仮免取得
「──カリンちゃん!!!」
「あ、出久くん……それに皆も……」
バタバタと忙しなく駆けてきたクラスメイトとヒーローたち。私は引き抜くのが怖くて抜くに抜けないナイフたちをそのままに、ふらりとその場で立ち上がる。が、がくりと折れた膝は、力なく地面へ。再び戻った視界に、ため息をついた。
「カリンちゃん! ひどい怪我! はやく治療しないと!」
「緑谷待て。動かすな。神道、無事か?」
「相澤先生……はい、大丈夫です」
地面に片膝をついた消太さんにこくりと頷けば、「トガヒミコと交戦したそうだな」と、シャチ型のヒーロー、ギャングオルカが告げる。
「奴はどこに?」
「すみません、取り逃がしました……でも、まだ近くにいる可能性があります。彼女は士傑高校のケミィという人物に変装していました」
「そうか。敵の狙いはわかるか?」
「いえ、それが……」
私はちらりと出久くんを見て、ギャングオルカへ視線を戻す。
「私と出久くんに会いに来た、のだと……」
「え!? 僕!?」
驚く出久くんに頷けば、「とりあえず事情はわかった」と消太さん。彼は私を抱えあげると、「こいつを医務室へ連れていきます」と口にする。
「ああ、イレイザーの生徒だったな。連れていってやれ。その方が彼女も安心だろう」
「すみません。そちらは任せます。お前らも控室戻ってろ。ただし緑谷、お前は来い。まだ敵がいる可能性がある以上生徒たちといるのは危険だ」
「え、あ、はい!」
頷いた出久くんを背に、消太さんが走り出す。向かうは恐らく、医務室だ。
◇◇◇◇◇
「敵連合に侵入されたのは我々の落ち度です。ご迷惑をおかけして、大変申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる公安委員長。そんな彼にまた仕事増やしちゃったのでは、と内心冷や冷やしながら「き、気にしないでください」と両手を振る。
「生徒に変装していたんです。見つける方が困難ですよ」
「いえ、何処に潜もうとも敵を見つけ、退治するのが我々の仕事。我々はその責務を怠った。これは立派な職務放棄です。どうぞ煮るなり焼くなり好きにしてください」
「いや好きにって言われても……」
とほほ、と現状を嘆きたい気持ちになっているとだ。室内の扉が開かれプロヒーローたちが入室してきた。どうやらトガは見つけられなかったらしく、皆一様に難しい顔をしている。
「すまない。敵を取り逃した」
「そうですか」
報告したギャングオルカに、公安委員長ははぁ、と小さく嘆息した。
「また世論でヒーローが叩かれる。自分たちの犯したミスとはいえ、辛いものですね」
それはそうと、と公安委員長は視線を私と出久くんへ。担任の消太さんをちらりと見てから、「試験お疲れさまでした」と労りの言葉を口にする。
「二人とも気になっているであろう合否発表については、先ほど一足はやく控室で行われました。二人はいなかったので今ここで発表しちゃいますね。ぶっちゃけ言えば二人とも合格です」
「なんか妙にあっさり!?」
つっこむ出久くんに苦笑。確かにあっさりだ、と心の中で同意すれば、「これが採点結果です」と白い紙を渡された。大人しく受け取ったそれには、100の文字がついている。
「神道さんは今年トップの成績ですね。いやはやおめでとうございます。なかなか出ませんよ、そんな好成績。よほど学校の教育がいいとみる」
「あ、ありがとうございます……」
自分だけでなく学校も褒めてもらえるとは、なんだか照れ臭い。紙を見下ろしながらにやけそうになる口元を引き締め、消太さんを見る。彼はそんな私に「よくやったな」と声をかけると、次いで視線を出久くんへ。「緑谷、お前はもっと頑張れたはずだろ」と冷たい言葉を口にした。
「まあまあ、そう言ってやるなよイレイザー。この子も頑張ったんだ。合格したんだから祝うくらいしてやれ」
「そうか。おめでとう」
「ブハッ! つめてえ!」
吹き出すジョークに空気が和む。とにもかくにも、仮免取得無事成功、である。
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