魔女ヒーロー | ナノ



世界からの解放

数日後。いつの間にか9月も終わり、10月を迎えた。夏の気配はすっかり消え去り、寒暖の差が激しくなりつつある。
あれから私たちインターン組は、おじさまと消太さん引率のもと、ナイトアイさんの葬式へ。インターンは学校とヒーロー事務所の話し合いの末、しばらく様子見となった。

「神道! 次こっちだよ! 急ぎな!」

「はい!」

一方私は、放課後の時間、その殆どをリカバリーガールの元で過ごしていた。目的は治癒能力の精度をあげること。もう後悔したくはないからと、消太さんにも許可をとって日々個性の練習を行っている。
今日も今日とで存分に働かされた私はへろへろになりながら寮へ。「あ、カリン」と迎えてくれた響香ちゃんに片手をあげる。

「今から演奏練習するんだけどさ、カリンもやらない? 久々カリンと合わせたいと思ってたんだよね」

「お、いいね。着替えて行くよ。待ってて」

「オッケー」

じゃあ待ってる、と部屋に向かう響香ちゃんを見送り、私も自室へ。衣服を着替え、手ぶらのまま響香ちゃんの部屋へと向かう。

「お、来た来た」

ノックをして部屋へと踏み込めば、響香ちゃんは笑顔で私を迎えてくれた。それに私も笑みを返しながら、渡されたギターを膝に抱える。

「んじゃまずは──」

響香ちゃんの選曲に合わせ、口を開き、音を奏でた。

懐かしい。懐かしい感覚がする。
そう。実は私、前世では音楽の世界にいた。あまり好きでもなかった世界で、あそこだけが唯一の私の居場所だった。あの世界があるからこそ、私は楽しく人生を過ごせていた。
沸き立つ観客の声。当てられるスポットライト。腹の底から震えるような感覚。
忘れられない。忘れたくない。私の世界。
もう一度戻ることができるなら、どうかあの世界に帰してほしい。なんて、無理な話なのだろうが……。

「はぁー! やっぱカリンの歌はいいね! こう、胸が震えるっていうかさ! とりあえず、うん、サイコー!」

片腕をあげ笑う響香ちゃんに、「そう褒められると照れるなぁ」なんて言いながら、過去の世界に思いを馳せる。私はいつ、この世界から解放されるのだろうか。それが気がかりで仕方がなかった。

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