試験開始
──訓練の日々は流れ、ヒーロー仮免許取得試験当日。
私たちはバスに乗り、国立多古場競技場までやって来ていた。
「緊張してきたァ」
「多古場でやるんだ」
「試験て何やるんだろう。ハー、仮免取れっかなぁ」
三者三様の反応を見せている皆を横目、私は競技場に目を向けた。堂々と聳え立つその中で、これからヒーローへの第一歩、仮免試験が始まるのだ。緊張しないわけがない。ごくりと生唾を飲み込み、両手を握り合わせる。
「この試験に合格し仮免許を取得できれば、おまえら志望者は晴れてヒヨッ子……セミプロへと孵化できる。頑張ってこい」
消太さんの言葉に息を吐く。と、切島くんが景気付けにといつもの校訓で盛り上がろうと提案した。これに賛同した皆が、ぐるりとその場で輪っかになる。
「せーのっ! Plus……」
「Ultra!!!」
ビクリと肩が震え、私は思わず消太さんの腕にしがみついた。なに、何事!?、と振り返れば、知らない顔の生徒が笑顔を浮かべているのが確認できる。
「勝手に他所様の円陣へ加わるのは良くないよ、イナサ」
「ああしまった!! どうも大変失礼致しましたァ!!!」
ズガンッ、と地面に頭を打ち付けた男に、出久くんがひいっと悲鳴をあげる。
「なんだ、このテンションだけで乗り切る感じの人は!?」
「飯田と切島を足して2乗したような……!!」
足して2乗て……。
勝己くんに腕を引かれ、渋々消太さんから離れながら幼なじみの隣に立つ。
「待って、あの制服……!」
「あ! マジでか!」
「アレじゃん! 西の! 有名な!」
周囲が騒がしくなる中、隣で「東の雄英。西の士傑」と声が聞こえた。
「一度言って見たかったっス! プルスウルトラ! 自分、雄英高校大好きっス!! 雄英の皆さんと戦えるなんて光栄の極みっス! よろしくお願いします!!」
「あ、血」
「行くぞ」
2人の士傑高校の生徒に引っ張られいなくなった嵐のような男。
それをぽかんと見送る生徒たちに消太さんはぽつりと呟いた。
「夜嵐、イナサ」
「先生、知ってる人ですか?」
「すごい前のめりだな。よく聞きゃ言ってる事は普通に気のいい感じだ」
確かに、と思考を回す。しかし、続く消太さんの言葉に、その思考は止められてしまった。
「ありゃあ……強いぞ。いやなのと同じ会場になったな。夜嵐、昨年度……つまりお前らの年の推薦入試、トップの成績で合格したにもかかわらず、なぜか入学を辞退した男だ」
「え!? じゃあ……1年!? ていうか推薦トップの成績って……」
実力は轟くん以上、ということか。
まあ私なら余裕だなとクソみたいな自信を持った時だ。
「イレイザー!? イレイザーじゃないか!!」
見た目綺麗な女性に声をかけられ、消太さんがびくりと体を揺らした。先ほどの私みたいだと、他人事のように考える。
「テレビや体育祭で姿は見てたけど、こうして直で会うのは久しぶりだな! 結婚しようぜ」
「しない」
「わぁ!!」
「しないのかよ! ウケる!」
あれ、なんか既視感を感じる……。頭の中で赤い翼の鳥男を思い返していれば、消太さんがため息を吐いた。
「相変わらず絡みづらいな、ジョーク」
どうやら知り合いらしい。
「スマイルヒーロー、Ms.ジョーク! 個性は爆笑! 近くの人を強制的に笑わせて思考・行動共に鈍らせるんだ! 彼女の敵退治は狂気に満ちてるよ!」
出久くんがいつものやつを披露すれば、ジョークと呼ばれた女性が口を開く。
「私と結婚したら笑いの絶えない幸せな家庭が築けるんだぞ」
「その家庭幸せじゃないだろ」
「ブハ!!」
消太さんに軽口言う人、ひざしさん以外で初めて見た気がする……。
どこか感心しながら流れを見守る。
「仲が良いんですね」
「昔、事務所が近くでな! 助け助けられを繰り返すうちに相思相愛の仲へと」
「なってない。なんだ、お前の高校もか」
「いじりがいがあるんだよな、イレイザーは。そうそうおいで、皆! 雄英だよ!」
告げた彼女の元に、見知らぬ生徒たちが集まってきた。「おお! 本物じゃないか!」、「すごいよすごいよ! TVで見た人ばっかり!」、「あ! 奇跡の子もいる!」と飛び交う感想に、つい一歩下がってしまう。
「傑物学園高校、2年2組! 私の受け持ち、よろしくな」
言って、ジョークは高らかに笑った。
「俺は真堂! 今年の雄英はトラブル続きで大変だったね。しかし君たちはこうしてヒーローを志し続けてるんだね、素晴らしいよ! 不屈の心こそ、これからのヒーローが持つべき素質だと思う!」
(((まぶしい)))
勢いよく前に出た真堂と名乗る少年。数人と握手した後に爽やかにウインクを飛ばした彼は、そのままぐるん、とこちらを向き、私と勝己くんに歩み寄る。
「中でも神野事件を中心で経験した爆豪くんと神道さん、君たちは特別に強い心を持っている。──今日は君達の胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ」
語るその目は内容とは全く合っていなかった。私はつい曖昧に微笑んだ。が、勝己くんは気に入らなかったらしく、差し出された手をパシン、と払う。
「フカしてんじゃねえ。台詞と面が合ってねえんだよ」
「こら! おめー失礼だろ! すみません、無礼で……」
割り込んできた切島くんにより、真堂さんはよそ行きの顔に戻った。役者だ……、と思わず感心してしまう私に、彼は軽やかにウインクする。
「まあそれとは別に、神道さんとは仲良くさせてもらいたいな!」
「あー、ははっ……はぁ……」
三奈ちゃんたちが「きゃー!」と騒ぎだすのを、無言で睨んだ。
「よし、皆、戦闘服に着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」
「「「はい!」」」
消太さんの声かけに、全員がその場から動き出す。
間もなく始まる仮免試験。緊張は最高潮にまで達しそうだった。
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