鬱金の間 現代パロ(中編)


(しばらく待っていたがマイダードが出てくる気配はなく)
(諦めて、元来た道を引き返すオルグァン)
(周囲はすっかり暗くなっていた)


オルグァン(ターラまで転生してたとは……)
オルグァン(スラヴィに報告すべきか、しかし)

(思案する彼の背中に固い物が当たる)

マイダード「動くな」
オルグァン「!?」


マイダード「何が目的でおれをつけた?」
オルグァン「……」

(視線を斜め下にやると、突きつけられているのはナイフではなくボールペンだった)

オルグァン「……あの子とはどういう関係だ」
マイダード「おれが質問してるんだよ」

(会社にいる時とはまるで違う、鋭い声だった)
(剣道の心得があるオルグァンだったが、彼を傷つけるつもりはないため、ここは正直に答えておく)

オルグァン「彼女がいながら、スラ……夢野にも気のあるような素振りを見せるお前が信用ならんから、後をつけたまでだ」
マイダード「……へ?」

(その答えは彼の予想外だったらしく、驚く気配が伝わってくる)

マイダード「なんだ、おれはてっきり、また新手のストーカーかと……」
オルグァン「また?」
マイダード「つまり用があるのは、あの子じゃなくておれなんだな?」
オルグァン「ああ」
マイダード「……場所を変えよう」


〜カフェ〜

店員「いらっしゃいませ。ご注文は?」

オルグァン「アメリカンコーヒー」
マイダード「いちごのパンケーキ」
オルグァン「……」
マイダード「何だ?」
オルグァン「別に……」

(ごくごく)
(もぐもぐ)

オルグァン「上着くらい脱いだらどうだ?」
マイダード「おれは夏でも長袖なんだ」
オルグァン「?」
マイダード「背中から腕にかけて、皮膚が赤く爛れてる」

(何でも無いことのように言う彼に、言葉を詰まらせるオルグァン)

オルグァン「なぜ、そんな……」

(さすがに現世では全身に刺青はないと思ってはいたが)
(それでも、傷には変わりは無い)
(やはり前世の因縁からは逃れられないと言うことか)

マイダード「あの子のストーカーが、とち狂って硫酸ぶっかけようとしたんでね」
オルグァン「それを庇って……か」
マイダード「愛染さん家の娘さんとは、子どもの頃家が近所で、よく面倒見てたりしてたんだ。幼なじみってやつ」
オルグァン「しかし、彼女というのは……」
マイダード「そういうことにしておけばいいって、おれが言ったんだよ。ストーカーには逃げられちまったし。てっきりあんたもそうかと」

オルグァン「悪かったな、誤解させるような真似をして」
マイダード「いいって、小野の気持ちは何となくわかったから。要は、おれがあの子を思ってるように、小野も夢野さんを思ってるって事だろう?」
オルグァン「……ああ」

(妹のように大事なだけで、決して恋愛の対象ではない、と)
(それを聞いてマイダードは安心したような笑顔を見せた)

マイダード「良かった、あんたが恋敵じゃ勝ち目ないもんな。じゃあ協力してストーカーを捕まえよう」
オルグァン「待て。なぜそうなる」
マイダード「そうしたらおれはお役御免だし、晴れて夢野さんと付き合ってもいいんだろ?」
オルグァン「あのな……」

(彼とてターラのことは心配であったが、これ以上面倒なことはごめんだという気持ちもある)

マイダード「もしかして、体に傷があるから夢野さんには相応しくないって思ってる?」
オルグァン「いや……」

(前世では傷どころか全身に刺青彫ってたぞ、とは言えない)

マイダード「今、外科手術の予約待ちなんだ。費用はあの子の両親が出すって言ってくれたけど、そんなに裕福な家庭でもないから、とりあえず上限ギリギリまで出して貰って、足りない分はおれが自腹を切ることになってる」
オルグァン「貰えるものはきっちり貰うのか……お前らしいな」
マイダード「だって物凄く痛かったんだぞ!あの子を庇ったのは後悔してないが、見返りを求めないかどうかは別。あんたも硫酸浴びてみればわかる」
オルグァン「……」

(呆れつつも、彼が変わっていないことに安堵しているオルグァン)
(恐らく彼の中には『男はこうあるべき』というような指針があり、それに向けて努力はしているのだろうが)
(本来は痛がりで怖がりな、ごく普通の青年)
(それが、オルグァンの認識している『刺青のマイダード』の全てだった)

マイダード「小野みたいな逞しい男だったら、傷もさまになるんだろうな。でも、おれは線の細いイケメンだろ?どうしてもメンヘラとか事件臭がするらしくて、女性とベッドまで行っても、肌を見せた途端逃げられる」
オルグァン「……」
マイダード「このままじゃ一生童貞、早く手術費用を貯めないと……で、昇給を匂わされて支社に来てみれば、好みにどストライクの子がいるじゃないか。まさかこの土地で理想の女性に出会うなんて思わなかった。何となく、彼女ならおれの傷を見ても引かない気がするんだ」

オルグァン(そりゃそうだ……)

マイダード「付き合ったら絶対に大切にする。だから、協力してくれるだろ?」
オルグァン「言いたいことはわかった。だが、どうやってそのストーカーとやらを捕まえるつもりだ?」

(うろんな目を向けるオルグァンに、きっぱりと答えるマイダード)


マイダード「女装。」


オルグァン(やはり……)


(うなだれるオルグァン)
(この男にまともな作戦を期待するだけ間違いだった)
(そう、前世で紅蓮姫奪還チームを組んでいた、あの頃から)


続く


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