突入
「はわぁ、緊張する……」
翌日、警察署前。戦闘服に身を包んだプロヒーローとインターン生が集まる中、配られた資料に目を通し、内容を覚える。事細かに記された死穢八斎會の情報を一通り記憶し言葉を吐けば、「緊張しとんの?」と背後からホークスさんが現れた。常闇くんたちとなにか話していたらしい彼は、「緊張解したげよっか?」と笑うと、パタパタと赤い翼を揺らして見せる。その姿がまるで尾を振る忠犬のように見え、私はついつい片手を伸ばし、ホークスさんの頭に手を乗せる。そして、ハッとして体ごと顔をそらした。
「カリンちゃん?」
「い、今のはなんでもありません。ただホークスさん触ったら徳積まれるかなと思っただけで……」
「俺は地蔵かな?」
ケラリと笑ったホークスさんに、「すみません……」と謝った。
「ん? 気にしとらんし全然ええよ! 寧ろカリンちゃんに触れてもらえるとか幸せの極み……」
「あら、ホークス。その子のこと口説いてるの?」
「口説くもなにも俺ら夫婦ですから」
なに言うとんだこいつは、と冷めた目でホークスさんを見れば、リューキュウさんが「へえ」と笑った。そして、私の方を見てこそりと「大変なのに好かれたね」と言葉を紡ぐ。
「いえ全く……」
「はは! 素直なのは良いことね。でもまあ、悪い奴ではないから危険はないと思うよ」
「危険だらけにしか思えないんですが……」
言えばリューキュウさんは苦笑した。「確かに……」とこぼす彼女に、「人聞き悪いですね」とホークスさんは異論を発している。
「俺は純粋な気持ちで、こんなにも、カリンちゃんを愛しとんに……」
「そういうのいいですから」
「あはは……」
と、警察が「行きますよ!」と声をあげた。それにならって顔をあげた私は、ぞろぞろと列を為して歩いていく皆を視線で追う。
「……大丈夫でしょうか」
小さな不安。それを口にすれば、「大丈夫」と二人のヒーローは私の肩を叩く。
「心配しなくてもプロもいる。あなただけに負担はかけないわ」
「それに、俺がカリンちゃんの傍におるけん心配はなかよ。カリンちゃんは気にせず暴れるといいんよ」
「わかりました。暴れます」
「おー、その意気その意気」
さあ行こうか、と背を押されて歩き出す。向かうは死穢八斎會、その本部だ。
◇◇◇◇◇
「令状読みあげたらダーーー! と! 行くんで! 速やかにお願いします!」
「しつこいな。信用されてねえのか」
「そういう意味やないやろ。いじわるやな」
「フン」
集合した死穢八斎會本部前。今にも突入寸前の警察たちとヒーローの中、そもそもよぉ、とロックロックさんは続ける。
「ヤクザ者なんてコソコソ生きる日陰者だ。ヒーローや警察見て案外縮こまっちまったりしてな」
その台詞が終わるや早、門をぶち壊す勢いで大柄な男が現れた。「何なんですかァ」とぼやく彼の拳により、手前にいた警察たちが吹き飛ばされる。
「助けます」
「遅い」
パッと上空を見れば、赤い羽根に救われた警察の姿が見てとれた。さすが、速いと思っていれば、肩を叩かれ「行くよ」と言われる。
その言葉に従い、ドラゴンに変化したリューキュウさんが男を捕らえる姿を横、私は本部内へ。暴れる死穢八斎會組員たちをプロヒーローが押さえつけるのを間近で見ながら、息を呑む。
「怪しい素振りどころやなかったな」
「俺ァだいぶ不安になってきたぜオイ。始まったらもう進むしかねえがよ」
確かに、そうだ。始まったら進むしかない。後退することはまずあり得ないのだ。
緊張に鳴る胸を押さえていると、天喰先輩が「どこかから情報が漏れてたのだろうか……。いやに一丸となってる気が……」と呟いた。これに、刑事が「だったらもっとスマートに躱せる方法をとるだろ。意思の統一は普段から言われてるんだろう」と返している。
「盃を交わせば親や兄貴分に忠義を尽くす。肩身が狭い分、昔ながらの結束を重視してんだろうな。この騒ぎ……そして治崎や幹部が姿を見せていない。今頃地下で隠ぺいや逃走の準備中だろうな」
「忠義じゃねぇやそんなもん! 子分に責任押し付けて逃げ出そうなんて男らしくねえ!」
「んん!!」
ファットガムさんが頷いた。その時。
「ここだ」
ナイトアイさんが足を止めた。そこには一つの花瓶が飾られた棚がある。この花瓶の下の板敷きを決められた順番に押せば、地下への道が開くという仕組みだ。
「忍者屋敷かっての! ですね!」
「見てなきゃ気づかんな。まだ姿を見せてない個性に気をつけましょう」
ナイトアイさんの操作により開かれる道。そこから組員が飛び出せば、センチピーダーさんとバブルガールさんが即座に彼らを捕獲する。その早業にプロってすげぇ、と思考しながら、私は地下の道へ。あのモニターで見た通りの道順を進んでいく。しかし……。
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