魔女ヒーロー | ナノ



恋ばな




「イレイザー。少シイイカ?」

「ん? なんだ、エクトプラズム」

TDLの出入口近辺。遠目から見守るように生徒たちを見ていた相澤は、突如声をかけてきたエクトプラズムを振り返る。

「神道ノコトデ話ガアル」

「神道の? なにかあったのか?」

まさか体に異変が、と眉を寄せた相澤に、エクトプラズムは「彼女ノ使ウ治癒ニツイテダ」と続けた。

「先程見セテモラッタガ、彼女ハ治癒ノ力ヲ用イ何モナイ地面二植物ト花ヲ咲カセテミセタ。タダノ治癒能力ナラ不可能ナコトダ。シカモ彼女ハコレヲ、ノーリスクデヤッテノケタ」

「植物と花を……?」

眉をひそめる相澤。エクトプラズムはこくりと頷く。

「植物、花、ソシテ心臓。コレヲ見テ、聞イテ、俺ハ思ッタ。彼女ノ治癒能力ニハサラニ上ガアルノデハナカロウカト」

「……何が言いたい」

「……死者蘇生」

ぴくり、と相澤が震える。エクトプラズムはそんな相澤を尻目、一番高い位置にいる話題の人物へと目を向けた。彼女は今なにかを考え込んでいるらしく、周囲にあの光の礫を浮かべながらじっとどこかを見つめている。

「マダ分カランガ、神道ノ個性ナラ、ソレスラモ可能ニナルノデハナイダロウカ」

「……そうなったら厄介だ。またさらにあいつを狙う輩が増える。それこそ、国だって動きかねん力だ。守れるものも守りきれん」

はぁ、と相澤は頭を抱えた。抱えて、ふわりと宙に浮いたカリンに目を向ける。

「……気づくなよ、神道」

それがお前のためでもある……。


◇◇◇◇◇



「フヘエエエ……毎日大変だァ……」

「圧縮訓練の名は伊達じゃないね」

圧縮訓練四日目。帰宅し、お風呂を終えて集まった女子たちは、必殺技について話していた。

「ヤオモモは必殺技どう?」

「うーん。やりたいことはあるのですが、まだ体が追い付かないので少しでも個性を伸ばしておく必要がありますわ」

「梅雨ちゃんは?」

「私はよりカエルらしい技が完成しつつあるわ。きっと透ちゃんもびっくりよ」

「お茶子ちゃんは?」

皆がお茶子ちゃんへと顔を向ける。が、お茶子ちゃんからの反応はない。どうやらボーッとしているようだ。梅雨ちゃんが「お茶子ちゃん?」と彼女をつつけば、お茶子ちゃんは「うひゃん!?」と謎の奇声をあげながら飛び上がった。

「お疲れのようね」

「いやいやいや! 疲れてなんかいられへん。まだまだこっから! ……のハズなんだけど、何だろうねぇ。最近ムダに心がザワつくんが多くてねぇ」

「恋だ」と三奈ちゃん。お茶子ちゃんが「ギョ」と慌てだす。

「緑谷か飯田!? 一緒にいること多いよねぇ!」

「チャウワチャウワ!!!」

「誰ー!? どっち!? 誰なのー!?」

「ゲロっちまいな? 自白した方が罪軽くなるんだよ」

盛り上がる三奈ちゃんたちに、梅雨ちゃんが口を挟んだ。

「無理に詮索するのは良くないわ」

「ええーーーー! やだもっと聞きたいー! 何でもない話でも強引に恋愛に結び付けたいー!!」

強引にって、それはどうなんだろ……。
どこか他人事のようにずずっと紙パックのジュースをすすれば、三奈ちゃんがハッとしたようにこちらを見る。
嫌な予感……。私はそろりと目をそらした。

「ってか、ここに大本命いたじゃん! カリン! カリンはどっちなのさ!?」

「へ? どっちって?」

「轟と爆豪だよ! どっちがいいの!?」

「私的には轟くんオススメするなぁ! 爆豪くん素行不良だし口悪いしカリンちゃんとはあわないよ!」

「ケロ。そうかしら? 私は二人はお似合いだと思うわよ。爆豪ちゃん、なんだかんだカリンちゃんには甘いしね」

「遠回しのアピールが面白いよね、爆豪は! でも轟のストレートなアピールも捨てがたい!」

「やーん気になるー! カリンちゃん! どっち選ぶのさー!」

ええ……、と思わず引いた。なんでそんなこと詮索されなくちゃいけないんだと不満すら覚えれば、「皆さん」と百ちゃんが手を叩く。

「カリンさんが困っていますわ。それ以上の追及はおやめください」

「えーー! やだーー! 恋ばなしたい! もっと萌えが欲しいーー!!」

「そんなこと言うヤオモモだって実は気になるんでしょう!?」

「わ、私は別に……!!」

そわり、と百ちゃんがこちらを見た。ああ、気になるんだと内心察せば、彼女はハッとしたように咳払いをする。

「と、とにかく、これ以上はいけません! 明日も早いですし、そろそろ寝ませんと!」

「えー! ヤオモモのケチー!!」

「ケチで結構! ほら、行きますわよ!」

パンパンッ、と叩かれる手。渋々と立ち上がる皆にならい私も立ち上がり、空になった紙パックを共同スペースのゴミ箱にポイしてから部屋に戻る。

パタン。

無機質な音をたて扉が閉まった。近寄ってくるシロを横目、ボスン、とベッドに倒れ込めば、思い浮かぶのは先ほどの会話。

「勝己くんと……轟くん……」

小さく紡ぎ、ないない、と目を閉じた。

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