雑記帳 冬だ!破妖だ!懇親会D



Uターンラッシュが始まっている国道一号線。
ラエスリールたちは車に乗って虚空城ホールへと向かっていた。


チッカ、チッカ←ウインカーを出す音


邪羅「姉ちゃん、いま右折できたよ?強気で行っちゃわないと」
ラス「運転中は話しかけないでくれ」
未羽「どうでもいいけど早くしてよ!スラヴィが死んだらあなたのせ………いえなんでもありません」

バックミラー越しに邪羅に睨まれて、羽をたたむ未羽。

邪羅「つーか、なんで車で行く必要があるわけ?めちゃくちゃ道混んでるじゃん」
ラス「ペーパードライバーだから、練習も兼ねて……」
邪羅「あっほら、曲がれるぜ!!」

チッカチッカ………
どうにか右折に成功するラス。

邪羅「この道であってんの?」
ラス「虚空城ホールなら、以前行った事がある。カーナビに登録してあるから大丈夫だ」
邪羅「乗ってないのに、使い方わかるんだ?」
未羽「あてにならない………」


しばらく進むと、一行は謎のトンネルの中に突入した。
後続車の姿も見当たらず、その風景からして明らかに異次元に入り込んだのだと判った。

暗闇の中に『虚空城ホール行き』の看板が見える。さらにその下に血文字で、

『ホールへと通じる扉を開きたくば、今から出す問題に十問連続正解すべし』
とある。


ラス「闇主の奴、またこんな凝った悪戯を……」
邪羅「な、なんだよ、これっ!?」

邪羅たちが慌てていると、暗闇の中にゴシック体の文字が浮かび上がった。


第一問
『柘榴』


未羽「なんて読むの?」
邪羅「うーん、なかなか難し………って、常識だろっ!」

後部座席を向いてツッコミを入れる邪羅。

未羽「妖主の方々の名前や肩書きなどは、なるべく忘れるようにしているんです」
つんと澄まして答える未羽。
未羽「うっかり呼んでしまったら大変ですから。『あの方』で十分通じますし」
邪羅「まあ、わかるけどさー……」

ハンドルを握るラスの正面に取り付けられたカーナビが、きゅいいんと音を立てる。

ラス「邪羅、私は手が放せない」
邪羅「ん?」
ラス「読み仮名を打ってくれないか?」

言われて見れば、カーナビのボタンにあいうえお仮名が振ってある。
仕方なく指を伸ばす邪羅。

邪羅「ざ・く・ろ……っと」

パッ。
柘榴の文字が消えると共に、車が猛烈な勢いで急カーブした。
危うく、フロントガラスに頭を打ち付けそうになる邪羅。

邪羅「っぶねーな、おい!!」
ラス「ここから先は闇主の管轄だ。問題に正解すれば、車は自動的に進む」
邪羅「じゃあおれが操作しなくても別に良かったんじゃ……」

パッ。

第二問
『闇主』


ラス「…………」

黙考するラス。

邪羅「ね、姉ちゃん!?嘘だよな!?」
ラス「冗談だ」
邪羅「良かったー」
ラス「や・み・ぬ・し、と…………」
邪羅「って、違うだろ!!」

パッ。

第三問
『厚顔無恥』


邪羅「えええええええええ!!なんで!?さっきのはいいの!?」
ラス「落ち着け、邪羅。あれは私たちを通過させないためのひっかけ問題だ」
邪羅「そ、そうなの?」
ラス「雑魚ならば闇主の名前を知らないだろうし、普通はやみぬしと読むだろうからな」
邪羅「姉ちゃんすごいよ………なんか今日、輝いてるよ!」
未羽「………」←ついていけない





in虚空城ホール


闇主「第三問!!」

扇子を振り上げる司会者。

闇主「浮城の使いではありません・チキチキ抜き打ち格付けチェックーーーーーーー!!」

観客「ワーーーー!!」
九具楽「ドンドンパフパフドンドンパフパフ」
金「ひゅーひゅー」
白「ゴゴゴゴゴ」
緑「どーん」
マイオル「………」
闇主「ノリの悪い人間どもだな。あそこにいる女がどうなってもいいのか?」

天井に吊るされたスラヴィが、不安そうに二人を見ていた。
紫紺の妖主はスラヴィの足元で、いつでも巨大扇風機のスイッチを入れられる体制に入っている。
彼を除く四人の妖主との対決を強いられた二人は、愛想笑いすらできずに床に座っていた。

闇主「九具楽、例のものを皆に配ってくれ」
九具楽「は」

お膳の上にワインとグラスを乗せて持ってくる九具楽。マイダードの顔がぱっと輝いた。

マイダード「待ってました!」
オルグァン「パブロフの犬かお前は」

金、白、緑、オルグァンにヘッドホンを配り、マイダードの目の前にはお膳を置く九具楽。
A、Bのラベルをそれぞれ貼ったワインとグラスが、ひとつずつ置いてある。

闇主「まずはお前からだ。こういうのは年少者からと決まっている」
マイダード「ふうん」
闇主「ルールはわかってると思うが、改めて説明するぞ。AかB、どちらが高級ワインか当てて見せろ」
マイダード「もう片方は?」
闇主「ただの柘榴の洋酒だ」
オルグァン「それが言いたいがために、このネタを………」

闇主「では、試飲だ。他の連中はヘッドホンをするように」
司会者の指示で、司会者と九具楽を除く舞台上の全員が耳に蓋をする。
九具楽は慇懃無礼を絵に描いたような態度で、マイダードのグラスに液体を注いだ。
九具楽「まずはAからどうぞ」
どうぞとは言っているものの、瞳にはあからさまな敵意がある。肩を竦め、グラスを手に取るマイダード。

マイダード「ん…………」
目を閉じ、口の中で液体を転がす。(少しエロい)
闇主「顔には出すなよ。他の連中にはお前の声は聞こえないんだからな」
マイダード「へいへい」
続いてBの液体を口に含み、またコロコロと味わう。

マイダード「まずい」
闇主「ほう…………」
九具楽「わかったら早く答えを言え」
とん、とグラスを置くマイダード。
マイダード「迷わずA、だな」
闇主「………」
マイダード「明らかに味が違う。路地裏のフレンチカンカンのようなAと比べて、Bは高原を走る磯巾着の味だ」
闇主「何を言ってるんだこいつは」
九具楽「さあ………」

立ち上がり、自信満々に『A』の部屋へ向かうマイダード。その様子を、司会者はモニターで見ている。
闇主「酒飲みには、いささか楽な問題だったか」
九具楽「そうですね」

もちろん正解はAだった。マイダードはガチャリと扉を開ける。
無人の赤いソファーが目の前にあった。
マイダード『………』
一瞬固まった後、彼はその場にがくりと膝をついた。
マイダード『だ、誰もいない!間違えたのか!?』

渾身のボケだった。
不覚にも噴き出してしまい、口元を覆う闇主。
闇主「見たか?お前も少しは見習え」
九具楽「………返す言葉もございません」
闇主「よし、次。連れの男だ」

九具楽はオルグァンの目の前に新しいお膳を置いた。彼のヘッドホンを外してやる。
オルグァンは酒があまり飲めない。ワインも苦手だった。
九具楽「まずはAから」
オルグァン(あいつの舌に間違いはないはず……とすると……)
Aの液体を口に含んだ時、マイダードは一瞬だが満足そうな顔をしていた。
だが柘榴の妖主の配下が、瓶をすり替えている可能性もある。あの時Aだったのが、今はBかも知れない。

オルグァン「………」
闇主「どうだ?」
Bと飲み比べても、何が違うのかまるでわからない。どちらも普通の酒に思える。
オルグァン(可能性は二分の一……)
スラヴィ「オルグァン!!」
オルグァン「!?」
スラヴィ「縦半分に割っ、ぎゃあ!!」
紫「暴れるなと言ったはずだ」
スラヴィを捕らえた糸が、猛烈な勢いで回転した。
ルールに背いてヒントを与えようとしたことが、紫紺の妖主の怒りに触れたらしい。

オルグァン「やめろ!」
静止を願っても、聞き入れられなかった。スラヴィの身体はコマのように回り続ける。
紫「余計なことを言うからだ。この回転に耐えられる女は安○美○くらいのもの」
もはやノーパンどころの騒ぎではなかった。早く答えないと殺す、と言外に次げている。
オルグァン「くそ………わ、わかった、『A』だ!『A』にする!」

彼が叫ぶと、回転はぴたりと止んだ。司会者の不快そうな顔で、彼は答えを悟った。
オルグァン(やっぱりAで良かったのか……)
Aという記号は縦半分に割れる。スラヴィはそれを伝えようとしたのだ。


Aの部屋に行くオルグァン。ガチャリと扉を開ける。マイダードがソファーに座っていた。
その様子をやはりモニターでチェックする司会者たち。

マイダード『よう』
オルグァン『………』
手のひらを上に向け、天井を見上げるオルグァン。
マイダード『いや降ってないから。室内だから』

九具楽「ふ」
二人のやり取りに表情を崩す配下を、じろりと睨みつける闇主。
九具楽「し、失礼。つい………」


ブルンブルッブル………


その時、ホールのドアを打ち破って一台の車が突入して来た。
轢かれてはたまらないと、観客席の妖貴たちは一斉に左右に散る。車が席に衝突して止まると、中から三人の人影が躍り出た。
金「お前たちは………」
緑「な、何者!?」

ラス「間に合ったか……」
未羽「スラヴィ、お待たせ!もう大丈夫よ!」
邪羅「おれたちが来たからには、もう父ちゃんたちの好きにはさせねえぜ!」

闇主「ラスー、会いたかったよ♪」
ラス「うるさい!」
天井目掛けて朱金鎖を振るうラス。スラヴィを絡め取っていた糸が切れた。
落ちてくるところを華麗に受け止める。

ラス「遅くなって、すまない。スラヴィエーラ」
スラヴィ「わたしのことなんて後回しでいいのよ!まだマイダードたちが!」
未羽と一緒にAの部屋に走っていくスラヴィ。
闇主「礼儀知らずな女だねえ」
ひらりと、舞台に飛び乗るラス。乱暴に彼の首根っこを掴んだ。
ラス「マイダードたちに、何をしたんだ!あれだけ言ったのに、また罪もない人に危害を加えようとしたのか!!」
闇主「やだなー、誤解だってば。闇主さんはラスのお友達をもてなしてあげてたんだよ?」
ラス「ほう、糸で巻いて宙吊りにするのがもてなしか」
闇主「あ、それをやったのはそこの男だから」
指を差す先には、紫紺の妖主とその息子がいる。


邪羅「何やってんだよ、父ちゃん。もう他の女には手ぇ出すなって言ったろ?」
紫「黙れ。親に逆らう気か!」
邪羅「ところでおれ、まだお年玉もらってないんだけど」
紫「ZZZZZ」
邪羅「父ちゃんの気持ちはよーーーくわかった。それと、母ちゃん」
白「……なんじゃ」
邪羅「どうせ和服なら、髪は結った方がいいんじゃない?おれ、やってやるよ」
紫「き、汚い手でその方に触れるな!」
邪羅「息子相手に嫉妬してどうするんだか………」


ラス「帰るぞ。遊んでいないで、護り手としての義務をちゃんと果たせ」
闇主「義務、ねえ……ラスがそう思っているなら、別にいいけど」
腕を引っ張って舞台から引き摺り下ろそうとするラス。それを、妖艶な美女が引きとめた。

緑「お待ちなさい。千禍は渡しませんわ」
ラス「!!」
捕まえていた闇主はいつの間にか、壁の方へ逃れていた。
そしてラスは、二人の妖主に挟まれている。
緑「金の君、お願いいたします」
金「心得た」
すっと両手を伸ばし、ラスの首を掴む金パパ。何故だか、笑って見ている闇主。

ラス「父………」


彼女は再び、長い眠りについた。


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Aの部屋のドアを開けるスラヴィ。

スラヴィ「二人とも、大丈夫!?」
同時に立ち上がる二人。
マイオル「正解か!!やった!!」
スラヴィ「何寝ぼけてるの!もう格付けは終わったのよ。今のうちに帰りましょう!」
未羽「そうよ、何してるのよ。さんざんスラヴィに心配かけて!ボケ、カス!○○!」
マイダード「そこまで言われる覚えは……」
遠くから妖貴たちの怒声が聞こえてくる。
ラエスリールが連中の気を引いているうちに、この場を去らなければいけない。
オルグァン「ラエスリールは、間に合ったんだな」
スラヴィ「ええ」
オルグァン「けど、勝負の途中で逃げるのは、浮城の人間としてだな……」
スラヴィ「ううん、勝負には勝ったわ」
確信に満ちた口調で告げるスラヴィ。
スラヴィ「だって柘榴の妖主もその側近も、あなたたちを見て笑ってたもの。こっちの勝ちよ」
未羽「証拠のVTRもあるからね」
マイダード「ラエスリールが死んでも泣きそうにない、柘榴の妖主が笑ったって?」
オルグァン「泣くのと笑うのは違うだろう」

妖貴「人間どもは何処だ!」
妖貴「殺せーーー!!」
どやどやと複数の足音が聞こえる。

オルグァン「まずいな、こっちに来る」
スラヴィ「出られそうな壁を片っ端から押してみましょう。もう懇親会どころじゃないわ、さっさと青月の宮に戻らないと!」
オルグァン「さっきから、そんなに動いて平気なのか」
スラヴィ「何が?」
オルグァン「その………」
スラヴィ「履いてないって話?あれなら、嘘よ」
オルグァン「!!」
スラヴィ「ああ言った方が、やる気が出ると思って」
マイダード「別の方向のやる気なら出たけどな……」



ラス「………」
邪羅「姉ちゃん、姉ちゃんっ!しっかりして!」
闇主「無駄だ。新刊が出るまで意識は戻らんさ」
金「らんさ」
邪羅「あんた、何のつもりだよ!実の娘だろ?」
緑「ラエスリールは世界にとって重要な存在。ここで消耗させるわけにはいかないのよ」
紫「そこをどけ、邪羅。あの人間どもを始末せねば、配下に示しがつかん」
白「ほ、たまには妖主らしいことを言うのう」
闇主「まあ待て。あいつらは一応ラスの同僚だ」
邪羅「兄ちゃん……」
闇主「しばらくは泳がせておいて、鬱金が再開し次第、より残虐な方法で止めを刺すことにしよう」
邪羅「最低だよ兄ちゃん」





ひたすら四方の壁を叩き続けると、ある一点で違和感のある音がした。

マイダード「なんだ、この壁だけ変な音がするぞ。もっと叩いてみよう」
オルグァン「だから説明臭いのはやめろと言ってる。リ○クかお前は」
スラヴィ「やった、扉よ!これで出られる!」

壁の向こうに現れた隠し扉を、三人で一斉に押す。眩しい光が全身を包んだ。
肌に触れる空気が変わり、転移に成功したのだとわかる。

オルグァン「やっと帰ってきたんだな」
マイダード「でも何か、様子がおかしくないか?」
スラヴィ「そう言えば……」

最初に気付いた護り手が声を上げる。
未羽「ここ、浮城だわ!!」

転移門の前で三人と一体を待っていたのは、あまり親しくもない知人の笑顔であった。

サティン「おかえりなさーい」
セスラン「さあ、懇親会の続きをしましょうか?」







完。
チャンチャン

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