鬱金の間 現代パロ(前編)


※パラレル転生もの



(平成も終わりを迎えようとしている2月のこと)
(スポーツ用品を扱っている都内のとあるオフィス)
(現代に転生したスラヴィは、ここで課長補佐として働いていた)

スラヴィ「一体どこにいるのかしら、あいつ……」

(昼休み、お弁当を食べながらスマホをいじるスラヴィ)
(その隣で、惣菜パン片手に話しかけるオルグァン)

オルグァン「まだ、見つからないか……?」
スラヴィ「うん」

(前世では魔性との戦いの中で散ったマイスラオル)
(死の間際、生まれ変わってもまた一緒に、と誓った三人だが)
(マイダードだけは未だに見つからなかった)

スラヴィ「わたしは夢野、オルグァンは小野……だから、マイダードもそれっぽい名前で検索したけど全然」

(オルスラは前世では剣士だったこともあり、剣に携わっていればどこかで会えるだろうと考えていたのが的中し、剣道のインターハイで再会した)
(しかしマイダードの特徴と言えば、ほぼ全身に入れた刺青以外になく)
(現世ではどう検索しても、やばい人しか引っかからない)

オルグァン「あいつだけアウトローに身を落としてたらどうする?」
スラヴィ「……それでも、受け入れるわ。マイダードはマイダードだし」
オルグァン「苦労するぞ」
スラヴィ「わかってる」

(電話が鳴る)

スラヴィ「お電話ありがとうございます。こちら株式会社フロートキャッスルです」
客「課長いますか?」
スラヴィ(……!!)
スラヴィ(この無作法ぶりと、間の抜けた声……)

スラヴィ「はい、おります。失礼ですがお名前は?」


〜その後〜

課長アーヴィヌス「急な話ですまんが、本社から助っ人に来てくれた……」
マイダード「市井舞汰だ。よろしく」
スラヴィ「課長補佐をしてる、夢野好良美よ。みんなにはスラヴィって呼ばれてる」
オルグァン「小野織牙だ。おれも課長補佐だ。もっとも、外回りが多くほとんど社内には居ないがな」

(二人から差し出された名刺を見て笑いを洩らすマイダード)

マイダード「いや、失礼。お二人とも変わった名前だなぁ」
スラヴィ(こいつ……)
オルグァン(……覚えてない、のか……?)


オルグァン「デスクはスラ……夢野の隣だ。わからないことがあったら彼女に聞くといい」

(デスクの上に手を置き、周囲を見回すマイダード)

マイダード「彼女はどこいった?好みなんだが」
オルグァン「……課長に呼ばれて席を外してる」
マイダード「ハキハキしてて、感じのいい子だな。あんたと付き合ってるのか?」
オルグァン「高校の時からの友人だ」
マイダード「へえ、それで会社も?仲がいいんだ」
オルグァン「おれたちはわけあって人捜しをしてる。それで転勤の多いところを選んだ」
マイダード「人捜し?」
オルグァン「刺青……」
マイダード「?」
オルグァン「捕縛師……浮城……魔性……心当たりはないか?」
マイダード「なんとか師?ソシャゲの話か?」

(関連のあるキーワードにも全く反応しないマイダード)

オルグァン「……いや、何でも無い。夢野ならすぐ戻ってくるはずだ」
マイダード「♪」
オルグァン(全く……)
オルグァン(何度転生を繰り返しても、性懲りも無く惚れるなこいつは……)


(一日の仕事を終えて、書類をまとめているマイダード)
(背後から慎重に話しかけるスラヴィ)

スラヴィ「マイ……市井くん、お疲れ様」
マイダード「ああ、夢野さんも」
スラヴィ「あなたの歓迎会は暇が出来たら改めてってことで、今日はわたしと二人で飲みに行かない?」
マイダード「行く!!」
スラヴィ「……」
マイダード「あ、おれのことは呼び捨てでいいから。君のこともスラヴィって呼んでいいか?」
スラヴィ「『君』……」
マイダード「馴れ馴れしかったか」
スラヴィ「ううん、その逆」
マイダード「?」
スラヴィ「行きましょう、市井くん」
マイダード「……」


〜居酒屋〜

スラヴィ「ビール追加!」
マイダード「お姉さん、いける口だねえ」
スラヴィ「酔い潰してどうこうしようとする取引先の連中に混じって働いてたら、嫌でも強くなるわよ」
マイダード「なるほど」
スラヴィ「市井くんは、全然飲んでないじゃない」

(彼は酒好きだったことから、何か思い出すのではと期待していたスラヴィ)
(しかし乾杯のグラスに口をつけただけで、料理だけを黙々と食べている)

マイダード「普段はうわばみなんだが、この後少し野暮用があってね」
スラヴィ「そうなの。急に誘ったりして悪かったかしら」
マイダード「いいっていいって。君ともっと話したかったし」

(君呼びに背中がむずむずするスラヴィ)
(何年も探し求めていた相手が目の前に居るのに、真実を話せない歯痒さ)

オルグァン『焦っても変な女と思われるだけだ。今は様子を見るだけにしろ』

スラヴィ(わかってるわよ、わかってるけど……!!)

(マイダードのスマホが鳴る)

マイダード「もしもし?どうしたんだ、待てなかったのか?」
スラヴィ「!?」
マイダード「ああ、心配ないって。うん、うん。今度買っていくよ。それじゃ」

(通話を切り、微笑むマイダード)

スラヴィ「ご家族から?」
マイダード「いや、彼女から。この後会うんだ」

スラヴィ「」


〜翌日〜

オルグァン「そうきたか……」
スラヴィ「ええ」
オルグァン「奴に前世の記憶が無いとしたら、恋人がいてもおかしくはないが」
スラヴィ「ん……そうね」
スラヴィ「考えてみたら、別に将来を約束してたわけじゃないし、今世でマイダードが誰と付き合おうが彼の自由だったわ」
オルグァン「しかし、奴は初対面でお前にあからさまな好意を……」
スラヴィ「仲間として、でしょ。オルグァンだってそうじゃない」
オルグァン「おれは……」

スラヴィ「あーあ。何だか一人で空回りして馬鹿みたい」

(うーんと伸びをして、笑顔を見せるスラヴィ)
(無理して明るく振る舞っていることは明白で、困惑するオルグァン)

スラヴィ「そんな顔しないで。二人とまた会えただけで、わたしは満足よ。さあて、仕事仕事」
オルグァン「……」


〜尾行〜

(仕事が終わって帰途につくマイダードの後をつけているオルグァン)
(電柱に隠れて様子を伺っていると、香水ショップに入っていく後ろ姿が見える)

オルグァン(彼女へのプレゼントか?)
オルグァン(しかしあいつのことだ、スラヴィの気を引くためのエア彼女という可能性も)

(ショップの紙袋を下げて住宅街へ向かうマイダード)
(とある民家のインターホンを押すと、家の中から一人の少女が出てくる)

オルグァン「あれは……!」

(見覚えのある顔に息を飲む)
(前世で縁のあった、アーゼンターラであった)

ターラ「いらっしゃい。入って」
マイダード「うん」

オルグァン「……」

(天を仰いで、瞼を閉じるオルグァン)



続く

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