(ここは、スラム街にある違法ペットショップ『不浄』) (心身に欠陥を抱えている訳ありの動物たちを色んなところから攫い、ブリードして売りさばいている) (店長のマンスラムは、本日やっと買い手がついたカラスをケージから出していた) 店長マンスラム「よかったわね、ラス。あなたを欲しいという飼い主が見つかって。しかもあんなイケメンなんて」 カラスリール「義母上……私は嫌です、ずっと不浄で暮らしてはいけないのですか?」 店長マンスラム「馬鹿を言わないで。ここまで育てるのに幾らかかったと思ってるの」 カランカ「姉上……お許しください、私が不甲斐ないばかりに……!」 (カランコロン) (入店音とともに、黒いスーツに身を包んだ、横柄そうな男が入ってくる) 男性客「邪魔をするぞ」 店長マンスラム「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」 男性客「おっ、準備はできてるな。ほら約束の金だ」 (札束をレジの上に放り投げる男性客) 店長マンスラム「毎度ありがとうございます。この子ったら、恥ずかしがって暴れているんですのよ」 男性客「そうかそうか。マンションに着いたら存分にかわいがってやる」 カラスリール「やめろ、放せ!義母上、義母上!乱華!」 カランカ「姉上ーーーっ!貴様、姉上から手をどけろ!」 店長マンスラム「よろしければ、弟の方もセットで……」 男性客「いらん。じゃあ貰ってくぞ」 (ギャアギャアと騒ぐカラスが箱詰めされ、男性客に手渡される) 店長マンスラム「ありがとうございました。またのお越しを」 (カランコロン) 店長マンスラム「ほらほら、穀潰しのラスがやっと売れたんだから、そこの二匹も頑張りなさい」 (ケージの中には、柴犬と北極熊が座っている) イヌダード「……」 クマオル「……」 店長マンスラム「あなたたちは見た目は悪くないのに、飼い主を選り好みしすぎるのよ」 イヌダード「そんなこと言われても……」 クマオル「そもそも犬と熊を同じケージに入れている時点で」 (カランコロン) (銀色の髪の少女が入店してくる) 女性客「わあ、この柴犬かわいい。おいくらですか?」 イヌダード「おっ、別嬪さんだ。(尻尾ふりふり)」 クマオル「お前……」 店長マンスラム「102,300になります。毛並みもいいし、賢い子ですよ」 女性客「去勢済みですか?」 イヌダード「!!」 店長マンスラム「いえ、ですがご希望なら手術致します。割高になりますけど」 女性客「学生だから10万以上はきついんですよね……ごめんなさい、諦めます」 (カランコロン) イヌダード「た、助かった……」 クマオル「ドンマイ」 〜夜〜 店長マンスラム「結局今日も売れ残ったわね」 イヌダード「……」 クマオル「……」 店長マンスラム「まあいいわ、それよりあなたたちに、新しいお友達を連れてきたの」 イヌダード「ええ……これ以上ケージが狭くなるのか?」 クマオル「またむさ苦しくなるな」 (バスケットの中に手を突っ込む店長) 店長マンスラム「路地裏で拾ったスラヴィッシュショートヘアなのだけど、突然変異みたいでね、アルビノでもないのに目が赤いのよ」 イヌダード「それを言うならブリティッシュだろ……」 クマオル「同意」 店長マンスラム「さあスラヴィ、お友達にご挨拶しなさい」 (マイオルの眼前にそっと下ろされる一匹の黒猫) マイオル「!!」 (予想に反して愛らしい雌だったため、目の色を変える二匹) ネコスラ「初めまして。わたし、スラヴィエーラって言うの。よろしくね」 クマオル「よろしく。おれは北極熊のオルグァンで、こっちは柴犬のマイダード」 イヌダード「……」 クマオル「おい」 イヌダード「……」 クマオル「おい。挨拶くらいしてやれ」 ネコスラ「いいのよ。大人しい子なんでしょ」 イヌダード「……」 ネコスラ「わたしのことは、スラヴィって呼んで。お互いに短い付き合いになることを祈りましょう」 〜深夜〜 (ケージの隅で丸くなって眠っているスラヴィ) (その姿を遠目に見て、ため息をついているマイダード) イヌダード「旦那……」 クマオル「なんだ」 イヌダード「あの黒い猫と交尾したい」 (昼間の様子からなんとなく察しはついていたため、さほど驚かないオルグァン) クマオル「駄目だ。諦めろ」 イヌダード「なんで……」 クマオル「犬と猫は一緒にはなれないんだ。ましてやおれたちは商品だぞ」 イヌダード「そんなことは百も承知なんだが……でも、胸が苦しいんだ。どうしたらいいと思う?」 クマオル「知るか」 イヌダード「熊だって、たまに人間を産んだりするだろ?中から出てきたの見たことあるぞ」 クマオル「あれは着ぐるみだ、一緒にするな」 イヌダード「交尾したい……」 クマオル「発情期か。頼むから寝ぼけておれの上で腰を振るのはやめろよ」 (冷たく答えて背を向けるオルグァン) (まだ未練がましくスラヴィを見ているマイダード) 〜朝〜 店長マンスラム「マイダード、今日はお風呂の日だからこっちにいらっしゃい」 イヌダード「つがいになる雌にしか見せたくないんですが……」 店長マンスラム「私は動物の嫌がる顔が見たくてこの仕事をしているの。さ、全身をくまなく洗ってあげましょう」 (ケージ内に中年女性の二の腕が伸びてきて、ひょいと持ち上げられる) (死んだ魚の目をして連れ去られるマイダード) クマオル「うるさいのが行ったか」 ネコスラ「あいつ、普段はうるさいの?わたしが話しづらいのかしら」 クマオル「いや、こんなに話しやすい雌はおれは初めてだ。マイダードも言ってたが、初めて会った気がしない」 ネコスラ「……そうね、わたしも二匹を見た時、なんだか懐かしい感じがしたわ。前世では仲間だったのかもね」 クマオル「……」 ネコスラ「どうしたの、急に黙って」 クマオル「昨夜あいつのブラウザの履歴を見たんだが、『犬と猫』『交尾』『やり方』で執拗に検索してた」 ネコスラ「勝手に他犬のスマホを見るのは良くないんじゃないの」 クマオル「突っ込むところはそこか?犬がスマホを使っていることについては?」 ネコスラ「いいんじゃない、ワンセグって言うし」 クマオル「……」 ネコスラ「……」 ネコスラ「で、何。あいつわたしと交尾したいの?」 クマオル「そのようだ。何か、色々すまんな」 ネコスラ「あなたが謝ることじゃないと思うけど」 クマオル「いや……同じ雄として、また当事者として謝っておく。あいつは雌を無理矢理どうこうしようなんて考える奴じゃないが、もしお前が恐怖を感じるなら、ここから逃がしてやってもいい」 ネコスラ「……」 クマオル「お前のことはおれも気に入ったし、残念だが……」 ネコスラ「なんかそれって、負けたみたいで癪じゃない?好かれること自体は悪い気はしないし、マイダードとちゃんと話してから決めるわ」 クマオル「そうか……そうだな」 〜昼〜 (風呂が終わり、ケージに戻されるマイダード) イヌダード「ただいま……って、旦那は?」 ネコスラ「トイレ」 イヌダード「そうか……おれもちょっと用事……」 ネコスラ「なんで逃げるの?ちゃんとわたしの目を見て、マイダード」 イヌダード「……やましいことがあるから、見られない」 ネコスラ「やましいこと?獣同士なんて、所詮することは一つでしょ」 イヌダード「スラヴィは、おれが怖くないのか?」 ネコスラ「少なくとも、人間よりは話が通じるしね」 イヌダード「……?」 ネコスラ「ここに来る前は飼い猫だったの。主人は漫画やアニメが好きな、いわゆるキモオタだったんだけど、わたし別に面食いじゃないし、餌さえくれれば飼い主がどんな奴だろうがどうでも良かった」 イヌダード「……」 ネコスラ「でもある日突然、何を思ったのか、わたしの中に突っ込もうとしてきて」 イヌダード「な……」 ネコスラ「驚いて引っ掻いた結果、元々体力のなかった飼い主は、傷口から病気に感染。わたしはめでたく人殺し猫ってわけ」 イヌダード「そんなの……スラヴィは何も悪くないだろ!?」 ネコスラ「でも、人間様はそうは思わないわけよ。今だって、警察が血眼になってわたしの行方を捜してる。レッドアイの黒猫なんてすぐ足がつくわ」 イヌダード「……」 ネコスラ「幸い、オルグァンが逃がしてくれるって言うし、ここも近いうちに出て行くつもり。一時的に身を隠すにはいいけど、店長に通報されたら終わりだものね」 イヌダード「おれも一緒に行く」 ネコスラ「交尾はしないってば」 イヌダード「わかってる。でも、気持ちは変わらないから。信用できなければ、去勢手術を受けたっていい」 ネコスラ「子孫を残すのが動物の使命でしょ?マイダードなら、可愛い雌の柴犬がいくらでも見つかるわ」 イヌダード「スラヴィがいいんだ。他の雌じゃ駄目なんだ」 ネコスラ「……手近な相手がいないから、勘違いしてるだけよ」 イヌダード「用心棒として側に居られるだけでいい。おれは犬だから、お前より体も大きいし、力も強い。人間に捕まりそうになっても、守ってやれる」 ネコスラ「それ、わたしにとって都合よすぎない?何もしてあげられないのに、雄の力だけ利用するなんて真似、出来ないわ」 イヌダード「スラヴィが殺されるのは嫌だ。……もう、女に先立たれるのはごめんなんだよ」 (脳裏によみがえる苦い思い出) (彼の元飼い主は、夜の仕事をしていた若い女性) (五畳半に散乱する洗濯物、汚れたコンビニの袋、転がる空のペットボトル) (動物用のベッドに座っているマイダードを見下ろし、力なく微笑む女性) 『……ごめんね、あなたを連れて行けない』 (女性が何をしようとしているのか、天井から下がった紐を見ただけでは、彼にはわからなかった) (餌に薬が入っていたのか、眠気が襲ってくる) (うとうとしているマイダードの傍らにそっとスマホを置き) (しばらく頭を撫でてくれた後、女性は椅子に乗って紐に手をかける) 『さよなら』 (眠りから覚めたとき主人の姿は既になく、彼は見知らぬ場所に寝かされていた) 店長マンスラム『あら、気がついた?』 イヌダード『……?』 店長マンスラム『ご主人のことは、残念だったわね。でも大丈夫、これからは私が責任を持ってあなたの身柄を預かるわ』 (ケージの中には知らない熊) (気の毒そうな顔でマイダードを見ている) (どれほど待っても主人は迎えに来ない、遠いところに行ってしまったのだと気づく) (女性は天涯孤独の身であり、マイダードだけが唯一の家族だった) (形見のスマホは取り上げられそうになったが、必死で阻止した) 店長マンスラム『知能が高い子ねえ。まあ、解約されるまで好きにすればいいわ』 (自力で操作を覚え、中に入っている写真を見つめては、主人との思い出に浸るマイダード) (それも月末までで、もうすぐ見られなくなる) (犬は強者に服従する生き物である) (彼には新たな主人が、生き甲斐が必要だった) ネコスラ「そうだったの……」 ネコスラ「安定した人気の柴犬が、どうして売れ残ってるのか不思議だったけど、心理的瑕疵物件だったわけか」 イヌダード「……」 ネコスラ「つくづく、ペットって損だわね。人間の横暴で、勝手に価値を上げられたり下げられたり」 イヌダード「……おれの主人は、横暴じゃない。ただ、優しすぎたんだ。荒んだ人間の世界では、生きていられないほどに。だから……悪く言わないでくれ」 (沈黙するスラヴィ) (怒ったのかと思っていると、不意に体をこすりつけてくる) (スリスリ) イヌダード「!?」 ネコスラ「マイダードのそういうところ、好き」 イヌダード「……ど、どうも」 ネコスラ「わたしの負けね。あなたをもっと知っていけば、これからもっと好きになると思う」 イヌダード「え、それじゃ……」 ネコスラ「毛繕いや甘噛みならできるから、それで許してくれる?」 イヌダード「もちろん!!……って、毛繕い?甘噛み?」 (産まれてすぐに親兄弟から引き離され、ドライヤーやタオルでゴシゴシされてきた彼には、そちらの知識はなかった) ネコスラ「自分でしたことないの?毛繕いって言うのは、こう」 (ペロペロ) イヌダード「!!」 ネコスラ「甘噛みって言うのは、こう」 (カプカプ) イヌダード「……!!」 〜事後〜 イヌダード(ビクンビクン) クマオル「おい、マイダードがひっくり返って痙攣してるんだが、何があった?」 ネコスラ「知らない。それより、話し合いの結果、わたしたち二匹で出て行くことにしたから」 クマオル「そうか……寂しくなるな」 ネコスラ「オルグァンも一緒に行きましょうよ」 クマオル「おれは北極熊だ、いずれは故郷に帰らねばならん」 ネコスラ「そこ重要だったの?触れちゃいけないのかと思ってたわ」 クマオル「お前たちも連れて行きたいが、犬や猫が暮らせる環境ではないからな……まあ、達者でやれ」 ネコスラ「ありがとう。それで、具体的にどうやって逃がしてくれるの?」 クマオル「まずはおれが盛大な屁をこいて……」 (くつくつ) (低い笑い声に、二匹ははっとして上を見る) (先日カラスを引き取った上客の男が、嫌らしい笑みを浮かべてオルスラを見ていた) 男性客「そいつはいいことを聞いた」 ネコスラ「嘘……」 クマオル「こいつ……」 (オルスラが驚いたのは、そこに男性客がいたからではない) (彼のほかにも数人の客が店内にいるが、他の人間は全くこちらを見ていない) (この男性客は、オルスラの会話を理解している) ネコスラ「……ちゃんと動物言語で喋ってたのに」 クマオル「おれたちは人間の言葉を話せても、逆はないはず、だが……」 (この世界の動物は基本的にバイリンガルである) (人に聞かれてはまずい会話は、動物だけに通じる言葉で話す) (そうすることで人間を欺く、それが彼らのせめてもの反抗であった) 男性客「店長、この黒猫はいくらだ?」 (告げ口されることに怯える二匹だが、男性客は意外なことを言い出した) (すぐに店長が反応する) 店長マンスラム「さすがお目が高いですわ。その子は新入りさんで、一押しの子なんですよ。64,000円になります」 (許可も得ずケージからスラヴィを取り出す男性客) 男性客「おれと同じ赤い瞳が気に入った。倍額出すから、今すぐ連れて行く」 店長マンスラム「まあ、倍額?すぐ準備いたします!」 ネコスラ「一緒にしないでよ!わたしの目は、そんな血生臭い色じゃない!」 (暴れるスラヴィの耳元で、ぼそりと呟く男性客) 男性客「……人殺しの分際で何を言うやら」 ネコスラ「!」 (急に大人しくなったスラヴィを心配そうに見上げる、事情を知らないオルグァン) (熊とはいえ体は小さいため、必死でジャンプしても男性客までは届かない) クマオル「その娘を離せ。嫌がっているのを連れていく権利は誰にもない」 男性客「うるさい熊だな。どいてろ」 (軽く頭を押されただけで、ケージの隅まで転がっていくオルグァン) (壁にぶつかり、目を回す) クマオル(くそ……ここが北極で、おれが成体なら、こんな男は敵ではないのに) 店長マンスラム「お客様、その子も商品ですのであまり乱暴は」 男性客「熊の治療費は3万円ほどで足りるか?」 店長マンスラム「毎度ありがとうございます!!」 〜夕方〜 (マイダードが目を覚ました時には全てが終わっていた) (店の入り口には『本日は閉店しました』の札が下げてある) (店長はオルグァンの額に包帯だけ巻くと、3万円を握ってパチンコに出かけた) イヌダード「スラヴィが例の客に浚われただって!?」 クマオル「すまん、おれがついていながら」 イヌダード「旦那のせいじゃない。スラヴィの恋犬はおれなんだから」 クマオル「早くも恋犬面か」 イヌダード「くそ……!!」 (床に肉球をバンバン叩きつけ、尻を突き上げるマイダード) イヌダード「何が『人間から守ってやる』だ!偉そうに言っておいて、肝心な時に気を失ってたなんて……!」 クマオル「お前を失神させたのはスラヴィだがな」 イヌダード「うちの常連だから、匂いは覚えてる。辿っていけば自宅に着くはずだ」 クマオル「あの男は動物虐待が趣味って噂だ、行っても返り討ちに遭うだけだぞ。幸いスマホが使えるんだから、人間のふりをして警察に連絡をしろ」 イヌダード「警察は駄目だ。スラヴィが捕まっちまう」 クマオル「あいつ、捕まるようなことをしたのか?」 (事情を説明するマイダード) クマオル「そうか……それであの時……」 イヌダード「なに?」 クマオル「あの男が、暴れるスラヴィの耳元で何か言ったんだ。それからスラヴィは急にうなだれて、黙って連れられていった」 イヌダード「……」 (猫は素早く、店の入り口は自動ドアである) (男を引っ掻いて逃げようと思えば、逃げられたはず) (そうしなかったのは、恐らく過去に『そうした』ことによって人を死に至らしめてしまったから) クマオル「強いように見えて、繊細な女だからな。気にしていない振りを装っているが、やはり罪悪感は拭えなかったか」 イヌダード「……よくも」 (体中の毛を逆立てて、ますます怒りをあらわにするマイダード) クマオル「しかし、警察が使えないとなると、どうする?人間の手を借りなければ、スラヴィを助け出すことは不可能だぞ」 ???「不本意ながら、私が協力しよう」 マイオル「!?」 (振り返ると、止まり木の上からこちらを見ている、金色の美しいカラスがいた) (もちろん彼も、籠の中に囚われの身ではある) イヌダード「ああ……確か、あの黒い雌のカラスの弟だっけ?」 クマオル「姉とは全く似ていないがな」 (先日男に買われていった、琥珀の瞳の雌カラス) (弟にべったりで他の動物と会話をしなかったため、買い手がついた際も弟以外は誰も悲しまなかった) カランカ「黙れ。私たちは、本来ならばお前たちのような雑種は口も利けぬ高貴な存在なのだ」 イヌダード(生ゴミや死体漁ってる奴が何を言ってるんだか……) カランカ「黒猫のことなどどうでも良いが、あの男の手から姉上を取り戻すため。一時なら力を貸してやってもいい」 イヌダード「で、何をしてくれるんだ?」 (体をもぞもぞと動かし、くちばしで羽根を二枚むしり取るカラス) (そのまま吹き矢のようにしてマイオルのケージまで飛ばす) (足下に落ちた金の羽根を、不思議そうに見る二匹) カランカ「この黄金の羽根を持って、『ルマニアルマニア、スリムなイケメンになーれ』と唱えろ。それで人間に変身できる」 イヌダード「本当だろうな」 クマオル「そんな便利な能力があるのなら、何故自分に使わない?」 カランカ「この力は、己には使えない。前世での行いが悪かったのでな……」 イヌダード「?」 クマオル「とにかく、やってみよう」 マイオル「「ルマニアルマニア、スリムなイケメンになーれ」」 (ボンッ) (二匹がいたケージが破裂する) (成人男性二人の容量に耐えられなくなったためだった) (柴犬は茶髪のポニーテール、細身で長身の青年の姿へ) (北極熊は色素の薄い短髪、逞しい体つきの精悍な男の姿へ) マイダード「ふうん、これが人間のおれか。ちょっと垂れ目だが、まあまあイケメンかな」 オルグァン「おれが求めていた理想の体だ。後は得物が欲しいが、取りあえず服がいるな」 (元が動物なので、当然のごとく全裸である) カランカ「そこまでは知らん、自分たちで調達しろ。あと、変身は24時間しか持たないぞ」 マイダード「なんだ、結構もつな」 オルグァン「しかし困ったな。外に出ようにも裸では……」 (くんくんと鼻を鳴らすマイダード) マイダード「店長の部屋に、服があるかも知れないぞ」 オルグァン「何だって?店長は独身のはずでは……」 (建物は店舗兼自宅となっている) (最奥部のマンスラムの部屋にこそこそと侵入する二匹) (古いクローゼットの中から男物のカジュアルを何着か発見する) マイダード「あった、あった。いるんだよな、同棲してた男の持ち物を、いつまでも捨てられない女って。おれの飼い主もそういう人だった」 オルグァン「さすが……」 (服も靴も、都合よくサイズはぴったり) マイダード「よし、これで準備は出来た。待ってろスラヴィ、今行くぞ!」 [*前] | [次#] ページ: |