(しばらく待っていたがマイダードが出てくる気配はなく) (諦めて、元来た道を引き返すオルグァン) (周囲はすっかり暗くなっていた) オルグァン(ターラまで転生してたとは……) オルグァン(スラヴィに報告すべきか、しかし) (思案する彼の背中に固い物が当たる) マイダード「動くな」 オルグァン「!?」 マイダード「何が目的でおれをつけた?」 オルグァン「……」 (視線を斜め下にやると、突きつけられているのはナイフではなくボールペンだった) オルグァン「……あの子とはどういう関係だ」 マイダード「おれが質問してるんだよ」 (会社にいる時とはまるで違う、鋭い声だった) (剣道の心得があるオルグァンだったが、彼を傷つけるつもりはないため、ここは正直に答えておく) オルグァン「彼女がいながら、スラ……夢野にも気のあるような素振りを見せるお前が信用ならんから、後をつけたまでだ」 マイダード「……へ?」 (その答えは彼の予想外だったらしく、驚く気配が伝わってくる) マイダード「なんだ、おれはてっきり、また新手のストーカーかと……」 オルグァン「また?」 マイダード「つまり用があるのは、あの子じゃなくておれなんだな?」 オルグァン「ああ」 マイダード「……場所を変えよう」 〜カフェ〜 店員「いらっしゃいませ。ご注文は?」 オルグァン「アメリカンコーヒー」 マイダード「いちごのパンケーキ」 オルグァン「……」 マイダード「何だ?」 オルグァン「別に……」 (ごくごく) (もぐもぐ) オルグァン「上着くらい脱いだらどうだ?」 マイダード「おれは夏でも長袖なんだ」 オルグァン「?」 マイダード「背中から腕にかけて、皮膚が赤く爛れてる」 (何でも無いことのように言う彼に、言葉を詰まらせるオルグァン) オルグァン「なぜ、そんな……」 (さすがに現世では全身に刺青はないと思ってはいたが) (それでも、傷には変わりは無い) (やはり前世の因縁からは逃れられないと言うことか) マイダード「あの子のストーカーが、とち狂って硫酸ぶっかけようとしたんでね」 オルグァン「それを庇って……か」 マイダード「愛染さん家の娘さんとは、子どもの頃家が近所で、よく面倒見てたりしてたんだ。幼なじみってやつ」 オルグァン「しかし、彼女というのは……」 マイダード「そういうことにしておけばいいって、おれが言ったんだよ。ストーカーには逃げられちまったし。てっきりあんたもそうかと」 オルグァン「悪かったな、誤解させるような真似をして」 マイダード「いいって、小野の気持ちは何となくわかったから。要は、おれがあの子を思ってるように、小野も夢野さんを思ってるって事だろう?」 オルグァン「……ああ」 (妹のように大事なだけで、決して恋愛の対象ではない、と) (それを聞いてマイダードは安心したような笑顔を見せた) マイダード「良かった、あんたが恋敵じゃ勝ち目ないもんな。じゃあ協力してストーカーを捕まえよう」 オルグァン「待て。なぜそうなる」 マイダード「そうしたらおれはお役御免だし、晴れて夢野さんと付き合ってもいいんだろ?」 オルグァン「あのな……」 (彼とてターラのことは心配であったが、これ以上面倒なことはごめんだという気持ちもある) マイダード「もしかして、体に傷があるから夢野さんには相応しくないって思ってる?」 オルグァン「いや……」 (前世では傷どころか全身に刺青彫ってたぞ、とは言えない) マイダード「今、外科手術の予約待ちなんだ。費用はあの子の両親が出すって言ってくれたけど、そんなに裕福な家庭でもないから、とりあえず上限ギリギリまで出して貰って、足りない分はおれが自腹を切ることになってる」 オルグァン「貰えるものはきっちり貰うのか……お前らしいな」 マイダード「だって物凄く痛かったんだぞ!あの子を庇ったのは後悔してないが、見返りを求めないかどうかは別。あんたも硫酸浴びてみればわかる」 オルグァン「……」 (呆れつつも、彼が変わっていないことに安堵しているオルグァン) (恐らく彼の中には『男はこうあるべき』というような指針があり、それに向けて努力はしているのだろうが) (本来は痛がりで怖がりな、ごく普通の青年) (それが、オルグァンの認識している『刺青のマイダード』の全てだった) マイダード「小野みたいな逞しい男だったら、傷もさまになるんだろうな。でも、おれは線の細いイケメンだろ?どうしてもメンヘラとか事件臭がするらしくて、女性とベッドまで行っても、肌を見せた途端逃げられる」 オルグァン「……」 マイダード「このままじゃ一生童貞、早く手術費用を貯めないと……で、昇給を匂わされて支社に来てみれば、好みにどストライクの子がいるじゃないか。まさかこの土地で理想の女性に出会うなんて思わなかった。何となく、彼女ならおれの傷を見ても引かない気がするんだ」 オルグァン(そりゃそうだ……) マイダード「付き合ったら絶対に大切にする。だから、協力してくれるだろ?」 オルグァン「言いたいことはわかった。だが、どうやってそのストーカーとやらを捕まえるつもりだ?」 (うろんな目を向けるオルグァンに、きっぱりと答えるマイダード) マイダード「女装。」 オルグァン(やはり……) (うなだれるオルグァン) (この男にまともな作戦を期待するだけ間違いだった) (そう、前世で紅蓮姫奪還チームを組んでいた、あの頃から) 続く [*前] | [次#] ページ: |