無限の可能性
次の日から、仮免取得を目標に個性圧縮訓練が始まった。
トレーニングの台所ランド、通称TDLで行われるそれで1人2つ以上の必殺技を身につける事が目的だ。
「「「ヒーローっぽいの来たぁ!」」」
湧き立つクラスメート達。そんな彼らを横目に、私は必殺技かぁ、と遠くを見る。
私の個性はまだまだ未知数な上にやれることは多い。だが、それでも必殺技なんていうのは思い付かなかった。というかセンスないんだ私は。そういうやつやめてくれほんと。
「ここは俺考案の施設、生徒一人一人に合わせた地形や物を用意できる。台所ってのはそういう意味だよ」
「質問をお許しください! 何故仮免の取得に必殺技が必要なのか、意図をお聞かせ願います!」
飯田くんが手をあげる。それに消太さんが「落ち着け」と返した。
「順を追って話すよ。ヒーローとは、事件・事故・天災・人災……あらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事だ。取得試験では当然その適性を見られることになる」
「情報力・判断力・機動力・戦闘力、他にもコミュニケーション能力・魅力・統率力など。多くの適性を毎年違う試験内容で試される」
「その中でも戦闘力はこれからのヒーローにとって極めて重視される項目となります。備えあれば憂いなし! 技の有無は合否に大きく影響する」
「状況に左右される事なく安定行動を取れれば、それは高い戦闘力を有していることになるんだよ」
「技ハ必ズシモ攻撃デアル必要ハナイ。……例エバ、飯田クンノ"レシプロバースト"。一時的ナ超速移動、ソレ自体が脅威デアル為、必殺技ト呼ブニ値スル」
「あれ必殺技でいいのか……!」、と飯田くんが震える。
「先日大活躍したシンリンカムイのウルシ鎖牢なんか模範的な必殺技よ、わかりやすいよね」
「中断されてしまった合宿での個性伸ばしは……この必殺技を作り上げるためのプロセスだった。つまりこれから、後期始業までの残り10日余りの夏休みは個性を伸ばしつつ必殺技を編み出す、圧縮訓練となる!尚、個性の伸びや技の性質に合わせて戦闘服の改良も並行して考えていくように。プルスウルトラの精神で乗り越えろ、準備はいいか?」
「「「ワクワクしてきたぁ!」」」
騒がしいクラスメイトたち。そんな彼らを横、私は一人嘆息するのだった。
◇◇◇◇◇
「ほっ!」
ふわり、と周りにある瓦礫を浮かせ、それらを調整。鋭いドリルにしてから、エクトプラズム先生へと集中攻撃させる。
「フム。悪クナイナ。良イセンスダ。ドリル一ツ一ツノ操作モヨクデキテイル。名前ハドウスル?」
「え、あ、えー……ストーンドリル?」
「ウム。イイダロウ」
いいんかい、と内心ツッコミ、とりあえず必殺技が出来たことに安堵する。あと一つ、なにか考えればとりあえずの課題はクリアだ。ぎゅっと拳を握り、息を吐く。
「……神道ハ確カ治癒モ使用可能ダッタナ。ソレノ幅ヲ広ゲルコトハシナイノカ?」
「え、治癒、ですか……」
考えたことなかったなと顎に手を当て、首をかしげる。エクトプラズム先生はそんな私に、「治癒ノ個性ハ貴重ダカラナ」と続けた。
「伸バシテオクニコシタコトハナイ」
「……」
ふむ、と考え、私は両手を握り合わせた。そして、祈るように目を閉じ、意識を周囲へと集中させる。
ふわり ふわり
優しい風が、頬を撫でた。
「! コレハ……」
エクトプラズム先生の驚く声に瞳を開けば、周囲に幾つもの光の礫が発生していた。それらはまるで雪のようにふわふわと私の周りを舞ったかと思えば、やがて地面へ。吸い込まれるように消えたそこから、優しい緑色と小さな花々が姿を現す。
「……植物ガ……」
瞠目する先生に、私は両手をほどいてみせた。
「こ、こんな感じでどうでしょう……」
「……」
エクトプラズム先生は何も言わない。ただひたすらに咲き誇った花たちを見つめている。もしやなにか間違ったことをしたのだろうか。不安になっていれば、先生がくるりとこちらを向く。
「神道、他ニハ何ガデキル?」
「え、ええっと……」
私は再び集中した。
イメージはいつぞやプレイしたことのあるファンタジーゲームの回復魔法たちだった。風に癒しの力をのせ渦を巻かせてみたり、雨に力を入れ降らせてみたり、離れた位置から対象者へと向かい力を使ってみたり。いろいろやっていると、エクトプラズム先生から静止の声がかかった。顔をあげれば、深刻そうな先生と視線がかち合う。
「神道、体調ハドウダ? 優レナイトコロハナイカ?」
「え、いえ、絶好調です。まだまだやれますよ。っていうかなんか、個性が前より使いやすいような……」
「……ソウカ」
エクトプラズム先生はこくりと頷いた。
「私ハ少シ席ヲ外ス。スグニ戻ッテクルカラ、サボルコトハシナイヨウニ」
言って踵を返したエクトプラズム先生。その背をぽかんと見やってから、私は徐に視線を足元へ。咲き誇る花を見て、ハッとして己の胸元に手を当てる。
「……無限の、可能性……」
どくりと、一切大きく、心臓が鳴った気がした。
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