予知された死
ふわり、と香った薬品の匂いに目を開ける。そうして上体を起こした私は、己の手足に夥しい程の包帯が巻かれていることに気がついた。試しに手を握ってみれば、動く。どうやら傷は治してもらえたようである。
ただまだ痛い、と片腕を擦りながら窓の外を見やれば、ドタバタと騒がしい音が聞こえて視線をそちらへ。バンッ!、と開かれた扉を見やれば、半べそのバブルガールさんが看護士に止められながらこちらを見ているのが確認できた。
「バブルガールさん……」
ポカンと彼女の名を呼べば、バブルガールさんは「お願い! 助けてカリン!」と声をあげた。
「サーが! このままじゃサーが!!」
ああ、そうだった。
サッと血の気を引かせた私は、自身に繋げられた管を引き抜くと、そのまま止める看護士の声も聞かずに、足を引きずりながら病室を飛び出す。
バブルガールさんの案内のもと、たどり着いた最奥の病室へ飛び込むと、そこにはお医者さまにリカバリーガール、おじさまと出久くん、通形先輩、消太さん、センチピーダーさんの姿があった。そして中心にはサー・ナイトアイが……。
「ナイトアイさん……!」
バッと彼の横たわるベッドへ近づき、私は彼の顔を見る。彼は私を認識すると、「カリンさん……」と私の名を呼んだ。
「前にも……言ったはずです……私のことは、どうかこのままで……あなたが、わざわざ力を使う必要は……ない……」
「でも……!」
「あなたの力は……素晴らしい力だ……けれども、危うさを孕んでいる……一度使えば、世間に広まる……広まってしまえば……逃げることは難しい……」
ナイトアイさんの言葉に、「まさか……」と通形先輩。彼は私を見ると、「サーを救えるのか……?」と呟いた。それに、バブルガールさんが「そうだよ!」と頷く。
「カリンの個性があればサーは助かる! あの日私は聞いてたもの! 院内で二人が会って、そしてカリンが個性を使うって! サーはこの未来を予知してた!」
「泡田……」
「ねえ、カリン! お願い! サーを助けて! カリンの個性なら助けられるんでしょう!?」
バブルガールさんにすがり付かれ、私は再びナイトアイさんに目を向けた。
自分のために見捨てるか。
それとも自分を犠牲にして助けるか……。
ピー、と心電図の音が鳴り響く。そんな部屋の中、一身に視線を浴びる私は、ごくりと唾を飲み込み手を伸ばす。その手をナイトアイさんにかざし、力を溢れさせれば、眩い光が周囲に広がった。
「これは……!」
誰かの驚く声が、耳に届く。
(集中……! 力を、力をもっと収束させろ……! 助ける……! 生き返らせる……! そのために私は、ここにいる……!)
私の意思に従うように、光が一切強まった。その時だ。
「カリンちゃん」
誰かに手を掴まれ、集中が途切れた。ハッと顔をあげれば、赤い翼の彼がいる。
「カリンちゃん、もういい。これ以上背負う必要はどこにもない。もうやめとき。疲れたやろ?」
「……ホークスさん」
「それに病室抜け出したんやろ? 看護士さん慌てとったよ。ほら、戻ろ。まだ本調子やないんやけん……」
「ホークスさん……!」
なんで、止めるんですか……?
震える声を紡げば、ホークスさんは顔をしかめた。そして、周りを見回し、落胆したようにため息を吐く。
「サー・ナイトアイとの約束やけん。カリンちゃんを止めてくれって」
「……見捨てろと、言うんですか……?」
「……言っとくけど俺は、カリンちゃんが笑えん未来になるならどんなことでも止めさせてもらうよ。例えそれでカリンちゃんに嫌われようとも、ね」
ほら行くよ、と腕を引かれ、私はなす術なく病室を後に。胸にぽっかりと穴が空いたような気分で、前を行くホークスさんの後を追いかけた。
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