雑記帳 冬だ!破妖だ!懇親会A




チャンチャカチャカチャカ、スッテンテン♪
チャンチャカチャカチャカ、スッテンテン♪


軽快な大喜利のテーマに乗って、舞台袖から入場してくる妖主の面々。
左から順に紫、黄色、白、緑の着物を着ている。最後に座布団運びの黒が続いた。


チャラチャチャチャチャーーーーチャチャラチャチャチャ♪
チャラチャチャチャチャーーーーチャチャラチャチャチャ♪

チャッチャーチャチャッチャララララ、チャラッチャチャッチャッチャーーーーー
チャカチャ


闇主「音楽やめ」

顔を顰めて右手を挙げる司会者。
ピタリと曲が止まる。

須蓮「えーっ、もうちょっと聞いていたかったのにぃ」
繊屍「この曲がいいんじゃないか!最後まで流せ!」

観客席から野次が飛ぶ。

闇主「文字数稼ぎが見え見えなんだよ。さっさと始めるぞ」
扇子を一打ちして口を開く闇主。

闇主「おれは司会の……まあ、知らん奴はいないと思うから省略だ。今日はここ、虚空城ホールにて懇親会を行うことにした。観客は妖貴の連中で、演目は『大喜利』。まあこれについても説明はいらんな」

妖主たちは全員、座布団の上に正座している。

闇主「まずは左の奴から、簡単な自己紹介だ。つまらん事を言ったら観客席に蹴落とすぞ」
紫「えーーー、本日はお日柄も……」
闇主「次」
紫「おい!!」
金「一度でいいから見てみたい、千禍の寿命が尽きるとこ。王蜜です」
闇主「大きなお世話だ。次」
白「白い着物とは縁起でもないのう。趣味を疑うわ」
闇主「お前の象徴色の問題だろうが。次」
緑「翡蝶です。先日、手足が十六本ある妖鬼を見かけましたの。これが本当の『四肢十六』」
闇主「まあまあだな」

鷹揚に頷き、黒衣の男に目をやる司会者。



闇主「……で、最後」
九具楽「は……」
心得たように頭を垂れる黒衣の男。
九具楽「桜妃とかけて、年末だけのアルバイトとときます」
闇主「そのこころは?」
九具楽「短気(短期)」

どっと笑いに包まれる場内だが、司会者は渋い顔をしている。

闇主「まあ、60点ってところか………しかしお前、命は大丈夫か?」
九具楽「彼女は冗談を理解する女です。問題ありません」
闇主「先手を打ったな」

観客席に向かって声を発する、座布団運び九具楽。

九具楽「散財のクリスマス・新年イベントが過ぎ去ったと思えば、すぐに地獄のホワイトデーがやってきます。恋人持ちの男性のご心労、お察しします。座布団と心の隙間を埋める、側近の九具楽です」

割れんばかりの拍手が起こる。優雅に退場する九具楽。
後ろの襖を閉める際、小さく「いてっ」と声がした。どうやら指を挟んだらしい。


闇主「では、さっそく一問目にいくとするか。一問目は、短歌の題目だ」

言いながら机を扇子で叩く司会者。

緑「怪我人を運ぶ?」
闇主「既存の俳句や川柳の後に、さらに七七を加えて面白い歌を作る。もちろん破妖ネタでないと意味がないから、かなり難しいぞ」
緑(突っ込んでもらえなかった……)

闇主「説明だけではわからんだろうから、まずは例題を一つ出そう」
白「例題?」
闇主「おれが俳句を詠むから、そうだな……白、お前が『それで?』と返してくれ」
白「あいわかった」

闇主「では、いくぞ。『五月雨を 集めてはやし 最上川』」
白「それで?」
闇主「『早くないのは 破妖の刊行』」


会場からパチパチと拍手が送られる。(半分はお愛想)


闇主「と、まあ、こんな感じで作ってくれればいい。ちなみに上の句を改変するのは禁止だぞ。あくまでも、五七五はそのまま。下の句を添えるだけだ」
金「難題だな……」
緑「はい」
真っ先に挙手する翡翠。

闇主「お、もう出来たのか。翡翠」

司会者の指名を受けて襟を正す翡翠。

緑「『古池や 蛙飛び込む 水の音』」
闇主「ふんふん、それで?」
緑「『買わず立ち読む 前珠読者』」
闇主「(笑)」


会場が笑いに包まれる。

葛衣「さすが我が君……」
家井「もうひとつの人格と融合した今は、まさに文武両道と言える。他の妖主では相手になるまい」
佳瑠「ふん、その割に原作であっさり倒されていたね」
家井「何……」
佳瑠「妖主の人気の秘訣は、強さではないの。その証拠に我が君は、ヘタレキャラとして読者に愛されているわ」
繊屍「確かに、それはあるね。その点翡翠は、殺された上に悲しい過去まであるのに、まるで同情されていないからね」
家井「我が君のよさは、我々だけが知っていれば良いのだ」
佳瑠「そういう陰気なところが嫌われるのよ、翡翠配下は」
桜妃「そんなことより、九具楽ってば!あたしを何だと思ってるの、許さないんだから!」
佳瑠「ほら、同じ配下でもこういう子の方が読者受けがいいだろう?」
葛衣「……」


闇主「九具楽、翡翠に座布団一枚やってくれ」
九具楽「かしこまりました、ただいま」
闇主「他に思いついた奴はいないのか?」

さっと挙手する白。

闇主「ほい、白」
白「『めでたさも 中くらいなり おらが春』」
闇主「それで?」
白「『今年も出ない 鬱金の続き』」

場内にまばらな拍手が起こる。

闇主「いいんだが、ワンパターン化してきそうだな。未完ネタだけでなく、もっとこう、物語に即したのは作れんのか」
白「文句があるならおぬしが作れば良かろう」
闇主「うるさい、さっき例題を作っただろうが。おい九具楽」
九具楽「はい……」
闇主「お前もなんか作れ。出来るだろう」

九具楽「では……」
咳払いする九具楽。


九具楽「『名月を 取ってくれろと 泣く子かな』」
闇主「それで?」
九具楽「『シュライン姫に お譲りなさい』」


白「……意味がわからんの」
闇主「まあこれは『漆黒の魔性』を読んでいないと判らんネタだからな。亜珠に攫われるシュラインが、月を刃に見立てるシーンがあるんだよ」

緑「千禍、余計なことかも知れないが」
闇主「うん、お前は熾翠の方か?なんだ」
緑「シュライン姫が欲しがったのは『三日月』だ。この場合は満月だから、意味が異なるのではないか?」
九具楽「!!」
闇主「それもそうだな。九具楽、一言言っていいか?」
九具楽「は、はい」
闇主「ばーーーか。」
九具楽「……」


佳留「お前の恋人も大変だね」
桜妃「九具楽……」

目に涙を浮かべながら立ち去る九具楽。
魔性は泣かないはずではという突っ込みは、この場合無効と化す。


闇主「それにしても男どもは無口だな。どうせ原作では出番がないんだから、もっと前面に出てボケたらどうなんだ?」
紫「やかましい!今考えているところだ!!」
闇主「金の野郎は何かないのか。例えば娘の首を延々と絞め続けていることについて」
金「ノープロブレム」
闇主「欧米か!」





その時、会場入り口の扉が、静かに開く。
観客席に座っている妖貴たちは、一斉にそちらを向いた。

スラヴィ「ちょっと、なにここ!?」

男性二人を従えながら、一人でパニクるスラヴィ。

スラヴィ「確かに、浮城に通じる転移門を開いたはずなのに!一体どうなってるの!!」
マイダード「『どうやらおれたちは、魔性のいる異次元空間に迷い込んでしまったようだ。大変なことになった。』」
オルグァン「説明臭い台詞は言わなくていい」
スラヴィ「妖貴となんて戦ったことないわ!勝てっこないわよ!!」
マイダード「いい方法がある。要するに戦わなければいいんだ」
オルグァン「落ち着け、スラヴィ。まだ殺されると決まったわけじゃない」

スラヴィの前に立つ二人に、冷たい視線を注ぐ妖貴たち。舞台の上の妖主も例外ではない。

紫「なんだお前たちは!」
闇主「脇役の分際で魔性の巣窟に乗り込むとは、いい度胸だな」
白「久しぶりに生きの良さそうな玩具じゃのう。ちょうど退屈しておったところよ」
緑「あの娘の腰に下げたるは、憎き破妖刀……か。面白い」


どう見ても歓迎されている雰囲気ではなかった。


オルグァン「逃げてもいいぞ、スラヴィ」
スラヴィ「冗談じゃないわ、戦うわよ!ここでいいとこ見せとかないと、本当に口先だけの女になっちゃうじゃない!」
マイダード「よく言った。それでこそおれの……」
スラヴィ「何?」
マイダード「幼馴染み」
スラヴィ「そのまんまじゃないの」


焔矢「人間ふぜいが、我らの領域に立ち入る気か!」
白「やめい、焔矢。せっかくの来客じゃ」
焔矢「し、しかし……」
闇主「そこの女には個人的な恨みもある。お前らは手を出すな」
緑「あら、独り占めは駄目ですわよ、千禍。ふふふ」
紫「男には用はないが……そこの娘、生気に溢れているな。いい人形になりそうだ」
金「………」


未羽(スラヴィ、相手が悪いわ!逃げましょう!)
スラヴィ(逃げられる相手でもないわ。未羽、あなたは先に浮城へ行って、ラエスリールにこの事を伝えて)
未羽(わ、わかったわ!)
こっそり転移する未羽。だが、上級魔性がそれを見逃すはずがなかった。


黄呀「一匹逃げたわ!」
内梨「こら、待ちなさい!」
家井「逃がさぬ!」

護り手を追って姿を消す妖貴たち。

スラヴィ「未羽……」
マイダード「大丈夫だ。あいつは口は軽いが羽根も軽い。きっと逃げられるって」
オルグァン「それより問題はおれたちの方だな」


上級魔性に囲まれ、四面楚歌の状況に追い詰められた奪還チーム。
果たして彼らは無事に浮城に辿り着くことが出来るのか。
未羽の安否は?そして放置された大善利の行方は?




何も考えていないまま次回へ続く


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