魔女ヒーロー | ナノ



捕獲

「──なんだ。弱い」

ボロボロと崩れ去る怪物たち。ほぼ一瞬のうちに壊されたそれらを尻目、驚愕するコンダクターを見れば、彼女はハッとしたように指揮棒を振るい地面からトゲを発生させる。しかし、それはカリンの言霊により打ち崩され、ホークスには届かなかった。

「なによ、なんなのよ、なんで邪魔するのよ! そもそもあなたは本来ここにはいないじゃないの! なんでいるのよ!?」

先程までの優位な立場から逆転。今にも追い詰められてしまいそうなコンダクターは焦りに叫んだ。その発言に反応を示したのは、カリンただ一人。他は集中するように次の攻撃を警戒している。

「もう! もう! もう!!」

コンダクターはその事実に憤慨したように地団駄を踏むと、力任せに指揮棒を振るった。それにより、周囲のコンクリートがボコボコと動き、やがて彼を圧殺しようと伸びてくる。

「『止まれ』!!」

ピタリと停止したコンクリートたち。コンダクターが驚愕に目を見開けば、その隙をつき懐に入り込んだホークスが風切り羽根を振るう。すんでの所で攻撃を避けたコンダクターだが、しかし、その衝動で手元が緩んだようだ。指揮棒を離してしまう。

「っ!? しまっ!」

「カリンちゃん!」

「『来い』!!」

三人の声がほぼ同時に響いた。瞬間、落下した指揮棒はカリンの元へ。吸い寄せられるように飛ばされ、それを常闇がキャッチする。

「なっ!?」

「はい。終わりですね」

ホークスの羽根が、指揮棒を追いかけようと足を踏みだしたコンダクターの首元に突き付けられた。

「指揮棒がなければ無力なはず。……無駄な抵抗はやめてくださいね。あなたみたいな人に時間裂くほど、俺暇じゃないんで」

「っ……!」

コンダクターは強くホークスを睨んだ。忌々しい。そう言いたげな彼女を一瞥し、風切り羽根を仕舞うと、彼はカリンの出したロープでコンダクターを縛り、一息吐く。

「ホークスさん、エリちゃんは……」

「サー・ナイトアイたちが保護に向かっとるはずよ。俺らは途中で別れたけん向こうがどうなっとんのかわからん。ごめんね」

それよか傷が……、と眉尻を下げるホークスにカリンは「アドレナリン出てるのかそんな痛くないです」と告げた。こんな時でもへらりと笑う彼女に、ホークスはなにも言わずにその体を抱き上げると、「後処理お願いします」とやって来た警察たちにコンダクターを託す。

「え、いいんですか、ホークスさん」

「大丈夫やろ。戦意は喪失しとんし、指揮棒はツクヨミが持っとる。あいつはもう戦えんよ」

告げたホークスが一歩を踏み出した時だ。巨大な音と共に地面が揺れた。何事かとざわめきだすその場で天井を見上げながら、カリンはぽつりと「始まった……」と言葉をこぼす。

「始まった?」

「……」

「……まあいい。上に戻るよツクヨミ」

「御意」

そんな二人の声を聞きながら、カリンは重くなった瞼を閉ざす。そうして闇に意識を放り投げる彼女が次に目覚めたのは、薬品の香りが充満する病室の中だった。

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