魔女ヒーロー | ナノ



告白




バンド隊、演出隊、ダンス隊。それぞれの役割が決定した。これからは練習の日々が続くだろう。なんだか過去の学生時代を思い出すな、とわくわくする私は、鳴ったチャイムに席を立つ。午前の授業が終わり昼食タイム。早く食堂に行かなければ混んでしまうことだろう。

「出久くん、食堂行こう!」

「あ、うん! ちょっと待ってね! すぐ行くから!」

「いーよいーよ、ゆっくりで」

へらへらと笑い手を振った時だ。教室後方で「神道さんいる?」と声が聞こえた。それに反応して振り返れば、特徴的な紫髪が視界に写る。

「心操くん……?」

私はパタパタと彼に寄った。

「久しぶりだね、心操くん。なんかあった?」

「ああ、久しぶり。ちょっと神道さんに話があってさ」

「私に?」

こてんと小首を傾げる。心操くんは頷き、ちらりと私の背後を確認。すぐに何事もなかったように視線を戻した。

「文化祭の件なんだけどさ、ミスコンがあるのは知ってる?」

「ミスコン? いや、初耳だけど……それがどうかしたの?」

「ああ、うん。実は……ミスコンに神道さんのこと推薦したんだ」

「へぇ、ミスコンに推薦。それはそれは──ナンデスト?」

思わず聞き返す私。心操くんは再び、「ミスコンに神道さんのこと推薦したんだ」と告げた。

「ちょっ、えっ、まっ……えっ!? みみ、ミスコンに私を!?」

「ああ。因みに、エントリーは相澤先生が受け付けてくれた。オールマイトからは全力で止められたけどなんとか通ったよ」

「相澤せんせぇえええ!!!」

なに考えてんだと叫ぶ。すると、話を聞いていたのだろう。クラスメイトたちがわらわらとこちらへ集まってきた。

「神道ミスコン出んの!? うわまじ!? ぜってー見に行くわ!!」

「いやてかミスコンの話なんて聞いてないよ! 相澤先生黙ってたな!」

「わー! なんかわくわくするね! カリンちゃん! 衣装選びは私らに任せて!」

「そうなればお化粧も施しませんと! 髪も軽くセットいたしましょう!」

「待ってなんで皆そんな乗り気なの!?」

おばさん驚きだよとつっこめば、ぐるりと振り返るクラスメイトたち。思わずひっ、と声をあげれば、「当然だろう!」と飯田くんが手をあげた。

「クラスメイトの活躍は応援しなければ!」

「つかうちの神道に勝てる奴なんていねーって」

「カリンめっちゃかわいいもんね! 磨けばまたさらに光る!」

「なあ爆豪! お前もそう思うよな!?」

「ああ? 興味ねーわ、んなこと」

ケッ、と吐き捨てる勝己くん。またまたぁ、と笑う切島くんに続き、でもなぁ、と瀬呂くんが上を見上げた。

「ミスコン出場ってなると、また神道の人気あがんじゃね? 聞くところによるとファンクラブあるみてーだし敵増えるかもよ?」

「んで俺見ながら言うんだよ」

「だって爆豪お前、神道のこと好きなんだろ?」

「…………は?」

勝己くんが固まった。同時に瀬呂くん以外も固まる中、少しの間を置き勝己くんが「ん、なわけあるかクソがっ!!!」と立ち上がった。これは、なんと。勝己くんガチギレである。

「あんなクソ女に俺が惚れる!? ざけたこと言ってんじゃねえぞしょうゆ顔! 俺はあんな奴に興味ねえ!!」

「え、じゃあ神道取られてもいいのか?」

「よかねーわ!!!」

どっちなんだよ、と全員が突っ込んだ。

「か、かっちゃん落ち着いて……! かっちゃんがカリンちゃん好きなのは周囲の事実というかなんというか……!」

「だからちげーって言ってんだろクソデク!!」

「俺も神道のこと好きだぞ」

「テメェは黙ってろ舐めプ野郎っ!!!」

ああ、場が混乱してきた。話題の中心人物であるはずなのにどこか他人事のように彼らの会話を聞きながら、「なんかごめんね」と視線を心操くんへ。申し訳ないと謝りながら、無表情の彼を見る。

「……神道さんモテモテだね」

「いや、これは多分なんかあれだよ……ちがうよきっと……皆私をネタに遊んでるだけなんだ……」

「ふーん」

頷き、心操くんは私を見た。

「──好きだ」

紡がれた言葉に、しん、とその場が静まり返る。

「入試会場で助けてもらった日から、俺は神道さんのことが好きだ。クラスも科も違うから、あんま会ったり話したりはできないけど、でも、あの日からずっと、神道さんのこと想ってる。神野区の事件で死んだと知らされた時はすげーショックだったし、生き返ったって話聞いた時はめちゃくちゃ安心して、喜んだ。それくらい、神道さんは俺の中で大きな存在だ」

「し、んそうく……」

「返事はいいよ。これは宣戦布告のつもりだから。君を必ず惚れさせるっていう。……じゃ、ミスコン楽しみにしてるから。頑張って優勝してくれよ」

パッと片手をあげ、心操くんはそのまま、スタスタと自分の科へ戻っていった。残された私たちA組は、誰一人として口を開くことなく固まっている。

「……や、え、す、すげえな心操。男前ってーかなんてーか」

暫くして開口したのは、後ろ頭をかく切島くんだった。次いで「あんな告白私もされてみたーい!」と三奈ちゃんが続き、「思わぬ敵が出てきたな」と瀬呂くんが笑う。

「爆豪、轟。残念だったな。心操に神道取られるかもよ」

「ああ!? 取られるかよクソ!!」

「でもほら、見てみ? 神道、めっちゃときめいてる」

「ああ゛!?」

ぐるん、と振り返った勝己くん。ぽやーっとしていた私は、ハッとして両手を振る。

「と、ときめいてない! ときめいてないよ! ただちょっと、なんていうか、あの……! そ、そう! 慣れてないから! 慣れてないからビックリしちゃっただけ! 心操くんやばいなって思っちゃっただけ!」

「ときめいてんじゃねえかクソが!!!」

「神道、ダメだ。お前には俺がいる」

「テメェは引っ込んでろカス!!!」

ぎゃあぎゃあと騒がしくなる教室。その中でただ一人、暗い顔をしてうつ向く出久くんのことを、私は知らないでいた……。

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