鬱金の間 依頼先でのひとコマ


■セコム系男子


〜作戦会議中〜

(依頼先で与えられた立派な客間)
(机に街の周辺の地図を広げて、三人で額を突き合わせている)

マイダード「……ってわけで、川から迂回して攻めようと思う」
オルグァン「なるほど」
マイダード「地の利はこちらにある。後は、敵さんがうまくこっちの罠に嵌まってくれれば……」
スラヴィ「……」
マイダード「スラヴィ、聞いてるか?」

(問われて、火照った顔を上げるスラヴィ)

スラヴィ「……あ、何だって?」
オルグァン「迂回して攻めようって話だ。お前が先陣を切るんだから、ちゃんと聞いておけ」
スラヴィ「……うん……」

(しばらくして、席を立ち上がるスラヴィ)

スラヴィ「ごめん、ちょっとお花摘んでくる。すぐ戻るから二人で進めてて」
マイダード「わかった」
オルグァン「同上」

(よろよろと出て行くスラヴィ)
(扉が閉まった後、ぽつりと呟くマイダード)

マイダード「……今回は少し早かったな」
オルグァン「前回ほど重くはなさそうだが」

未羽「……ねえ、あなたたちが本格的に気持ち悪いんだけど……?」

(心底不気味そうな顔で突っ込みを入れる未羽)
(それを冷静に見返すマイオル)

マイダード「スラヴィが教えてくれたんだぞ」
オルグァン「野宿やら何やらで一年以上一緒に居れば、嫌でもわかる」
未羽「そう……」
オルグァン「人の体質は、様々だ。雨が降ると頭痛がする者、日差しを浴びると肌が痒くなる者、花粉を吸うと鼻水が止まらなくなる者」
未羽「……」
オルグァン「チームを組んでいるのだから、仲間の体調を把握しておくのは当然だろう」
未羽「まあ、言ってることは正しいんだけどね。何かしら、この素直に頷けない気持ちは」

マイダード「それにしても遅いな。おれ、様子見てくる」
未羽「まだ13行しか経ってないんだけど!?」


〜トイレの前〜

(扉から緩慢な動作で出てくるスラヴィ)
(秒で駆け寄り支えるマイダード)

マイダード「大丈夫か?」
スラヴィ「うん……。薬があんまり効かなくて」
マイダード「大変だな。いま、未羽が紅茶淹れてるから、温かくして」
スラヴィ「迷惑かけて悪いわね」
マイダード「いや、スラヴィはむしろやりやすい方なんだよ。体調の悪くなる時期が、予めわかってるわけだから、いくらでも対処のしようがある」
スラヴィ「……」
マイダード「天候に左右される奴とか、食べ物で発症する奴とか、時間を守らない奴と組むことに比べたら、よっぽど作戦が立てやすい」
スラヴィ「そういう考え方もあるか………」

(しかめっ面で呟くスラヴィ、あまり軽口を叩く余裕はない様子)

マイダード「というわけで、さっきの作戦甲は忘れてくれ。オルグァンが先陣を切る、作戦乙に切り替えよう」
スラヴィ「平気よ、動いてれば収まるわ。これ以上足手まといになるわけには……」
マイダード「そう思うなら、ひとつ協力してくれないか?」
スラヴィ「?」


〜町長の部屋〜

(揃って押しかけるマイスラオル)

町長「浮城の皆様、昨夜はよくお休みになれましたか?」
マイダード「おかげさんで」
町長「そちらの大人しげな女性は、お体の具合が良くないようですが……?」

(マイダードの背後で伏し目がちなスラヴィを気遣う町長)

マイダード「気にしないでくれ。それより、妖鬼たちを迎え撃つ作戦についてなんだが」
オルグァン「町の中心に最も近い三つ目の罠に、見張りが必要だ」
町長「はあ……見張り……」
オルグァン「町民の中から、誰か一人引き受けて欲しい」
町長「ええっ!?」

オルグァン「何だ。金だけ払って、普段通りの生活をしていれば、自動的に魔性が消えてくれるとでも思っていたのか」
マイダード「戦えない者はそれなりに、協力する姿勢を見せてもらいたい」
町長「し、しかし、そんな危険な事、了承する者がいるとは思えません……」
マイダード「三つ目の罠が突破される頃には、どのみちおれたちも生きちゃいないさ」
町長「それなら、尚更。この町は女と年寄りが多く……」
マイダード「あんたがいるじゃないか」

(三十代半ばほどの働き盛りに見える町長は、ぶるぶると首を横に振る)

町長「わ、私は、先日父から町長を引き継いだばかりなのです!父は、魔性騒ぎで精神的に疲労し、寝込んでおりまして」
マイダード「親子揃って腰抜けだな(そうですか、それは一大事だ)」
オルグァン「マイダード、本音と建て前が逆だぞ」
マイダード「そうなると、やはりお前が一つ目の罠を引き受けてもらわないとな、スラヴィ」
スラヴィ「わたしが……?」

町長「え……一つ目?三つ目ではなく?」
オルグァン「そう、最も危険な役目だ」
マイダード「お前が一番下っ端だろ」
オルグァン「町長が嫌だと言っている以上、繰り上げでお前がやるしかあるまい」
スラヴィ「わかったわ、やってみる……」

(悲しそうな顔で俯くスラヴィ)

町長「……」


(複雑な表情で部屋を出る町長)
(廊下でマイスラオルが言い争っている)

マイダード「どうしてこんな時に体調を崩すんだ?」
スラヴィ「……」
オルグァン「破妖剣士としての自覚が足りない」
スラヴィ「ごめんなさい……」
マイダード「依頼人の前で恥をかいたじゃないか。お前には妖鬼の餌になってでも、役目を果たしてもらう」
オルグァン「ほら、さっさと歩け(ドンッ)」


(オルグァンに突き飛ばされ、よろめくスラヴィ)


町長「……」




〜数時間後〜

(町の外で妖鬼の咆哮)
(張っておいた罠が崩れる音)

マイダード「来たか」
オルグァン「ああ」

町長「ここは私どもが守ります!皆さんは先へ!」
マイダード「頼んだ」

(罠にかかった妖鬼たちを斬り捨てるオルグァン)
(ナイフで動きを封じるマイダード)
(スラヴィは後方支援)

マイダード「町長が引き受けてくれて良かったな」
オルグァン「そうだな。安心して戦える」
スラヴィ「ねえオルグァン、さっき本気で突き飛ばしてなかった?わたしのこと嫌いなの?」
オルグァン「気のせいだ。そんなことは全くない」
スラヴィ「ふーん……(ジト目)」



■暴食系女子

マイダード「そろそろスラヴィの暴食期か」
オルグァン「ああ」

未羽「……ねえ、あなたたちが本格的に気持ち悪(略)」
スラヴィ「あーお腹すいた!帰ったら食べるわよ、たくさん血を失った分、取り戻さないとね!」
未羽「スラヴィも、もう少し恥じらいを……」
マイダード「町長が祝宴を用意してくれてるらしいぞ」

(妖鬼たちを殲滅し、無事に戻ってきたマイスラオルを称える祝宴)
(広間で大量のご馳走が振る舞われる)
(袖まくりをし、どれから食べようかと気合いを入れるスラヴィ)
(すすす、と近寄っていく町長)

町長「スラヴィエーラ殿、大丈夫ですか?」
スラヴィエーラ「なにが?」

(マイダードたちが近くに居ないのを確認してから、口を開く町長)

町長「その……今のお仕事がお辛いなら、女性としての幸せを選ぶのも一つの道ではないかと」
スラヴィ「はあ」
町長「私も、都合よく独り身ですし。町の復興のために、浮城の方がいてくだされば……」

(照れながら言う町長を無視し、皿に大量の肉を盛るスラヴィ)
(がぶっと食いつく)
(一瞬で口の中に消える肉)

スラヴィ「おかわり、あります?」
町長「……」

(引いている町長)
(後ずさりしながら、厨房に追加の指示を出しに向かう)

オルグァン「忙しそうだな」
町長「い、いえ、とんでもない。あの……」
町長「スラヴィエーラ殿は、案外たくましい女性だったのですね」

(冷や汗をかいて告げる町長に、吹き出すマイオル)

オルグァン「そりゃそうだ」
マイダード「あいつはおれたちのリーダーだぞ」
町長「!?」



■氷結系男子

(浮城に帰る時間が迫っていた)
(ベッドで唸っているスラヴィ)

スラヴィ「うう……食べ過ぎて気持ち悪い」
マイダード「起きれそうか?迎えの馬車が来てるぞ」
未羽「しっかりして、スラヴィ」

オルグァン「身支度が遅れるなら、置いていく。自業自得だ」
マイダード「そう冷たいこと言うなよ」
オルグァン「おれはストレートに言っただけだ」
マイダード「氷が入ってるのはストレートとは言わないんだぞ」
オルグァン「……」

マイダード「旦那は飲まないからわからないか。スラヴィ、胃薬持ってこようか?」
スラヴィ「お願い」
未羽「私は出発を延ばしてもらってくる!」

(バタバタと出て行く二人)

スラヴィ「オルグァンは先に帰ってていいから……」

(言い終わる前に、スラヴィの額に手を当てるオルグァン)

スラヴィ「うわ、つめた……!」
オルグァン「……少しは気が紛れるだろう」

(仏頂面で告げるオルグァンに、微笑むスラヴィ)

スラヴィ「置いていくんじゃなかったの?」
オルグァン「今回のこれは、完全にお前の落ち度だ。次はない」
スラヴィ「ふふ……」

(横を向いて笑うスラヴィ)

スラヴィ「オルグァンって、時々お父さんみたい」
オルグァン「……」




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