魔女ヒーロー | ナノ



一次試験




「えー……ではアレ、仮免のヤツを、やります。あー……僕、ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠、よろしく。仕事が忙しくてろくに寝れない……! 人手が足りてない……! 眠たい! そんな信条の下ご説明させていただきます」

公安委員長は随分と素直な人だった。疲れを一切隠さない様子に謎の好感を抱きながら説明を聞こうと耳をすませる。

「ずばりこの場にいる受験者1541名一斉に、勝ち抜けの演習を行ってもらいます」

ざわめきが起こる中、公安委員長は続ける。

「現代はヒーロー飽和社会と言われ、ステイン逮捕以降ヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくありません」

“ヒーローは見返りを求めてはならない”。
“自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない”。

「まァ……一個人としては……動機がどうであれ、命がけで人助けしている人間に”何も求めるな”は……現代社会において無慈悲な話だと思うワケですが……」

とにかく、対価にしろ義勇にしろ、多くのヒーローが救助・敵退治に切磋琢磨してきた結果、今では事件発生から解決に至るまでの時間は”ヒくくらい”迅速になっている。そんなヒーロー社会に出ようとするならば、そのスピードについていけないようでは話にならない。

「よって試されるはスピード! 条件達成者先着101名を通過とします」

公安委員長の発言、その合格人数の少なさに会場は声をあげた。

「5割どころじゃねえぞ!」

「少なすぎませんか!?」

「まァ社会で色々あったんで……運がアレだったと思ってアレしてください」

「まじかよ……!!」

ざわつく会場内。私は手を組み合わせながら試験内容の説明を待つ。

「これから皆さんに行ってもらうのは、簡単に言えば“ボール当て”です。受験者はターゲットを3つ、体の好きな場所……ただし、常に晒されている場所に取り付けてください。そして、ボールを6つ携帯します。ターゲットはこのボールが当たった場所のみ発光する仕組みで、3つ発光した時点で脱落とします」

3つ目のターゲットにボールを当てた人が相手を倒したことになり、そして二人倒した者から勝ち抜き。入試の時以上に苛烈なルールに、私は両手を握る。

「全員にいきわたってから1分後にスタートします。各々苦手な地形、好きな地形あると思います……自分を活かして頑張ってください」

無駄に大がかりなセットが開かれ、あらゆる地形が存在する会場がお披露目となった。
私は早速と周囲を見回す。どの地形に行っても結果は同じ。ならば私がやるべきことは一つだ。

「先着で合格なら……同校で潰し合いはない……むしろ手の内を知った仲でチームアップが勝ち筋……! 皆! あまり離れず一かたまりで動こう!」

出久くんの言葉にクラスメイトが頷く。が、一部はそうはいかなかった。

「フザけろ、遠足じゃねえんだよ」

「バッカ待て待て!」

さっさと走りだした勝己くん。それを切島くんと上鳴くんが追いかけていく。

「俺も……大所帯じゃ却って力が発揮できねえ」

そう言って別方向へ走りだした轟くん。
早々に散った二人を見て、私も一人息巻いた。

「ごめん、出久くん。私も試したいことあるから一人でいく」

「え、危ないよカリンちゃん!」

「大丈夫! 自信あるんだ! 絶対合格しようね!」

じゃ、と片手をあげて走り出す。そうして向かうは人の密集しそうな見晴らしの良いところだ。

「バレないように飛ぶのが吉か。『テレポート』」

ふわっと自分の体が浮き、とあるビルの屋上に出た。共にスタートの合図が鳴り、眼下でドンパチが開始される。

「……大丈夫。自分を信じて」

ふう、と息を吐き出し、両手を前へと突き出した。

「吹き荒れろ。『旋律の竜巻』」

ふわり、ふわりと浮かんだ受験者たちのボールが、彼らを囲むように出現した竜巻により運ばれていく。ぐるぐると高速で回るボールに、受験者たちはなす術なくターゲットを奪われた。次々と灯る明かりに、私はふっと息を吐き出す。

『ん? はや! 通過者一名出ました! うお!? しかもなんと、脱落者150名! 一人で150名脱落させて通過した!』

「え、えへへ……」

なんか恥ずい……、と頭をかき、青くなった自身のターゲットを一瞥。控室へと移動する。

控室には案の定、誰も居はしなかった。謎の貸し切り空間にはわ、としながら専用の磁気キーでターゲットを外し、椅子に座る。

「携帯、持ち込みオーケーならよかったのに……」

暇な時間が潰せない。私は一人心の中で涙した。

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