魔女ヒーロー | ナノ



準備




「……やっぱ、むりだよ」

ずうん、と落ち込む私の目の前。透ちゃんが「そんなことないよ!」と腕を振った。それに百ちゃんが「そうですわ!」とプリプリすれば、三奈ちゃんが「次これね!」と新たなドレスを差し出してくる。

そう。実は今、ミスコンに出場するために必要な、ドレス選びの真っ最中だった。透ちゃん、百ちゃん、三奈ちゃんの三人は私のアシストらしく、練習を抜けて一緒に衣装を選んでくれている。ありがたいが少し複雑。私も練習に加わりたいのに……。

「そういえば、ミスコンでは出場者が一つ芸をしないといけないので、それも決めなくてはいけませんね」

「カリンの個性は“魔法”だしやれることいっぱいありそうだよねー!」

「あ、こんなのどう? 歌をうたいながら癒しの花園(ヒールガーデン)を応用して周囲に光を舞わせるの! キラキラしてて幻想的!」

いいねいいね、と三奈ちゃんが笑った。
百ちゃんも賛成なのか、「素敵ですわ!」とプリプリしている。

「ね、カリン! どう思う!?」

「え、あー、そうね。いいんじゃないかな?」

「よし決まり! んじゃ選曲しないと! 雰囲気的に癒される曲がいいよね!」

こんなんでほんとに一位なんて取れるのだろうか、と考えながら手渡されたドレスを受け取る。さっさと着替えよう。そう思い踵を返そうとした時だ。ガチャリと音をたてて部屋の扉が開かれた。振り向けば、出久くんと通形先輩、そしてエリちゃんの姿が見受けられる。

「ちょっとちょっとー! ここは今出入り禁止ですよ!」

「そうそう! 本番でのお楽しみなんだから!」

「ちょっと待って二人とも。通形先輩、出久くん。エリちゃんなんで……」

パタパタと二人に駆け寄れば、彼らは事情を説明してくれた。

なんでも、エリちゃんは今度の文化祭見学がオーケーになったらしい。そこでパニックを起こしてはいけないからと、事前の学校訪問で慣れさせておこうと、根津さんが判断したようだ。

「折角だからカリンちゃんにも会わせておきたくてさ。ミスコンの準備してるのにごめんね」

「いいよいいよ。寧ろありがたい」

幼女は宝だ。ぐっと拳を握り、エリちゃんと視線を合わせる。

「エリちゃん、この間ぶりだね。元気してた?」

「はい。カリンさん、キラキラしてる……」

「え? そう? なんか恥ずいな……」

言って、片手を振る。そうしてぽん、とドロップ缶を出現させれば、キラキラとエリちゃんの目は輝いた。

「はい、あげる。喉に詰めないように食べてね!」

「……これは?」

「飴だよ。ここを開けて、缶を振って中身を取り出すの。──はい」

ころりと出てきた飴玉を渡せば、恐る恐るそれを受け取ったエリちゃんがパクリと飴玉を口に含んだ。瞬間、彼女の頬が高揚したように赤くなる。

「りんご!」

「ふふ。気に入ってくれた? 他にもいくつか種類あるからいっぱい食べてね。あ、はっかは苦手かも……」

むむ、と悩めば、共に三奈ちゃんから名前を呼ばれた。早くしないと次の人の時間が来るとのことで、衣装選びを催促される。

「はーい。……出久くん、ごめん。そろそろ戻るよ。通形先輩も、エリちゃんつれて来てくれてありがとうございました」

ぺこりと頭を下げれば、通形先輩は「いいよいいよ」と笑った。それに続くように出久くんが頷けば、私はエリちゃんに片手を振って踵を返す。

「あ……カリンちゃん!」

「ん?」

「あ、いや、あの……ドレス、似合ってる……」

なぜか恥ずかしそうにうつ向く出久くんに、「そう? ありがとう」と私は笑った。

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