魔女ヒーロー | ナノ



外される仮面

「あの時の……」

「っ、先輩!」

通形先輩は私の帽子を被るエリちゃんと壁に縫い付けられた私を見て、眉をしかめた。かと思えば、強い眼差しで治崎を睨む。

「すぐ来れるような道じゃなかったはずだが……」

「近道したんで……この子の保護と、うちの後輩を返してもらいに来ました」

「……事情がわかったらヒーロー面か、学生さん」

治崎が瞳を細める。そして、「コンダクター」と、私の目の前にいる彼女を呼んだ。

「そのお嬢さんをこちらへ。現実を見せてやろう」

「……なに?」

眉を寄せる先輩。私は治崎の指示通り、コンダクターにより彼の元へと運ばれる。
片腕を押さえ、膝をつく私。そんな私に、治崎は片手を伸ばしてきた。

「っ……!」

迫り来る手。その手に感じたのは、なによりも重い“死”だった。いつか経験したことのあるそれが、迫っている。その事実に、私は目を見開き、硬直する。

「さあ、学生さんよ。よく見ておけ。これが──現実だ」

ぴたり、と治崎の手が額に触れたと同時、全身に痛みが駆け巡った。と共に、私の意識は暗闇の中へと放られる。

何が起こった。
何をされた。

思考が回った。と同時、体の内から膨らむように力が漏れる。それらは私の体を包み込むと、やがて眩い光を放ちながら収束していく。

「……え?」

気がついた時、私は先程の場所に、同じ体制のまま座り込んでいた。伸ばされた治崎の手は引っ込められており、彼を見れば驚いたように目を見開いている。

「今のは……」

「っ! カリンちゃん!」

通形先輩に名を呼ばれ、私はハッとして地面に手をついた。そうしてそれを軸に回し蹴りを放ち、治崎から離れて先輩の傍へ。「何が起こったんですか」と、前を見据えながら問いを投げる。

「わからない。俺が見た限りだと君は殺された。そしてすぐに光が溢れたかと思えば元通りになっていた。あれも治崎の個性なのか……?」

治崎の“壊し”て“治す”個性なら確かにそれも可能だろう。だがそれにしても光が溢れたというのは一体どういうことだ?治崎が個性を使用する時、光が出てくるなんて話は聞いたことがないが……。
内心首を傾げていると、治崎が動いた。地面に手をついた彼は、それを崩壊させると再構築。トゲの地面を出現させる。
私は咄嗟にエリちゃんを抱えあげ、宙に飛んだ。そして作成した箒に足をつけば、真下で通形先輩が透過の個性でトゲを回避しているのが見える。

「コンダクター! 捕まえろ!」

「はいはい!」

どこか焦ったようなコンダクターの声がすると同時、上下左右の壁が変化。細かな腕となり遅い来るそれらを、私は箒に乗りながら器用に避ける。

「ちょこまかと!」

コンダクターが叫び、杖を振るった。すると、体が重力に引かれ、慌ててその方向を見やれば、見えたのは壁にできた暗い穴。どうやら、この場ではない何処かへと、私を連れていく気らしい。

「っ! ルミリオン先輩! エリちゃんを!」

私は通形先輩の腕の中にエリちゃんを飛ばし、そのまま壁の向こうへ。吸い込まれるように入れられたそこは、どこかの地下空間のようだった。手狭な部屋の中、頭上から降り立ったコンダクターが、指揮棒片手に歪に笑う。

「一対一。オーバーホールからは動けないように痛め付けろと命令されてる。……さあ、派手に暴れましょうか、カリンちゃん」

外された仮面が、地面に落ちた。

[ 125/245 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#寸止め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -