鬱金の間 マイダードを本気で怒らせてしまうスラヴィ


(氷火との死闘を終えてしばらく後)
(疲労やら何やらで熱を出していたスラヴィだったが)
(ようやく一人で食事ができるほどに回復する)

スラヴィ「ふう……」
オルグァン「珍しいな、今日は一人か?」

(当然のようにスラヴィの向かいに座るオルグァン)
(スラヴィも特に何も言わない)

スラヴィ「うん……久々に喧嘩しちゃって」
オルグァン「お前らの通常運転だな」

(煮込み麺をすするオルグァン)

スラヴィ「でも、今回ばかりは本気で怒ってて……取り付くしまもないの」

(オルグァンの箸の動きが止まる)

オルグァン「怒った?あいつが?お前に?本気で!?」
スラヴィ「そんなに驚かなくてもいいでしょうが。確かに、いつもはわたしの方が怒りすぎの自覚はあるけど」
オルグァン「何をしでかした」
スラヴィ「わたしが伏せってる間、ずっと看病してくれてたんだけど、その時……」


マイダード『粥、作ったから』
スラヴィ『ありがとう……』
マイダード『いいって。他に何かして欲しいことあるか?』
スラヴィ『大丈夫』
マイダード『……早く元気になってくれよ。スラヴィが元気ないと、おれも調子出ないし』
スラヴィ『ん……』
マイダード『どうした?』

(急に胸を押さえ、激しく咳き込むスラヴィ)

マイダード『スラヴィ!?』
スラヴィ『ごほ、ごほっ……ごめん、マイダード。わたし、もう駄目かも』
マイダード『え……?』

(弱々しくマイダードの手を握るスラヴィ)

スラヴィ『今まで、本当にありがとう……感謝してる』
マイダード『何を、言って……?』

スラヴィ『わたしがいなくなっても、オルグァンと元気でやってね……』
マイダード『スラヴィ……?おい』
スラヴィ『さよなら……』

(そっと目を閉じるスラヴィ)

マイダード『スラヴィ……おい、嘘だろ!?おい!!』
スラヴィ『……』
マイダード『スラヴィっ!!!!』

スラヴィ『……ふふふ』
マイダード『!?』

(目を開いて笑うスラヴィ)

スラヴィ『なーんちゃって。びっくりした?』
マイダード『……』



スラヴィ「それから、怒って口きいてくれなくて……」
オルグァン「お前が悪い」
スラヴィ「言われなくてもわかってるわよ!!」
オルグァン「わかっているなら、さっさと謝ったらどうなんだ?」

(珍しく、スラヴィに対して手厳しいオルグァン)
(言葉同様、視線も冷たい)

スラヴィ「謝ったけど駄目よ、完全に無視されてる。あいつ、こじらせると長いから」
オルグァン「お前が悪い」
スラヴィ「二回も言わないで。ほんの冗談のつもりだったのに……いつもなら笑って許してくれるのに」
オルグァン「氷火戦で死ぬ思いをした直後だ、あいつも気が立ってたんだろう」
スラヴィ「でも、本当に死んでるかどうかぐらい、脈拍や呼吸でわかるでしょう!?」
オルグァン「あれがスラヴィのこととなると冷静な判断力を失うのは、これまで散々見てきたはずだが?」
スラヴィ「……そうね」
オルグァン「お前のしたことは、ある意味モラハラに近い」
スラヴィ「藻羅破羅?何それ」
オルグァン「おれにもわからん。たった今頭に浮かんだ」
スラヴィ「?」
オルグァン「とにかく、当人に拒否されているならしばらく離れて、頭を冷やすことだな」
スラヴィ「……わかった」
オルグァン「会話ができない状態に、あいつがそう耐えられるとは思えん。もって三日かそこらだろう」
スラヴィ「だといいけど……」


(三日後)
(書庫でマイダードと鉢合わせるスラヴィ)

スラヴィ「あ、マイ……」
マイダード「………」
スラヴィ「待って!ごめん、わたし……」
マイダード「………」
スラヴィ「!」

(冷たい目に、体が竦む)
(ぷい、と背中を向けて棚の向こうに歩き出すマイダード)
(追いかけようとするが、オルグァンの言葉を思い出し、踏みとどまるスラヴィ)

スラヴィ「なによ……」
スラヴィ「何が、三日かそこら、よ」
スラヴィ「わたしと話さなくても、案外平気なんじゃない……」



(パタン)
(書庫の扉を閉めた後、その場にしゃがむマイダード)


マイダード「……あー」
マイダード「可愛い、無理……」

(両手で髪をわしゃわしゃして悶えている)
(そこに、覆い被さるように現れるオルグァンの影)
(呆れた表情)

オルグァン「馬鹿か?」
オルグァン「いつまでも意地を張ってないで、さっさと許してやれ」

マイダード「意地なんて張ってない。ただ、必死で謝ってくるのが可愛くて、つい、な」
オルグァン「わからんでもないが……」
マイダード「だろ?」
マイダード「おれが主導権を握れることなんて滅多にないんだし、もう二、三日くらいは楽しみた……」


(バァン!!)
(書庫の扉が再び開き、スラヴィが現れる)
(バキグシャッと嫌な音)
(壁と扉の間に、思い切り挟まれるマイダード)


スラヴィ「オルグァン、ここにいたの。一緒にご飯いかない?」
オルグァン「ああ」

マイダード「ス、スラ……」
スラヴィ「あれマイダード、どうしたの?」
マイダード「……おれは、もう駄目だ。旦那と仲良く……」
スラヴィ「わかったわ。行きましょう、オルグァン」
オルグァン「ああ」
マイダード「」

スラヴィ「今日は何食べる?」
オルグァン「五目煮込み麺」
スラヴィ「毎日それじゃない。よく飽きないわね」
オルグァン「お前は、おれと毎日話してて飽きないのか?」
スラヴィ「それもそうね」
オルスラ「「キャッキャウフフフフ」」
マイダード「」



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