十まで魔法で作り出した特別なアクセサリーだ。見た目は男の人がつけても変じゃない形にしている。
ホークスさんは首を傾げながらブレスレットを受け取り、じっと手の中のそれを見た。私はそんな彼に「お守り」です、と一言告げる。

「お守り……?」

「はい。危険になった時、ホークスさんを守ってくれるよう、まじないをかけてます。母さんが残したまじないなので、効果は確かかと」

「ふーん」

頷いたホークスさんは、ブレスレットを握った。握って、「ありがとね」と微笑むと、翼を広げる。

「ほんじゃ、俺は行くけん。好きな人と喧嘩とかしちゃダメよ」

「……ホークスさんって勘違い人間ですよね」

「は?」

「なんでもないです。じゃ、気を付けてくださいね」

パタパタと手を振れば、ホークスさんは頷き、飛び去った。徐々に小さくなるその姿をぼーっと見ていれば、ぽんと肩に手が乗せられ振り返る。

「自覚したか?」

消太さんだった。
静かに問いかけてくる彼に、私は一つ頷き空を見上げる。そして、ぽつりと一言。

「誰にも言わないでくださいね、消太さん」

「わかってるよ。心配すんな」

「……ありがとうございます」

ぎゅっと胸元のリングを握り、小さく笑む。
この気持ちは仕舞っておこう。物語が終わる、その時まで……。

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